そういう年頃?
「やほ~、仁奈」
「あれ、お姉ちゃん?」
別荘に入った七海は、寝巻き姿のままで牛乳を飲んでいる仁奈と遭遇。
「仁奈、牛乳髭が出来てるわよ」
「えっ、ほんと!?」
服の袖で拭こうとするが、寝巻きが半袖だったために腕で拭いてしまった。
「もぅ、何やってんのよ」
七海はハンカチを取り出すと、仁奈の腕と口の周りを拭いていく。
「ほんと、相変わらずなんだから」
「そうかな?」
「そうよ」
まるで世話焼きな母親と、いつまで経っても成長しない娘のようだ。
「それはそうと、どうだった?」
「どうだったって?」
「だーかーらー、陰陽魔緒とはどうなったのかって訊いてるの」
「えっ……!?」
仁奈は言葉に詰まった。別に魔緒とは何もなかったのだが、咄嗟に返答できず、硬直してしまった。
「まさかもう、あんなことやこんなことまで……?」
そんな仁奈の様子を、七海は肯定と受け取ったようだ。
「……仁奈、大人の階段を上ったのね」
「?」
仁奈の頭上にはてなマーク。両者の認識が食い違っている模様。
「それならもう、陰陽魔緒は貴女に譲るわ。ええ、潔く諦めるわよ……」
「なんか、壮大な勘違いが起こっているようだが……」
そこでようやく魔緒の登場。
「陰陽魔緒」
七海は魔緒の肩に手を置くと、
「仁奈を、頼んだわよ」
涙を堪えるようにして、そう言った。
「絶対誤解してるだろ」
しかし彼に、その誤解を解く気はないようだ。
「というか楠川、さっさと着替えろよ」
「えっ?」
言われて初めて、仁奈は自分の格好に気づいたようだ。寝巻き姿。それも、暑さで着崩していた、だらしのない状態。胸元のボタンは二つも開けられ、ズボンもずり落ちかけている。
「……っ!」
咄嗟に、寝巻きの襟と裾を押さえる仁奈。
「何見てんのよ!?」
声を張り上げたのは、仁奈ではなく七海だった。
「別に見てないけどな」
実際、魔緒の視線は仁奈ではなく七海に向いていた。彼女と話しているのだから、当然と言えばそれまでだが。
とはいえ、仁奈にはそんなことなど関係なく、というか寧ろショックだったのか、
「……まおちんの」
顔を真っ赤にして、
「ばかぁーーーっ!」
叫びながら、部屋から飛び出ていった。
「……」
「……」
その後、仁奈の機嫌が直るまでに、数時間を要したとか何とか。