面白い日常?
◇
……そんなこんなで、放課となった。
「じゃあね、まおちん」
今日の仁奈は、いつもより早めに教室を出ていった。もっとも、今日は授業がないので、それも当たり前なのだが。
「やけに帰るの早いな」
そんな仁奈を見送る魔緒。
「何よ、そんなにあの子のことが気になるの?」
七海がいつの間にか、魔緒の背後に立っていた。クラスが違うはずだが、いつの間に?
「いいだろ、別に」
「ふ~ん」
ニタニタと、嫌味な笑顔の七海。魔緒はそれを見て、顔を顰めた。
「お前まさか、妬いてるのか?」
「そうね。そんなとこかしら」
自惚れた質問だと思って訊いてみたら、肯定されてしまった。
「嫌がらせにも程があるぞ」
「あら、心外ね。私こう見えて、嘘は吐かない主義よ」
「だったら余計に質が悪い」
魔緒は嘆息を漏らす。どうも七海は、魔緒に好意を持っているようなのだ。だがしかし、当の魔緒は七海をよく思っていない。理由は不明だが、いつ先日「お前なんか大嫌い」宣言(署名、捺印済の誓約書付き)をしていたので、好意的に見ていないのは確かだろう。
「嘘は吐かない主義ついでに。私は陰陽魔緒に一生を捧げるつもりです」
「捧げなくていいから。もっと別の、素敵な誰に捧げてやってくれ」
「あら、貴方も十分素敵よ」
「……もうどうでもいい」
机に突っ伏せる魔緒。まともに相手をしても疲れるだけだと判断したようだ。
「じゃあ早速婚姻届を―――」
「性急過ぎるわ。人生を左右する決断を相手の承諾を得ずに勝手にするな。大体、俺はまだ十八になってないから結婚は無理だ」
「なら婚約」
「お断りだ」
いくら疲れているとは言え、そこまで話が進むと突っ込まずにはいられないようだ。というか、七海のキャラが崩壊しすぎな気もするが。
「だったら、仁奈と婚約しとく?」
「それもいらん」
「……マジで?」
七海もさすがに、相手が仁奈なら即答はないと思っていたようだ。
「いくらあいつの姉だからって、お前がどうこう言う問題じゃない。それに、婚姻が云々とかいうならまず憲法と民法を勉強しろ。憲法第二十四条第一項「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」とか、民法731条の婚姻適齢とか、民法737条の未成年者の婚姻についての父母の同意とかについてな」
「そこまで法律に詳しいとは思わなかったわ」
「どうしても法に触れることもするからな。とりあえず憲法、刑法、民法、刑事訴訟法、民事訴訟法、周辺自治体の条例くらいは網羅している」
「凄い努力ね……」
努力の方向が間違ってる気もするが。
「その流れで、「悪女の見分け方」シリーズと「しつこい女の躱し方」シリーズも読破してしまったがな」
「何そのシリーズ? ていうか、何で今言うの?」
「今の状況に合ってるからだ」
「どういう意味よ! 私がしつこい悪女だって言うの!?」
「オンラインRPGの称号風に言うと、「しつこい妄言女+α」が一番しっくり来るな」
「妄言!? 私の言うことそんなに妄言に聞こえるの? てか「+α」って何よ! そんな称号貰いたくないわ!」
「相手を指名するチャットで特定人物に適当な文字の羅列を1GBに渡って送信し続けた女キャラに与えられる幻の称号」
「長っ! 1GBって全角文字で五億文字はあるのよ! 送りきる前に相手がログアウトするわよ絶対! てか既に妄言ですらない!」
「その効果はパーティーメンバーに常時怪文書とデメリット効果を送りつけて味方の行動を阻害して更には嫌われてしまうという努力に見合わない残念なものだが」
「誰が使うのよその称号?」
「まあ、53.72106%は嘘だが」
「中途半端ね! どこからどこまでが嘘か分からないわ!」
ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、と息を切らした七海。突っ込み過ぎたのだろう。
「結構アレな内容もあったのに、よくついて来れたな」
魔緒は感心を通り越して、呆れてさえいるようだった。
「はぁ……。で、結局何の話だっけ?」
「知らん」
どうやら、都合の悪い話は忘れてくれたようだ。