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異世界転石  作者: 七田 遊穂
第8話 死の石
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8-3

「私の家族?うーん、どうかなあ。」

「だめ?」

「ダメっていうか…石テレパシーが使えるかなあって。これ、魔王の基本技能なんだよ。」


 石テレパシーっていうのは、私みたいな石とおしゃべりする技のことらしい。確かに、石が声を出してお話しするわけないもんね。


「じゃあ、ダメかあ。」

「いや、待てよ、石テレパシーをみんなに覚えてもらえば役に立つかもしれない。石は世界中に転がっているから、各地の動向を探るのにうってつけだ。対人間の作戦を立てやすくなる。天候を知れば農耕にも役立つ。減災もできる。そうだ、情報は力だ。良い機会だな。幸い、石テレパシーは魔力を要しない。×××属や△△△属にも適用可能。今動かせる人員のうち習得させるには誰が適任か。それを指導者にして、樹形図的に下位にも拡散させる方式が良いな。となると、行動範囲の広い者が良いけれど…」


 まおちゃんがまた、ぶつぶつムツカシイ独り言を始めた。この子、たぶん、すごく頭が良いか、私よりずっと年上か、どっちかだと思う。私と話すときは、やさしい言葉に直してくれてるんだろうな。


 私がぼんやりしながらまおちゃんの独り言を聞き流していたら、突然まおちゃんが正気に返った。


「きみ、先生になってくれるかな?」

「えーっ。先生はまおちゃんでしょ。」


 私はびっくりした。だって、石テレパシーを使えるのは、まおちゃんだもん。私じゃないよ。まおちゃんがその力を使ってくれるから、私もそれでお話ができるだけだし。


 そう思ったのに、まおちゃんはうふうふと嬉しそうに笑って、私を先生にしてしまった。


 その日から早速、まおちゃんじゃないマ物が私のそばにやって来るようになった。最初のうちは、お互いに全然声が聞こえなくて、私には相手がそこにいるのかいないのかすら分からなかった。まおちゃんが通訳してくれてやっと、誰かがいることに気付く感じ。


「こんにちは、こんにちは!いいおてんきですね!」


 石テレパシーだから、声は出してないんだけど、気持ちとしては大声で怒鳴ってるつもり。今日は、鳥さんがいるはずなんだ。


「今日は雹が降って、屋根が穴ぼこだらけですよ!また直さなきゃ!」


 たぶん、鳥さんも怒鳴ってる、つもり。鳥さんは、本当は鳥じゃないらしい。コカトリスっていう生き物なんだって。まおちゃんと同じで、石が好きらしい。他にもいっぱい細かい特徴とかも教えてくれようとしたんだけど、よく分からなかった。テレパシーが伝わらなかったことにしたけど、パパが嫌いな「ギョーカイヨーゴ」か「ビジネスヨーゴ」がいっぱいだったんだと思う。そういうの、私に言われても、全然分かんないもん。


「ヒョウって、何?」

「氷の塊が降って来るんですよ。」

「痛そう。怪我した?大丈夫?」

「温泉に入って、治してきました。」


 こんな感じで、鳥さんは結構石テレパシーが通じやすい。でも、なかなか使えるようにならないマ物もいる。そういうときは、まおちゃんが他のマ物に交代してもらってるみたい。


「苦手なことを頑張るのも悪くはないけれど、得意なことを伸ばす方がもっといいからね。」


 とまおちゃんが言っていた。


「そうなのかな。」

「だって、得意で、好きなことなら、やってても楽しいでしょ。」


 そうかな。私、病気がひどくなる前は、お絵描きが好きだった。お絵描きなら、どんだけでもやっていられた。でも、字の書き取りは大嫌いで、全然進まなかった。だから、あんまり漢字は読めない。字もへたっぴ。苦手だけど、字の練習はしといた方が良かったような気がするけどなあ。でも、私は絵が大好きで得意だから、字より絵をやりましょうって言ってもらえたら、すごく頑張れてすごい絵が描けたかもしれない。うーん、苦手と得意と、どっちをやると良いなんだろうなあ。どっちもは、無理かなあ。


「どっちもできるなら、どっちもやればいいよ。でも、私たちは、今、そんなに余裕が無いからね。」

「お仕事やお勉強が忙しいの?」

「うーん…まあ、そういうことになるかなあ。」


 まおちゃんはこのとき、はっきり答えてくれなかった。けれど、まおちゃんたちに余裕がない理由は、それからすぐに私にも分かった。


 まおちゃんたちのあれちに、人間が攻めて来たんだ。


 あれちには毒ガスが出てる。でも、ガスが薄いところや、出ないところもある。風向きや地形で、危ない部分と、安全な部分ができるらしい。その、割と安全で暮らしやすいところに、人間が来た。あれちの辺りには鳥さんがいつも使ってる温泉があって、人間もそれが目当てらしい。


 温泉はいいぞ、元気になったら一緒に行こうな。とパパがよく言っていた。病気に効く温泉もあるんだそうだ。ママも、温泉は気持ちいいんだよーって、行きたそうにしていた。私も行ってみたかったけど、とりあえずパパとママだけでも行ってくればいいのにって思ってた。パパとママは私の付き添いで疲れてるから、まずは二人に元気を出してもらいたかったんだ。


 そんな温泉が出るなら、人間だってあれちに来たくなるよね。私は温泉に入ったことがないけど、その気持ちは、なんとなく分かる。だけどさ、マ物を追い出して、独り占めしようっていうのは、違うんじゃないかな。どうして、一緒に使わせて!って言えないんだろう。この辺の人間って、私やパパやママとは違う生き物なのかな。ここでは私の知ってるのとは言葉が違っていて、「マ物」が人間で、「人間」が怪獣ってことはないかな。


「さあ、それは分からないな。私は、きみの世界の人間を見たことがないから。でも、きみの話を聞く限りでは、そっちの人間とこっちの人間は同じな気がするよ。」

「そっかー。」

「ただ、私も人間のことをよく知らないからなあ。どうなんだろうねえ。」


 人間が攻めて来て、他のマ物は大忙しで石テレパシーの授業には誰も来ないのに、まおちゃんはのんびりしてる。良いのかな。マギ☆ピュアなら悪いやつと戦うのがお仕事だけど。大丈夫なのかなあ。鳥さんとか、他のマ物のみんなは、無事なのかあ。死んじゃったら、嫌だなあ。さみしいなあ。

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