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番外編・後輩の憂鬱

 拍手掲載小話です。

 後輩、相田悟視点。




 研究科書き物部。

 そこで出会ったのは、物語に出てくるような黒縁眼鏡をかけた先輩だった。惜しむべきは三つ編みじゃなかった事だろうか。

 面倒そうに一つに纏められた髪は手入れ一つしてなさそうでいて、実際は枝毛一つない艶やかな髪だという事に大体の人間が気付かない勿体無い人。けれどそれ自体がその先輩のある意味策略で、厚めの眼鏡の奥底で笑うのだ。

 人間観察がし易くてねー。

 と、笑いながら視力2.0の伊達眼鏡で周りの人間を観察する事は決して怠らない。

 流石比良先輩の親友をやっていられるだけはあると、アキ先輩とよく喋るようになってからはしみじみと思ったさ。

 アキ先輩の親友である比良先輩は一般的に見て、華やかな大輪の薔薇を思わせるような人。その美人っぷりは金城だけには留まらずあの聖城ですらファンがついているという一般的な美人よりもワンランクも上らしいけど、皆見る目がないよなぁ、と俺からするとつっこみをいれたい先輩だ。

 だってあの人腹黒だし。

 気に入った人間しか愛でないし──この辺りはすっげー同感だけど。

 問題としては、比良先輩と俺で好みのタイプが似てるっていう事。金城に入ってからすっげー好きになったのはアキ先輩という比良先輩とは趣味被りまくり。

 始めは何かそれっぽい人がいるって認識で、話せば話す程なんつーか大好きって感じで、可愛い後輩のフリしてアキ先輩にはべったりしながら他を牽制したりとか。

 比良先輩が最強の矛なんていう性質の悪いモンやってるから、俺が牽制する必要なんてあんまりないんだけど。

 まぁ…兎に角、なんか鋭そうに見えて天然っぽい所とか鈍い所とか、開けっ広げな所とか全部表情に出ちゃう所とか。

 言い出したらキリがないけど、アキ先輩の全部がツボだという事に気付くのに時間はかからなかった。

 だから、適当に見学して終わらせるつもりだった書き物部をメインに籍を置いて、メインにするつもりだったゲーム関係の部を完全サブにするっていう結果になったわけだけど。





「………」


「…………」


 なんつーか、嫌な感じの沈黙が重なり合う。

 俺の目の前には比良先輩。アキ先輩にイチゴオレのお裾分けに来たっていうのに、別に会いたくもない比良先輩が俺の前に立ちふさがるのは勘弁してほしい。

 確かに美人だとは思うけど、それより何より同類嫌悪っていうのが先にくる。




「アキ先輩は不在ですか?」


「アキは聖城に行ってるわよ」


「聖城?」


 比良先輩が答えてくれるとは思っていなかったからちょっと驚いたけど、聖城に行ってるっていう方が驚きだった。

 一ヶ月前の文化祭で仲が良くなったのはわかるけど、態々昼休みに行く必要があるのかといえば無いだろうと思う。

 けど、目の前の比良先輩の意味ありげな笑み。

 俺の知らないアキ先輩の事情を知っているっていう余裕の微笑。

 すげー腹立たしい。

 誰だこの腹黒笑顔を天使の微笑何て言った野郎は。



「アキは義弟君に会いに行ってるわよ。お弁当を届けにね」


 珍しく珍しくあっさりと情報を提供してくれた比良先輩だったけど、それって俺に話していいのかとつい怪訝そうに眉を微かに吊り上げてしまう。

 勿論、それに気づかない比良先輩じゃない。


「相田君なら問題ないんじゃない? 他人事じゃないでしょうし」


「つまり、邪魔なヤツって事ですね」


「本来ならアキは、小日向になってるわね」


「へぇ。聖城の二年学年一位と同じ苗字って事は…」


 うわ。

 面白くねぇ。

 顔良し頭良し運動神経良しの三拍子揃った奴。

 それだけじゃ飽き足らず、アキ先輩と同じ屋根の下に暮らしてるってどんだけ贅沢なんだよ。


「そうそう。その義弟君だけど、初恋は雨の日の君らしいわよ」


「は? 何ですかそのお約束感たっぷりなネタ的なシチュエーションは」

 

 鼻先で笑い飛ばしそうになるが、そこで思い留まった自分を誉めてやりたい。あの比良先輩がアキ先輩にまったく関係のない話しをここでふるはずがない。


「ひょっとして…」


 カンカンカンと鳴り響く警報。

 額を流れ落ちる冷や汗。


「貰った傘のネームプレートには、秋空の名前」


 くすり、と薄い笑みを浮かべ微笑む比良先輩は、ホント悪魔に見えたね。常日頃そうだけど。

 しかし、完全に面白がってるよなぁ。っつーか、俺としてはまったく洒落にもならない事態なんだけどな。

 っつーか、アキ先輩に恋しちゃってて、そんでもってそんな初恋の相手と一緒に暮らしちゃってんのか?


「うわ。最悪。マジで最悪」


 俺の心からの本音に、比良先輩は満足気に頷いたりなんかしちゃっててさ。

 あぁ。この人とは一生合うことはないなー。

 と、心底俺が思ったのも無理はないだろうと思うね。






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