第六話 恋してます
とっとと終わらせようと思うので、前書きや後書きの考えながら打つ項目をすっとばして、連投します。
で、完結にします。では、投下!
「おお? 今日は綺麗な格好じゃん。どこ行くのかな~」
ルリが突っ込む。
「ないしょ」
誰もがとりこになる微笑を浮かべるとセアラは部屋を出た。そのとたん人とぶつかった。
「ちょっと、前見て歩きなさいよ・・・ってぽんぽんセアラじゃない」
後半部分を挑戦的に言ったのはモトコ・モーガンだった。くるくるした巻き毛が年をさらに若く見せていた。いらだたしく髪の毛をはらう。
「ぽんぽん・・・って」
「そのとおりじゃない。いつもぽんぽんとんでみんなに迷惑かけているのはあなたよ。ルーク教官もはやくあなたをパイロットコースからはずしたらいいのにね」
「ねぇ。モトコ。どうして私をそんなにライバル視するの? パイロットコースで落ちこぼれの私なら別にライバル視する必要はないんじゃない?」
穏やかに言うセアラと反対にモトコはさらにいらだった。
「そういうところが嫌いなの!!」
そう言ってモトコは走り去っていった。
公園に行くとコールが待っていた。いつもここで待ちあわせる。日々のなにもかもがきらめいていた。冷静なセアラは舞い上がらないようにしていたがいつしか自然と舞い上がっていた。舞い上がって饒舌になるセアラをコールはにこにこと穏やかな笑顔で聞いていたのだった。
今日は喫茶店へと出向く。
今日のセアラはモトコのことを話した。コールは静かに聴いていたがやがて口を開いた。
「きっと自分だけが特別扱いだと思っていたんじゃないかな? そこへ18歳のセアラが来た。広い世界を見たんだよ。18でも軍人になれる世界なんだって。でもまだ自分のテリトリーから抜け出せない。その苛立ちがあるんだよ。で、最近のパイロットコースはどうだい?」
「ぜんぜんだめ」
言うなりセアラは両手を挙げた。
定位置に定まって止まるところまではマスターしたが前に行くとものすごいスピードで飛んでいってしまう。障害物を避けて通る講義もこれまた最悪だった。ごんごんぶつかって毎回、レーザー反射鏡磨きの厳罰を受けていた。
「もう。お仕置きされても動じないぐらいになっちゃったわ」
はぁ、とため息をついてセアラは言う。
ははは、とコールが笑う。
「それぐらい、肝が据わっているほうがいいんだよ」
「私、パイロットコースはだめかも・・・」
セアラは弱気な発言をほんの少しもらす。ルリたちには強情をはっているがコールのまでは何もかも素直になれた。セアラ自身素直なたちだから信頼を置いているコールには何でも話せた。
「何を言うんだよ。星を見たいんだろう? それならあきらめるべきじゃないよ」
コールが強く励ます。最近、コールには世話になってばかりだ。穴に入って出てこれないようになったらいいとも思ったがあいにくそんな穴はどこにもなかった。
「そうね・・・」
セアラはそう言ってレモンソーダーのストローに口を付けた。
「ステュアート! 厳罰に処す。レンズ磨きをしてろ。いったいいつになったらマスターできるんだ? 今度もお前のおかげで半分もこなせなかったのはわかるだろう? 自分の身の処しかたをそろそろ考えるように」
その言葉にセアラはうなだれていた顔を反射的に上げた。
「それはコースを変えろってことですか?」
「それは自分で決めることだ。シュミレーションでできても実際にできなければ意味がない。気合を入れなおすんだな」
「はい」
ケイティたちはその様子を遠巻きに見ていた。ルークが去るとセアラの周りにいっせいに集まる。
「またレンズ磨き? どうして実習になるとだめなの?」
「それは・・・わからないわ・・・」
少し沈んだ声でセアラは答える。
「今日は公園いけないかも・・・」
沈んだままセアラはまた掃除道具が詰まっている格納庫に足を運んだ。
「セアラ・・・来ないかと思ったよ」
公園でコールが振り向いていった。
「約束だもの。いつでも来るわ」
ややまだ先ほどの厳罰のショックを引きずりながらセアラは答える。
「また実習で怒られたんだね。セアラはなぜパイロットにこだわるんだい? 星ならなんの職業でも見れるじゃないか。そりゃあきらめるなとは言ったけれど、そんなにぼろぼろになってまでなるものかな?」
コールの問いにセアラはまっすぐ答える。
「自分の目で見て自分の手で宇宙をつかみたいの。パイロットになれば宇宙でひとりきりになるけれどその景色は私だけのもの。それがしたかったの・・・。でも今日。教官にコース変更を促されたわ」
セアラ、とコールは名前を呼ぶ。
「もしかして情報を全部見ようとしてないかい? 感覚をもっと信じていくといいよ。それこそセアラが感じたい宇宙を感じるんだよ。データなんて所詮ゼロとイチの羅列なんだから」
コールがそういうとセアラはぱっと顔を明るくした。
「感じる。そんなこと考えたことなかった。でもデーターを見てばかりじゃ見えるものも見えないわね。ありがとうコール! 私、きっとパイロットになるわ。明日から二泊三日の宇宙航行実習なの。ここにはこれないけれど待っていてね」
そう言ってセアラはコールのほほにそっとキスをする。
真っ赤になったコールはうれしそうに白い歯を見せた。
「その宇宙航行だけど・・・僕も行くんだ」
え?
セアラは驚く。
「ボクはパイロットデモンストレーションのメンバーに選ばれたんだよ。これで明日からも一緒だね」
「まぁ。すごいわ。コール。すごく優秀なパイロットだったのね。隠しているなんてひどいわ」
ほんの少しほほを膨らませたセアラのほほをコールはつついく。
「人間風船なんかにならないでボクのいとしいセアラとしてここにいてよ」
「わかったわ。今日はここで一緒にお日様を見てましょう」
「そうだね。明日からが楽しみだ」
ええ、とセアラは答えたのだった。
セアラたちパイロットコースを含めあらゆるコースのものたちが宇宙艦シェル号に乗り込んだ。これからワープ航行の体験をしてそこでパイロットのデモンストレーションを見るのだ。
ブリッジには成績優秀なものだけが呼び込まれた。セアラは実習はだめだがそのほかでは優秀なのでルークが不本意ながらメンバーに加えていた。もちろん、モトコ・モーガンは実力で入っている。セアラはブリッジでにらみつけられる二つの視線を受けながらも堂々と立っていた。社交界で身に着けた鉄壁の理性だ。どんな悪意にもセアラは対処できるように教育されていた。社交界は政治の舞台でもある。どんな悪事をみても動じないようにシンディによって徹底的に育てられていた。凛とした姿で立っているセアラを見てルークはさすがは社交界の華だな、と思っていた。その華が荒くれの中に入ってくるとは・・・。守ってやりたい・・・そんな想いが湧き上がってルークは自分自身が驚いた。セアラは一介の生徒だ。単なる生徒。これ以上の感情を持ってはいけない。ルークは生徒たちに声をかけた。
「これからワープ航行に入る。各自席について安全ベルトをしめておくように」
ブリッジにある宇宙を映し出していた画面にパネルが降りてくる。クルーたちがワープ航行の準備を始める。ルークが今回は艦長となる。ルークは艦長椅子に座ってワープに備えた。
「ワープ航行まであと30秒・・・20秒・・・10秒・・・987654321!」
クルーがカウントをすると体がぶれる感覚が襲ってきた。セアラにとってはなじみのある感覚だ。
「行き先のアンジェラ港まで時間はたっぷりある。その間に課題をこなしておくように」
ワープ航行が安全圏に入ったところでルークは生徒たちを振り返っていった。
ええ~!と 不満の声が上がる。
「これは遊びではない。実習だ。君たちは特に選ばれた学生たちだ。それなりのことはしてもらうつもりだ。不満があればメンバーからはずしてもいい」
ルークのひときわ冷たい声で一斉に生徒たちの不満の声は止まった。
「よし。各自自由行動せよ」
がたがたと生徒たちが移動する。セアラも移動しようとしたときモトコがすれ違った。
「せいぜい、シュミレーションをするのね」
むっとしたセアラだったが、ずばりといわれてしまったのでぐっとこらえた。そして課題をこなすべくシュミレーションルームに向った。たいていのクラスの生徒たちは課題はレポートなどであったがセアラの場合は特別にシュミレーションの特訓が待っていた。いつまでも足を引っ張っていてはいけない。セアラはシュミレーションルームに駆け込んだ。
そこに待っていたのはコールだった。
セアラは驚いて鉄壁の冷静心も吹き飛んでしまう。
「これからボクが君の教官だよ」
にこやかに言われてもセアラは驚くばかりだ。
「ルーク教官は知っているの? 私とあなたの関係を・・・」
いや、とルークは首を振る。
「知らないで決まったらしい。ルーク教官はその辺の方はうといからね」
コールの言い方にセアラはプッと噴出す。
「そうそう。リラックスして。これからシュミレーションをはじめるよ」
ええ、といってセアラは席に着いた。