無防備な子
「暑いぃ~……」
床の上で伸びている仁奈。先ほど、赤いキャミソールとデニムのショートパンツに着替えたのだが、それさえも汗だくになっている。
「まだそこ掃除してないんだが……」
一方魔緒は、水で濡らした雑巾を絞っていた。これから雑巾掛けをするようだ。
「だってぇ~、暑いんだもん」
「そんなら海にでも入ってろ」
ここは丁度、海の真正面だ。
「水着、持って来てないもん」
「着衣水泳」
魔緒は床を手当たり次第に拭きながらも、仁奈の相手を続けている。
「あれって結構、動きにくいんだよ?」
「我慢するんだな」
「どっちを?」
暑いのと着衣水泳、どちらをかということか。
「自分で選べ」
ふと気づけば、魔緒の手が止まっている。
「どうしたの?」
「退いてほしい」
仁奈と話している内に、床の殆どを拭き終えていたようだ。残すは、仁奈が転がっている辺りのみ。
「動くの面倒だよぉ~……」
「いいから、退いてくれ」
「やだ」
魔緒は溜息を吐くと、どこかへ行ってしまった。
「まおちん?」
と思ったら、すぐに戻ってきた。
「こいつをやるから、とっとと退いてくれ」
彼が持ってきたのは、氷のうだった。ビニール袋に氷水を入れただけの、簡単なものだが。
「わーい」
氷のう片手に、小躍りし出す仁奈。
「やれやれ」
魔緒はその隙に、雑巾掛けを終わらせる。
「ひゃ~、気持ちぃ~」
たった今魔緒が掃除した床に、寝転がる仁奈。額には、貰ったばかりの氷のうが当てられている。
「……他の部屋も掃除するか」
そして魔緒は、残った時間を別荘の掃除に費やしたのだった。