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普通の移動


  ◇


 ……翌日。



「忘れ物ない?」

「ねえよ」

 魔緒の母が、母親特有の鬱陶しさを発揮している。

「財布は持った? 着替えは?」

「全部持ったっての」

 魔緒はそれに、面倒臭そうに答える。

「向こうの鍵は? 携帯は? 夏休みの宿題は?」

「何も忘れてねえから安心しろっての」

 魔緒はそれに呆れつつ、仁奈の元へ歩いていく。

「もういいの?」

「ほっとけばいいさ」

 魔緒の母はまだ後ろで喚いているが、魔緒は気にしていないようだ。

「とっとと行くぞ」

「うん」

 二人は並んで歩く。差し当たりの目的地は駅。そこから電車に乗って、別荘へ向かう。



  ◇


 ……数時間後。



「……やっと、着いたね」

「そうだな」

 潮騒の響く中、二人は別荘に辿り着いた。夏の暑さと長時間移動のせいか、全身から汗が噴き出している。

「あぁ~、クーラーが恋しいよぉ」

「あ、クーラーねえわ」

「ええっ!?」

 夏が終わる頃の向日葵のように、萎れていく仁奈。余程ショックだったのだろう。

「くたばるなら、中に入ってからにしてくれ」

 そんな仁奈を引き摺って、魔緒は別荘に入った。

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