表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転石  作者: 七田 遊穂
第6話 観る石
22/78

6-5

 性懲りもなくぴろんぴろんとステータスサーチをしていたら、見覚えのない珍しいものが引っかかってきた。


「魔王 Lv.8」


 あの石魔王ではない。別物だ。それにしても、魔王なのにレベル低いな。いやむしろ、魔王だから、なのか。スライムLv.100は、強くてもたかが知れている。凡人は天才に適わない。凡人が100努力しても、天才の1の努力に負ける。私はずっと負けてきた。ま、100も努力しちゃいないけどな。それに、魔王なら低レベルでもめちゃくちゃに強いスキルがあるのかもしれないぞ。


 どら、スキルも拝見させて頂こう。


「スキル:石テレパシー」


 なんじゃ、そりゃ。石魔王というのもいたし、この世界は石が大事なんだろうか。その割に、扱いがぞんざいな気がするのだが。私なんて、孤独勇者の死体と一緒に処理されてしまったぞ。


 他のスキルは無いんだろうか。魔王なのに。こう、ごあっ!と勇者をやっつけるようなすごい技があったりしないのか。これで魔王をやっていけるのだろうか。あ、そうか、やっていけないから、石魔王とか、対勇者用の魔王を配備しているのか。


 魔王も大変だな。どうやって魔王に就任したのか知らないが、会社の取締役とか理事みたいなもんかな。世襲もあるだろうけど、外部からも入れるんだろう。石魔王は実力を買われた外部組、この魔王は世襲のボンボンってところか。私なら、魔王なんて継ぎたくない。常に勇者どもから命を狙われるなんて、しかも、自分には石テレパシーなる非武装スキルしかないだなんて、やばすぎる。


 まあ、がんばれ。私は完全な外部からモブとして観察してやるから。背景の画素の一粒分くらいにはなってやるよ。


 この私の決意?が石テレパシーとやらで聞こえたのかどうか知らないが、その後も魔王はちょくちょく私の射程範囲に現れた。魔王に限らずいつものことだが、何をしているのかは知れない。勇者から逃げてきているのだろうか。ラスボスならラスボスらしく、泰然と構えて迎え撃てよ。責任から逃げるような社長は、働かないおじさん以上に要らない存在だぞ。


 この独り言も聞かれたのだろうか、私はそれから間もなくして、魔王城から移送されてしまった。多分。精鋭っぽい強力な魔物を一切サーチできなくなったので、魔王城ではなくなったと推測するしかない。誰がどこへこんな小石を持ち出したのかは、全く理解できないが。


 孤独勇者といい、今回私を動かした者といい、石魔王といい、みんな石好きだなあ。なに、この世界、石が主役?だとしても、主役が多すぎだ。あの石楽園の石がみな主役だったら、小学校の学芸会も顔負けのオールスター全員主役ではないか。タカラヅカのラインダンスが全員トップとも言える。あのブラジルのサンバの衣装みたいな羽根の光背が邪魔になること間違いなし。


 まあ、何でも良いけどさ。石が主役なわけがない。モブはモブ。漫画ならアシスタントのコピペ、深夜アニメなら顔もまともに書いてもらえない、下手したら半透明の灰色の塊で表現されるのが、モブ。私はいつでもそれで十分だ。主役になりたいと思ったのなんて、小学校低学年までのこと。もう、日の当たる道とか、人に注目されるとか、どうでもいい。無責任な立場から傍観して、身勝手な感想を呟くのが私の性には合っている。自分の程度の低さくらい、自分で理解している。


 さあて、魔王城を離れて、モブ王な私はいったいどこにいるのやら。周りにいるのは、どんなキャラだろう。


「ワイズマン Lv.23 スキル:呪言創生」


ああ、ここはまだ魔物の領域か。こいつは魔法に詳しそうな魔物だな。かと思うと、


「ノーム Lv.19 スキル:宝飾細工」


という職人っぽいのもいる。いろんな職業の魔物がいるということは、それなりに規模の大きな町に来たのかな。植物の種のように、気が付かぬうちに魔物の毛皮の中や肉球の隙間に入り込んで、ここまで運ばれてきたのかもしれない。そりゃそうだよな。子どもじゃあるまいし、外で小石を拾って、おうちの「だいじなもの箱」に入れておく奴が魔王城にいるわけがない。石大好き世界だなんて、考え過ぎだった。モブらしくもない、自分を中心視してしまうだなんて。いやあ、お恥ずかしい。てへぺろ。


 と、私が自省している間も、概ね私の身の回りには職人系と魔法系の魔物がうろうろしている。名前が分からないから定かではないが、同じ登場人物が繰り返し出てきているようだ。動けぬ石である私は一度どこかに置かれたら場面が固定されるので、不思議なことではない。マジックアイテムの工房とか、その手の場所なのだろう。どんなアイテムがあるのか知りたいけれど、生憎とごく普通の無生物だけで、転生組は見当たらない。よって、私のサーチ能力も発揮しようがない。残念だ。


 それにしても、ここはかなり大きな町らしい。最初の石楽園と一番違うのは、とにかく魔物が多いということだ。私のステータスサーチの射程は、おそらく3軒先程度が良いところのようだが、その範囲でも色々な魔物が通りかかる。この工房の従業員と同じく、一般市民っぽいのがほとんどだ。たまに、魔王城で見かけたような強そうなやつらが現れるので、物資の調達とか見回りかもしれない。


 そんな魔物たちを眺めていると、やっぱり、魔物も人間と同じような生活を送っているのだろうと思う。もちろん、もしかしたら、目で見てみたら、ここは火山のマグマがぐつぐつ煮えたぎっていたり、硫化水素がぶくぶく涌き出る沼地だったりするのかもしれないが。魔物たちのステータスだけで言えば、石楽園に入植してきた人間たちとさほど変わらない。きっと、笑ったり泣いたり、食べたり飲んだり、そういう風景も大差ないのだろうな。私に分かるのは簡易なステータスだけだが、そんな想像をする。


 勇者たちは、人間は、どうして魔物を倒そうとしているのだろう。魔王は何故、そんな勇者を撃退するだけで、予防線を張ったりしないのだろう。来る者は拒まず皆殺し、では、事態は改善しないんじゃないか。いや、まあ、私には分からないだけで、魔王も人間も恒久的な平和に向けてなにがしかの外交努力を重ねているのかもしれないが。でも、とりあえず、この魔物の町には魔物しかいない。人間と共存、という雰囲気ではなさそうだ。


 どこの世界も、多様性とか、共存とか、難しいんだろうな。まあ、そういうのは、非力なモブにはどうしようもないことだ。偉い人、力のある人にお任せして、流されるしかないさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ