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帰宅その①
◇
「ただいま」
魔緒は玄関の扉を開いた。どうやら帰宅したらしい。
「……ん?」
靴を脱ごうとして、違和感を覚えた。玄関に、見覚えのない靴があるのだ。小さな革靴で、サイズは22センチくらいだろうか。因みに、この家の者で最も靴のサイズが小さいのは魔緒の母親で、24センチである。つまり、この靴は来客を示しているのだろう。
という所に思い至った辺りで、奥のほうから中年女性が姿を現した。
「あら、魔緒。もう帰ってたの?」
陰陽佳代子、魔緒の母親である。描写は面倒なので、読者自身の母親の姿を宛がうといい。もしくは、その辺の小母さんでもいい。そのくらい平凡な見た目だ。
「今日は帰るの早いって言ったはずなんだが」
「そう言えば、そんなことも言ってたような」
「聞いとけよ」
年のせいなのだろうか。いくつか知らないが。
「それより、あなたにお客さんよ」
「客?」
さっきの靴の持ち主だろう。
「リビングで待って貰ってるから、早く行きなさい」
「へいへい」