表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

帰宅その②


  ◇


 ……そして、二人一緒に帰宅。



「ただいま」

「おっ、いたいた」

 帰宅した二人を出迎えたのは、スーツ姿の青年だった。

「兄貴じゃねえか。どうしんだよ、こんな時間に?」

 どうやらこの青年、魔緒の兄らしい。この暑い夏に、スーツを着るとは……。見てるだけで暑苦しい。

「ほう、この子が例の……」

 魔緒の兄はそれには答えず、その隣にいた仁奈に目を向けた。

「こんにちは」

 仁奈は、ぺこりと一礼する。

「まあいいや。それより、ほらよ」

 青年は魔緒に向かって、何を放り投げた。

「何だよこれ?」

 それは鍵だった。何の変哲もない、キーホルダーさえ付いていない普通の鍵だ。隠し金庫の鍵だろうか?

「俺からのプレゼント。この近くにある海辺の別荘の鍵な」

「何でそんなもん……」

「おや、この心の篭ったプレゼントのありがたみが分からないと。そう言うことだな?」

「俺はただ、どういう意図でこいつを渡したのかを訊いているだけだ」

 なんか、険悪な雰囲気が……。

「ったく……。折角の夏休みなんだから、そこの彼女と行って来いよ、って意図で渡したんだよ」

「兄貴……」

 魔緒は一度、意味ありげに目を伏せ、再びそれを開くと、

「気障な上にチャラい」

 ずばりと言ってのけた。

「文句あるか!?」

「文句はないが、突っ込み所は山ほどある」

「相変わらず、可愛くねえな」

「兄貴に可愛がられても気色悪いだけだ」

 それから数分ほど、あーだこーだ言い合っていたが、それも直ぐに治まる。

「とにかく、折角お前らに特別旅行を進呈したんだ。俺を敬いながら、喜んで行くがいい」

「何様のつもりだ。仮に行くとしても、敬わないからな」

 魔緒の兄は、無言で家を出て行ってしまった。

「ねえ、大丈夫なの……?」

 仁奈が、心配そうに尋ねる。

「ん? ああ、あれか。心配するな。兄貴とはいつもあんな感じだ」

「そうなの?」

「物心ついた頃からな」

 長い間姉とは離れていた仁奈には、そういった長年の付き合いというものが、ピンと来ないのだろうか。この双子たちも似たようなものだと思うが。

「それよか、どうしたもんかな、これ」

 魔緒は、先ほど渡された鍵を眺める。彼の兄は、近くにある海辺の別荘の鍵だと言っていたが。

「おい、どうする?」

「どうするって言われても……」

 そんなもの、「行く」か「行かない」の二択しかないだろう。

「そんなに遠くないし、気分転換くらいにはなるが。行くとなれば準備もしなきゃならないし、食事も自炊になるけどな」

 結局、魔緒には意見というものがないのか。単なる思考放棄なのかもしれない。

「う~ん……」

 唸る仁奈。確かに、魔緒と二人っきりで小旅行に洒落込むのも悪くない。寧ろ、是非そうしたいくらいだ。しかし今だって、彼の家にお泊りしているのだ。それで十分ではないか。そもそも、自分は家出してきたのではないのか。そんなことをしていていいのか。……といった葛藤をしているのだろう。

「保留してもいいが、夕方には決めてくれよ」

 さてさて、どうなるのやら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ