ありふれた潜入?
◇
……そんなこんなで、仁奈の家の前までやって来た二人。
「で、部屋の場所はどこだ?」
「えっとね、あそこ」
仁奈は二階の窓を指差す。
「よし。そんじゃ、入るとするか」
「どうやって?」
「どうやって、って」
魔緒は、正面玄関の扉に手を掛けた。
「さすがに、よじ登る訳にはいかないからな。普通に入り口から入る」
「見つかっちゃうよ?」
「安心しろ。魔術で隠れてる」
魔緒はまったく躊躇せずに扉を開き、仁奈をそこへ引き入れる。
「靴はちゃんと持ってけよ。見つかったらばれるから」
「うん」
「後、音は話し声くらいしか消せないから、物音立てるなよ」
兎にも角にも、仁奈の家に侵入した。
「ほら、手早くな」
「はーい」
魔緒は仁奈を彼女の自室に引き入れた。彼自身は廊下で待っている。一応、彼女に配慮したのだろう。
「えーと、これとこれと、後これも……」
箪笥の服を、鞄に次々と突っ込んでいく。そこでふと、思ったことがあった。
(私まるで、家出しようとしてるみたい)
実際、保護者に無断で友人の家に泊り込めば、家出みたいなもんだろう。
(そういえば、家出なんて、したことなかったなあ)
彼女は最近まで、親戚の元を転々としていた。それ故、だろうか。
「でも、何で今は……?」
それは恐らく、魔緒という友人が出来たからだろう。彼の存在が、仁奈を大きく支えているのかもしれない。
「……って、そんなこと考えてる場合じゃなかった」
仁奈は慌てて思考を中断し、作業を再開した。
「終わったか?」
「うん」
着替えは詰め終わったようだ。
「じゃあ、ずらかるぞ」
彼らは並んで、出口へと向かった。




