ありふれてない朝
◇
……夜が明け、日が昇りだした頃。
「ん?」
呼び鈴の鳴る音が聞こえたので、応対に出るため魔緒は入り口の扉を開ける。
「あら、陰陽魔緒じゃない。奇遇ね」
「……」
直後、入り口の扉が閉まった。
「ちょ、ちょっと閉めないでよ! 開けなさい! 開けなさいって!」
「……」
魔緒は、溜息混じりに扉を開ける。
「何で閉めるのよ!?」
「悪いな。自動ドアなんだ、家」
「自動のある民家なんて聞いたことないわよ!」
「相手が不審者だと判断したら、周囲の誰かに閉めさせるよう電波を送ってくる」
「要するに貴方が閉めたんでしょ!? てか何で私が不審者なのよ?」
「おっと、また電波が」
「閉めないでってば!」
ぜぇぜぇはぁはぁと、肩で息をする七海。
「自分から訪ねたくせに奇遇とか言う奴は、どう見ても不審だろ」
「何よ? この程度のジョークも分からないの?」
「で? 何か用かよ?」
七海は突っ込みたく気持ちをぐっと堪えて、それに答えることにした。
「貴方が仁奈と仲良くやってるって聞いて、私も混ぜてもらおうと思って♪」
「……」
またしても扉が閉まる。
「何で閉めるのよ!?」
「……ったく」
魔緒は三度扉を開ける。
「それで、何でここが分かった?」
「貴方の家に行ったからよ」
「住所知ってたのか?」
「調べたの」
「どうやって?」
「乙女の勘で♪」
バタン、と扉が閉まる。
「何度目よ!?」
「とっとと帰れ」
扉越しに聞こえる魔緒の声。しかし、七海がその程度で諦めるはずもなく。
「開けなさい! 開けなさいってば!」
叫びながら、扉を叩き始めた。
「開けて! 開けてよ!」
「うっさい」
すると突然、扉が素早く開いた。扉は外開きなので、近くにいた七海はそれに当たって吹き飛ばされる。
「きゃっ!」
地面の上を二三転がり、落ちていた石ころに頭を打ち付けた。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ……」
七海は起き上がり、出てきた魔緒を睨みつける。
「何で突然開けるのよ?」
「開けろって言ったのはそっちだろ?」
「お陰で頭打ったじゃない」
頭を摩り、出血していないか確認する七海。
「血は出てないみたいだけど、かなり痛かったわよ」
「石頭」
「うるさいわね……。女の子に瑕をつけたんだから、ちゃんと責任取りなさいよ?」
「取らない」
魔緒はそう言い残し、戻ろうとする。
「待ちなさい。女の子を傷物にして、責任も取らずにとんずらしようっての?」
「誤解を招くようなことを言うな。第一、血が出てないなら大したこと無いだろ」
「頭打ったのよ? 血が出てなくたって、脳に重大なダメージがあるかもしれないじゃない」
「だったら病院行け」
「貴方が治して。あの変な力使えばできるでしょ?」
「変な力言うな。魔術だっての」
「できるでしょ?」
「まあ、できなくもないが……」
「ならやってくれるわよね? はい決定」
「いや、俺はまだ」
「問答無用♪」
言うが早いか、七海は駆け出し、別荘の中へ入ってしまった。
「……まあいいか」
魔緒はそう呟き、別荘へ戻っていった。