先王が大嫌いな赤身の肉を死ぬまで食べ続けた理由
数ある中から作品を選んでいただきありがとうございます!
王位を巡る争いが絶えない時代だった。
そんな時代には珍しく円満に王位を譲り、長生きをした先王がいた。
先王は王城の敷地に別棟を建てさせ、隠居した。現王も人格者であり、定期的に先王へ会いに来る。
ちょうど昼時に来てしまったので、早々に面会を切り上げ席を立つ現王。
その脇を料理が通過する。
ある皿を見て、現王が声を上げた。
「御父様、その歳でまだ赤身の肉をお召し上がるのですか?」
「あぁ」
皺は増えたが精悍な顔つきの先王からは表情は読み取れない。暖簾に腕押し。
現王が大きな溜息をついてみても、先王は素知らぬ顔。
「また来ます」と短く言葉を残すと、部屋を出たところで主治医に訊ねた。
「はい、アルヴェリオ様は、毎日、赤身の肉をお召し上がりになります」
現王の息を呑む音が静かに響いた。
「御父様はそんなに赤身の肉が好きだったのか?」
「いえ──」
* * *
部屋の中ではナイフで一口大に切った赤身の肉を、アルヴェリオは口に放り込んだ。
何度も咀嚼する。
「はぁ、この食感、肉から染み出る味、最悪だ。
なのに死んだメリンダはいつも『この肉が大好きだ』と喜んでいた。肉を頬張って『幸せ』と笑った、あの顔と言ったら⋯⋯」
ようやく飲み込むと喉に不快感が残る。
「うぅむ、喉を通るこの感触は最低だ。
なのにこの赤身の肉を食べているときが、一番君をよく思い出せるんだ」
眉間には深い皺が出来ていた。
それでもアルヴェリオは、もう一口だけ肉を噛みしめた。
お読みいただきありがとうございました。
大好きな味に残る大好きな思い出もいいですが、大嫌いな味に残る大好きな思い出もいいかなとも思い書きました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!




