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異世界転石  作者: 七田 遊穂
第2話 跳ねる石
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2-4

 ぼんやりと時が流れるに任せていると、時折、先生や勇者の声が聞こえる気がする。もちろん、空耳というか、空テレパシーだ。最近、だんだんと、そんな空テレパシーが増えてきた。何を話しているのかは、不明瞭で判然としない。もしかしたら、私も川底で削られて砂になりつつあるのかもしれない。石転生も、漸く終わりなのか。


 今も、空テレパシーが聞こえる。どんどん、ひどくなる。むしろ、うるさいくらいだ。これではちいと困るな。石の生活がこんなににぎやかでどうするんだ。ああ、もう、砂かもしれないが。何でも良いから、静かにしてくれー。


 誰にともなく文句を思ったら、世界中に光が溢れた。あれか、光あれ―というやつか。創造主が世界を創り出したのか。そんな下らないことを考えてしまうくらい、眩しい。石なのに視覚が得られたのだろうか。


 だが、そうではなかった。私は病院で意識を取り戻した人間になっていた。元の体に戻ったということである。死んでいなかった以上、転生は無いだろうし、あの異世界石転生は夢だったのだろうか。分からない。夢であったかどうかも、夢であってほしいかどうかも分からない。どちらでも良いような気がする。どちらであっても、ずいぶん長いこと現世を休んだものだ。と思ったけれど、実際にはさほど時間が流れていなかった。夢なんてそんなものか。


 私はそれから辛くも健康を取り戻したが、穴ぼこの中で仕事を続ける気になれず、職を辞した。そうなると、私のようなプロボッチが新しく職を得るのは難しい。道端で食べられる草でも摘んで、食費の一助とするしかない。幹線道路わきの排ガスまみれの草は流石に嫌なので、せめて河原沿いの草を摘みに行く。


 土手でクレソンやらノビルやらをひとしきり束にしてから、私は川岸に降りた。魚も釣れるといいのだが、釣りはしたことが無い。道具を買う金はない。石でぼかんとやれないものかな。そう考えて辺りを見回したら、やたらと水切りの上手い人がいた。投げるたびに、6、7回は跳ねる。こういうとき、コミュニケーションが得意なら「お上手ですね~、魚も獲れそうですね?」なんて言いながら近寄るのだろうが、私は石になっても不都合を感じないくらいのプロボッチである。そんな芸当はできない。


 黙ってしばらく眺めていたら、その人がちらりとこちらを見た。何か言いたそうに見えたが、向こうは向こうでシャイらしく、何も言わない。その人はそのまま、川辺の岩に座り込んだ。


 何故か私もそこに座りたくなったので、その人の横に並んで座った。悪くないな。そう思った。どうやら、向こうもそう思ったらしい。何となく、通じた。多分、石テレパシーだろう。

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