16/27
普通の移動
◇
……翌日。
「忘れ物ない?」
「ねえよ」
魔緒の母が、母親特有の鬱陶しさを発揮している。
「財布は持った? 着替えは?」
「全部持ったっての」
魔緒はそれに、面倒臭そうに答える。
「向こうの鍵は? 携帯は? 夏休みの宿題は?」
「何も忘れてねえから安心しろっての」
魔緒はそれに呆れつつ、仁奈の元へ歩いていく。
「もういいの?」
「ほっとけばいいさ」
魔緒の母はまだ後ろで喚いているが、魔緒は気にしていないようだ。
「とっとと行くぞ」
「うん」
二人は並んで歩く。差し当たりの目的地は駅。そこから電車に乗って、別荘へ向かう。
◇
……数時間後。
「……やっと、着いたね」
「そうだな」
潮騒の響く中、二人は別荘に辿り着いた。夏の暑さと長時間移動のせいか、全身から汗が噴き出している。
「あぁ~、クーラーが恋しいよぉ」
「あ、クーラーねえわ」
「ええっ!?」
夏が終わる頃の向日葵のように、萎れていく仁奈。余程ショックだったのだろう。
「くたばるなら、中に入ってからにしてくれ」
そんな仁奈を引き摺って、魔緒は別荘に入った。




