共同戦線を張れ (2)
※秋空視点です。
ハァ、と、深い溜息が口から漏れたけど、それも仕方ない。今頃、部活に励むかクラスに貢献するかのどちらかだったはずなのに。
それなのに。自分には一生縁のないと思っていた聖城学園の校門を潜り、尚且つ会議室という名のだだっ広い部屋の隅にある椅子へと腰を下ろしている。私の周りには金城の面々が座っているし、実行委員メンバーって言っても、その中でも平扱い。あまりプレッシャーはないはずなんだけど。
うん。プレッシャーはまったくない。ここに来るまでの間も不躾な視線をものすっごく向けられたけど、自分でも驚くほどまったくなかったりする。あぁ、うん。自分って神経図太いなぁ、なんて今更な事を再確認してたんだけどね。
キョロキョロと辺りを見回してみれば、金城よりもかなり広い会議室。壁に貼ってあるのは進学校らしい真面目な掲示物。金城とはまったく違うわー、っていうのも今更な事。
「アキ」
「んー。暇で」
玲奈から、静かな声音で名前を呼ばれたんだけど。この短い言葉に込められた意味は、静かにしなさい、と。キョロキョロしないって事。
けれど正直に言えば、仕方ないなっていう感じで苦笑を浮かべられた。ふわり、と微笑むような微笑。眼福眼福ー。見慣れてるけどね。見慣れてるけど、やっぱ美人さんが微笑むと眼福なんだよね。
「大丈夫よ。短時間で終わらせましょう。見世物になるのは好きじゃないの」
「……大丈夫?」
「えぇ」
なんていうか、玲奈らしいんだけどね。金城っていうのもあるけど、玲奈ってば美人だから、ジロンジロンと無遠慮なほどに視線が送られてきちゃったりもするんだけど。本人も慣れてはいるんだろうけど、常にだからちょっと疲れたのかなぁ。
ある意味引き立て役の私もいるしねー。尚更美人が引き立つっていうかね。
そんな事を考えてた私の頬を、玲奈が頬を引き攣らせながら引っ張ってくる。大体、こういう事を考えた時は何かしらやられるんだけど。
今回は頬を引っ張る事だったみたい。
「何を考えてるのかしら?」
「ふわんごごごご」
「何を言ってるかわからないわよ?」
「ほほ」
「ぷにぷにしてるわねぇ」
何だこの羞恥プレイは。
聖城の実行委員の面々が入ってきた後も、玲奈のお仕置きの手は止まらず。しかもぷにぷにとか! 密かに気にしてるぷにぷにを!
ぅぅぅううう。と小さな唸り声をあげていたら、ものすっごく凝視されてる事に気づいた。視線が突き刺さるというか。この視線に気づかない程私は鈍くはないよ? 流石にね。
玲奈の羞恥プレイに耐えながらも、目線だけを動かして突き刺さる視線の元を見てみれば……。
義弟君がいた。
いちゃったよ? 義弟君?
玲奈さーん。
助けを求めるような色を瞳に宿してみれば、玲奈がさっと、何事もなかったかのように手を離してくれた。と同時に、私の視線の先を追った後――にこりと、華やかな笑顔を浮かべてみせる。
……。
玲奈の友人の私だから言える。
これは、百パーセント外面だって事が。
慣れてる私から言わせてみれば、背筋が寒くなりそうなぐらいの白々しい笑顔。
「あら。初顔合わせね。前にお邪魔した時は会えなかったし。彼が、メンバーなら話しが早いわ」
好戦的な笑み――知らない人が見れば美人の微笑――を浮かべ、玲奈は姿勢を正す。その影に隠れるように、こっそりと存在感を消す私。
話し合いには参加しますよ?
しないと玲奈が怖いからね!
けど、こういう時は存在感を消して空気になるのよ!とばかりに、玲奈の影に隠れて様子を伺う。とりあえず情報を集めないとね。義弟君以外は知らないし。寧ろ義弟君も知らないけどね。
何かさっきからチランチランと私の方を見てるっぽいんだけど、それらは全て玲奈に阻まれたりなんかしたりしてね。私に届く事はなかった。
ちなみに、実行委員のメンバーは学年毎から各三名。二年からは、私と玲奈と、隣のクラスの城崎 譲君が参加してたりする。城崎君も玲奈と同様大変素晴らしく顔の良い方なんだけどね。
柔らかな髪質。色素の薄い髪は日に透けると金茶でね。瞳の色は青色っていうか、そのまんまハーフな人。笑顔は穏やかで優しげ。
多分、これも玲奈と同様に聖城にもファンがいるんじゃないかなって思ってるけど……口を開くと結構残念な人だったりする。
同類の金城の面々はひかないけどね。
寧ろ同士よ!って叫べちゃう間柄だけどね?
なんていうか、無節操な人? あ…私と同類っぽいけど、決定的に違う事もあったりする。私は二次元においては無節操。胸を張って言えるけど、NLでもBLでもGLでも何でもオッケー。気に入ったものはドンとこいやーって感じ。
ソレは城崎君も同じ。男性向けでも女性向けのゲームでも漫画でも小説でも、自分が気に入ればドンドン読んじゃいますよーってね。
でも。決定的に違うのはね。
城崎君の場合は、それがリアルにも適応されるって事。
「……」
玲奈の肩口から城崎君を見てみれば。
「ん?」
にこっと微笑まれた。うん。眼福な笑顔。一年や三年の実行委員の面子も、個性派だけどね。多分金城を誇れる個性派揃いだけどね。
この言い方だと、自分も個性派に聞こえるからヤだなぁ。玲奈と一緒にいるから個性派に見えるのかなぁ。玲奈の個性は輝いているし。
「(ぅなっ)」
そんな事を考えてたら、玲奈からわき腹を小突かれた。ぉぉう。わき腹は弱いんだよ。擽ったいし。
「あーき?」
「何でもございませんよ。本当になんでもございません?」
「何で疑問系なんすか?」
語尾にはてなをつけてたら、玲奈じゃなくて右側から突っ込みが入った。そういえば君がいたね。
「……俺がいるの、気づいてなかったんですか? そりゃないでしょう。こんなに懐いてるってのに」
俺は悲しいです。何て言いながら、目元を右手の人差し指で拭うという寒い泣き真似を平然とやってのけるのは、一年の相田悟君。この子もゲームの趣味があってねー。よく話すんだ。
爽やかなサッカー少年っぽいんだけど、この子も所詮金城に染まりきった個性派。研究科書き物部の後輩でもある。
「はいはいはいはいはい」
「はいが多いですよ。アキ先輩」
「あらあら。貴方も実行委員のメンバーだったのね?」
今度は、左側から玲奈が突っ込んできた。私にじゃなくてね。悟君にね。玲奈って実行委員の副委員長じゃなかったっけ? 三年の一人が委員長。二年から副委員長。一年から二人のサポート。で、他の六人が実行部隊。だから玲奈が知らないはずはないんだけど…。
そんな私の疑問を他所に、何でか二人で寒々とした言葉の応酬を始めたりなんかしてね。間に私がいるもんだから、すごく居心地が悪いんだけどなんだろう。席替えてくれないかなぁって他のメンバーを見たんだけど、サッと視線を逸らされた。
………うちの力関係も分かりやすいね。
しみじみと呟いてると、別の箇所から視線を感じて顔を上げてみた。
「……玲奈。悟君。始めるみたいだよ。静かにしようね?」
多分聖城の実行委員長。始めたいんだけど?なんてあからさまな視線を向けてきてるのは別にいいんだけど。
こういう時、一方的な敵視って言う意味を理解したりなんかしちゃうんだよね。
「「……」」
私の言葉に、二人はごめんね、とばかりに回りに輝かしい笑顔と愛想を振りまく。そういえば悟君ももてるんだよね。可愛い顔してるし、将来有望株っぽいらしいし。
こうしてみると、金城って美男美女率が高いんだよね。
「先輩。これのお詫びに、後でジュース奢らせて下さい」
こそっと悟君が声をかけてきて。
「お詫びって別にいらな…」
「イチゴオレ。好きでしたよね?」
「好き」
「じゃ、イチゴオレで」
「うん」
イチゴオレの美味しさにあっさり完敗。
玲奈から冷ややかな眼差しを向けられてたけど……だってさ。イチゴオレ。美味しいんだよ??




