6-4
そう思っていたのに、やがてまた私の縄張りに勇者が現れた。
「勇者 Lv.39 耐性:孤独」
随分強そうな勇者だ。だが、一人きりだ。そして、耐性に孤独とな。一匹狼的なやつだろうか。こいつが以前のパーティを組むとは思えないから、別人だろう。
この孤独勇者は、なかなか消え去らなかった。というか、ずっと私の縄張りにいる。そして、何故か私の周りにいたはずの石たちが、気が付くといなくなっていた。勇者が石を狙い撃ちして、殺して回ったのか。それなら、私もついでにやっちゃってくれ。と思ったけれど、多分、違うだろうな。モブ石を割ったところで経験値は稼げないだろうし、それならばこの高レベル勇者がそんな無駄手間をかけるとは思えない。
となると、どういうことだ。もしかして、勇者がきまぐれに私を拾って荷物に入れたのか。うーん、私が自分でステータスを開示できないだけで、実は私は火打石だったのかな。「スキル:火花」とか無いんだけど。
分からん。分からんけれど、孤独勇者は常に私のそばにある。
そして時折、私のサーチアンテナに魔物が引っかかる。私が石楽園で触れてきたような、まったりした奴らではない。実践的で、高レベルで、明らかに戦闘向きな感じだ。「サイクロプス Lv.38」とか「デスイーター Lv.41」とか。名前とスキルだけでは正体不明だが、雰囲気としてはラストダンジョンに出てきそう。きっと、魔王軍の精鋭だろう。だが、孤独勇者は辛くもそいつらを退け、勝利していく。
この勇者、かなり強い。いいぞ、がんばれ。いつの間にか、私は孤独勇者に肩入れし、応援するようになっていた。ついこの間までは、例の勇者パーティの暴虐ぶりに憤って、魔物に肩入れしていたのに。これだから日和見モブは、始末に負えないのである。
勇者がここまで強い魔物たちに立ち向かって、歩みを進めているということは、やはりここはラストダンジョンだろう。私のその推測が確信に変わったのは、私の射程範囲に、見覚えのあるやつが再登場したからだ。そう、八岐大蛇 Lv.54である。いや、今はLv.59になっている。随分、レベルアップしたものだ。こいつがラスボスなんじゃないのか。名前が魔王ではないけれど、ドラクエ1のラスボスは竜王だった。それのようなもんだろう。
いや、待て。他に何かいる。
「石魔王 Lv.1」
何だ、これ。一応、魔王だけど。私の同類だろうか。石も強くなると、魔王になれるのか。でも、動けやしないのに、どうやって。一応、スキルもサーチしてみるか。
そう思って実行しようとした途端、勇者の方に変化があった。
「勇者 Lv.52 瀕死」
えっ。何だ、急にどういうことだ?多分、八岐大蛇には何の変化もない。邪竜が進化した時みたいに、勇者も進化するのか?スーパーサイヤ人に目覚めるとか。確か、あれも瀕死からの大逆転だよな。魔王城で、魔王との死闘の最中、一旦大ピンチに陥るも、何らかの方法で逆転し、勝利を決める。王道ストーリではあるが、どうなのだろうか。おい、孤独勇者、頑張れよ。モブだけど、無責任だけど、お前のことだけは応援してるから。
ところがどっこい、モブの祈りは天に届かなかった。
「勇者 Lv.52 しに」
うわー、あっけない!何が起きてこうなったのか、全く分からない。八岐大蛇の攻撃のせいか、石魔王が何かしたのか、どちらなのかすら分からない。
あ、いや、分かるかも。石魔王のレベルがめっちゃ上がってる。ということは、石魔王が孤独勇者を倒したということだろう。
えー。魔王とは言え、Lv.1で、Lv.52の勇者をあっさり殺せるのか?いくら何でも、チートすぎやしないか。文句を言いたいけれど、言う術はなく、そして、私は急速に石魔王から遠ざけられてしまった。孤独勇者の遺体はまだ射程範囲にあるが、石魔王と八岐大蛇は最早サーチできない。
程なくして、孤独勇者も私のサーチに引っかからなくなった。私と引き離されたのか、遺体が土に還ったのか、それは分からない。ただ、この辺りで私のステータスサーチの網に掛かるのは強力な魔物ばかりだから、私が未だ魔王城らしき場所にいるのは確かだ。かつての石楽園と違って、どの魔物もみんな動きがきびきびしていて、私の縄張りからの出入りが激しい。私の先入観かもしれないが、職業軍人的な雰囲気を感じる。石楽園付近の一般市民的魔物は、のんびりまったり縄張りで過ごしてくれたのに。なんだか、落ち着かない。モブは周りの空気に感化されやすいのだ。ざわ、ざわ、とか効果音を発するのもモブだからな。
やはり、根っからのモブたる私にラストダンジョン永住は辛い。仕事が遅く、覚えも悪く、何の資格も取り柄もないお荷物おじさんサラリーマンが、いきなり外資系商社のマーケティング部門に配属されてしまったようなミスマッチだ。この例えならすぐに解雇されて、おじさんは外資系とサヨナラできるのだが、私はなかなか魔王城からサヨナラさせてもらえない。辛い。
それでもサーチを止められないのは、例によって例のごとく。だって、これをしなかったら今度は退屈地獄なのだから、しょうがない。




