平穏な日常
時が過ぎ、季節が巡る。
始まりの春は、新緑の夏となった。
生命がより一層活発となる季節。
件の彼らは、どうしているのだろうか。
◇◇◇
七月の中旬。ここ「板橋学園」の生徒は皆、翌日に控えた夏休みが待ち遠しいようだ。言うまでもなく、それは彼らも同じである。
「ねーねー、まおちん。夏休みどうする?」
彼女は楠川仁奈。この学園の一年生だ。艶やかな黒髪を右側に纏めた、サイドポニーが印象的な少女。どこか幼さが残るその顔には、眩いばかりの笑顔が浮かんでいる。
「まず宿題だな。宿題を終わらせる。後はバイトで金を稼いで、今後のために貯蓄する」
彼の名は陰陽魔緒。同じく一年生だ。すらっと細長い体躯と白髪の短髪、真紅の瞳が一際目を引く少年。実は魔術師であり、猫田魔似耶という少女の人格を持っている稀有な存在。その辺りは、「三叉路ROAD1」を参照してくれればありがたい。
「とてもまともで面白味のない夏休みの過ごし方ね」
そして彼女が清田七海。言うまでもなく一年生。仁奈の双子の姉だが、髪が左側で結わえてあることや、目付きがやや鋭い所が彼女とは異なる。何故姉妹なのに名字が違うのかという疑問も、「三叉路ROAD1」を参照してくれれば幸いだ。
「えー? そんなのつまんないよ」
「夏休みなんてのは宿題地獄だからな。厄介ごとは潰しとくに限る」
「それもそうかも」
わいわいがやがや。いつの日の教室であったとしても、必ず見られる光景だ。とても微笑ましく、平和な世界。世の中の血生臭い話など、この空間ではまったくの無縁である。