15-1
久しぶりに学生時代の友達数人と集まって、喫茶店へ。純喫茶?あんなとこ、私でも行かない。アメリカ資本のあれですよ。外のテーブルなら、多少話が盛り上がったって迷惑にならないしね。
ということで、私たちは時も忘れて会話に夢中になっていた。
「ホントにねー、野菜、高くて困る。」
「雨不足、日照不足、高温障害に、低温による育成の遅れ。つ・ね・に値上げする理由があるじゃん。どうなったら安くなってくれるってのさ。」
「ねー。」
「うち、ネギも根っこを水に漬けて再利用してる。鍋は無理でも、薬味程度にはなるし。」
コーヒー一杯で、何時間でもおしゃべりできちゃう。
けど、何だろう、急に眠気が。この面子でワイワイやってて眠くなるなんて、ありえないんだけど。昨日寝不足だったっけ。いかんいかん、次会えるのはいつになるか分からないんだから、目を覚まして、ほら。ああ、でも、ちょっとだけ目を閉じていたい。口と耳だけ動かしていよう。
「そうそうこないだもね、出たのよ、あれ。」
「あれ?」
「黒くて、光って、動きの素早い…。」
「G」
「え?じー?何それ。」
「ゴキでしょ。頭文字G。」
「ごき?違う違う。魔物、魔物。」
んん?魔物?ゴキブリをGと呼ぶのでさえ、もう連想が固定化されて、ダメなのかな。まあ、いいや、我らのおしゃべりは水の流れの如し。よく分からんこと、聞き取れなかったこと、さらりと流して次に進む。
「ほら、例の土地、狙ってんじゃないの。」
「え、どこどこ。」
「ほら、北東の方の、例の村の辺り。昔、ひどい事件があったじゃん。村民ほとんど皆殺し。内臓を食われて、死体は引きずられ、村中が血で赤く染まっていたという…。」
そんな事件、あったんだ。覚えてないけど、ひどいなあ。あの有名な巨大ヒグマかな。
「でも、犯人の魔物はすぐ退治されたんでしょ。亡くなった方をお弔いして、村も再建するって聞いたような。」
「だから、よ。だって、あそこの土地が欲しいから住民を根絶やしにしようとしたんでしょ。何かあるんだって。きっとまた攻めてくるよ。」
「えー。じゃあ、今住んでる人も逃げた方が良いじゃん。」
「それが、あっちの方じゃ最近はめっきり魔物が出ないんだって。油断しちゃだめだと思うけどさ。それが狙いかもしれないんだし。」
「ホントだよね。魔物なんて、何考えてるか分かんないもんね。」
「どうせ、ウマそーな人間だな、とかその程度でしょ。本能で襲ってくるんだから。知性なんかないって。」
「きゃー」
きゃー?よく分かんないけど、声を揃えておく。あの有名な巨大ヒグマの話なのであればきゃーだけど、ヒグマは人間を根絶やしにしたいと考えているわけじゃないだろうしなあ。でも、まあ、流れに逆らうのは得策ではない。適当に合いの手を入れて、参加、参加。
「もう、いい加減、勇者が何とかしてくれなきゃ困るよねえ。私たちだって、何のかんのと寄附金納めてるんだし。」
「もらった分働いてほしいよね。」
「魔物からどんどん土地を取り返せばいいのにさ、何やってんだろうねえ、勇者ってのは。」
「せいぜい、こっちが退治依頼した魔物をピンポイントで倒してくるくらいだよね、あいつらの働きって。」
「そりゃ、その程度でも助かるけどさ、根本解決にはならないっていうかさー。」
「そうそう。大体さ、ちょっと魔物退治したって、すぐ新しいのが涌いて出てくるじゃんね。もしかして、勇者って魔物と提携してんじゃないの?生かさず殺さず、適当に退治したふりして、私たちから謝礼金くすねて、裏では魔物と折半…なんて。」
「きゃー」
発想の腹黒さにきゃーだわ。こんなうがった見方する人、いたっけ。
「そう言えば、先生がおっしゃってたんだけど、魔物がうじゃうじゃ涌いて出るのって、魔物が植物みたいに樹になるかららしいよ。」
「えー、それはないでしょ。だって、私、ゴブリンのつがい見たことあるもん。」
「ご、ゴブリンのつがい…」
想像して、気持ち悪くなっちゃった。何それ。
「いや、でもね、ほら、聖地あるでしょ?我々地上の民が天上の神に与えらえし約束の地。」
「うん。でも、今や魔物の巣窟なんでしょ。」
「そうそう。そこよ、そこ。現・魔王城とその城下町。本来は、私たちの土地。あれを取り返さないと、魔物は根絶できないらしいの。何故ならそこに、その魔物の樹があるから。」
「なんでそんな所にそんな変なものが生えてるの。人間たちの聖地じゃないの?」
と、私は口を挟む。ちょっと流れに乗るのに遅れたけれど、大体の世界観は掴めた。と思う。何でこの面子でこんな話してるのかは、分からないけど。
「さあ、何でかしらねえ。人間への嫌がらせに植えたのかな?」
「そんな簡単に植えられるなら、あちこち世界中に植えちゃえば魔物だらけになって、人間なんてあっという間に滅ぼせるじゃないの。」
「苗が1本しかないとか。」
「あっ、魔物にとっても聖地なんじゃないの、そこ?パワースポットなんだって、きっと。そういう場所じゃないと、そういう妙な樹も育たなさそうだしさ。」
「それならなおさら、取り返したいよねえ。何で魔物なんかに独占されなきゃなんないのよ。」
「しかも、魔物製造工場ってことでしょ。良いことなしじゃん。」
「勇者、さっさと働けー!」
「さっさと魔王をぶったおせー!」
「働かないなら金返せー!」
「そーだそーだ!」
うーん、ちょっとこの波には乗れないなあ。私は少々引いてしまう。なんか、今日、みんな変じゃない?こんな話してなかったしさ。野菜の値段について愚痴言ってたんじゃなかった?