ありふれてない夜
◇
……夜半。二人は既に寝静まっていた。そう、「二人」は。
「うにゃ~ぁ」
魔緒の体が起き上がる。魔緒の意識は覚醒していない。彼の体だけが、独りでに動き出したのだ。
「せめて、猫耳くらいは付けて欲しいのにゃ」
と思ったが、違った。どうやら、魔似耶が出てきただけのようだ。
「え~っと、猫耳は……っとにゃ」
魔緒の荷物を漁り、猫耳を取り出す魔似耶。というか、なくても動けるのなら必要ないと思うが。
「にゃ~、やっぱりこのほうが落ち着くのにゃ」
魔似耶は猫耳を装着し、一人和んでいる様子。やはり、ないと困るのだろうか。
「それにしても、魔緒にも困ったものにゃ。何の相談もなしに、こんな所まで……」
そうぼやきながら、部屋を出て行く魔似耶。どこへ行くつもりなのだろうか。
魔似耶は台所に入ると、ペットボトルに入った水を取り出した。
「うにゃ~、喉がカラカラなのにゃ」
単に、喉が渇いただけか。ペットボトルの蓋を取り、その縁に直接口をつける。
「んっんっ、ぷはぁ~!」
腰に手を当てながら、風呂上りの牛乳よろしく飲み干す。
「それにしても、暑いのにゃ」
そりゃそうだろう。現在気温は摂氏三十五度、湿度七十パーセントである。その上、長袖のパジャマを着ているのだから、暑くないほうがおかしい。
「魔緒が、氷の魔術とか使えたらいいのに……。まあ、無理だけどにゃ」
独り言を連発する魔似耶。これが普段の魔似耶なのだろうか。