表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転石  作者: 七田 遊穂
第6話 観る石
20/77

6-3

 そうやって自己嫌悪に陥ったりしているうちに、私の縄張りには人間が増えてきた。


「人間 Lv.3 スキル:伐採・木工」

「人間 Lv.2 スキル:耕作」

「人間 Lv.3 スキル:調理」


 その辺にいくらでもいる一般市民っぽい。私と同じモブクラスに違いない。レベルが1じゃないのは、虫とか魚とか殺しても経験値が手に入るってことか。


 さっきから私の縄張りなんて言っているが、この辺りはきっと元は魔物側の領土だったんだろう。それを、勇者パーティが見事に魔物を退治して、追っ払って、人間の住める土地にしたに違いない。地球の人間同士でもよくやる領土争いだ。人間同士と違うのは、きっと、魔物はいくら殺しても問題なしとされていることなんだろうな。殺せば殺すほど、駆逐すればするほど、正義になる。もっともらしい大義名分なしに虐殺可能。ひどいもんだ。


 ひどいけど、もし仮に、ドラゴンとか出てきてこの入植者たちを焼き尽くしたら、それはそれで気の毒だ。だって、ほら、「人間 Lv.2 スキル:家事・育児」もいる。「スキル:おみせやさんごっこ」もいる。小さい子と、それを育てる人がいるのだ。蕎麦打ちノームみたいなじいさんだっているだろう。その人たちは、何もしていない。


 何もしていないと言ったら語弊はあるか。知らん顔して、当たり前のような顔をして、魔物が住んでいた場所を奪って自分の幸せを築いているんだから。


 だからと言って、アブラムシ潰すみたいにぷちぷちぶっ殺して良いかといったら、そうでもないんじゃないか。


 柄にもなく、そんなことをグダグダ考えていたら、モブの杞憂などふっとっばしてくれる存在が唐突に出現した。


「邪竜 Lv.54 スキル:毒牙・魔爪・その他多数」


 その他多数には、炎ブレスっぽいのとか、何か呪うっぽいのとか、とにかく強そうなのがあれこれ入っている。こいつが一体いれば、人間を蹴散らすなんて造作もないだろう。


 魔王チームが巻き返しに来たのだろうか。もしかしたら、ここは魔物たちにとって大事な土地だったのかもしれない。こんな、今までとは桁違いに強そうな魔物を派遣してくるだなんて。


 魔物に土地が戻ればいいな、という思いと、人間たちが死んでしまうのは嫌だな、という思いがぐずぐずと両方にじみ出てくる。私がどちらを希望してもしなくても、結果に影響を与えることはできないのだが。見たくない、と思っても、ステータスサーチを続けてしまう。私のバカ野郎!


「邪竜 Lv.54 瀕死」


 あれ。


 突然出てきて、いきなりどうした。例の勇者パーティは、まだ現場に到着していない。おそらくだが、ふつうの人たちが右往左往しているだけだ。


「邪竜 Lv.54 進化中」


 何だ、何だ。何が起こった。


「八岐大蛇 Lv.54 」


 えっ、進化したの。生まれ変わったの。進化しても、レベルは1に戻らないんだな。便利。


 いやいや、そこじゃない。着目すべきはそこじゃないぞ、私。


 めちゃ強い魔物が突然現れて、いきなり死にかけて、すぐに進化して蘇った。今起こったのはそういうことだ。ということはやはり、ここは魔物にとって特別な場所なのではないか。人間がうかうかと近寄ったら、無事では済まされないんじゃないか。だって、邪竜Lv.54が一瞬で瀕死になるんだぞ?この地が本気出したら、人間なんて、進化どころか消し炭も残らないってことだ。


 いやはや、魔物たちもよくこの近辺に近付いていたなあ。危ないじゃないか。いや、小さい子もいたくらいだから、魔物はこの地の力を発動させる方法や呪文を知っていたのかもしれないな。バルスとか。


 何にせよ、八岐大蛇はすぐにぴゅーっと遠くに行ってしまった。進化さえ済めばこの地に用は無いらしい。だから、人間たちがオロチブレスとかで一網打尽になったりすることは無かった。ちょっと安心。


 と思ったら、少し様子がおかしい。


「人間 Lv.2 状態:畏怖」

「人間 Lv.4 状態:恐慌」

「人間 Lv.1 状態:パニック」


 ありゃりゃ。大混乱の様相だ。私に視覚は無いからどういう光景が広がっていたのか謎だが、こりゃあ、相当グロかったんじゃないか。


 しばらくすると、人間たちの数がどんどんと減り始めた。この辺りへの定住を諦めたようだ。諦めたどころか、近付きたくない、早く逃げたいという気持ちが表れている気がする。あっという間にステータスサーチに引っ掛かる人間はいなくなり、従前のごとく、物言わぬ石だらけになってしまった。


 そうなると、ぼちぼちと魔物が帰ってくる。ああ、こうして、人間サイドから見た不帰の沼だとか、呪いの森だとか、そういうダンジョンが形成されるのかもしれないな。噂に尾ひれも付いて、あそこはおっかない場所だから近付くな、と。


 まあ、それで魔物と人間の境界地帯が平和になるなら、それで良い気もする。私が眺めている限りでは、魔物側から人間側に攻め入っていく様子は無い。この間の勇者みたいに帝国主義的なやつらがのさばりさえしなければ、平穏無事な均衡が保たれるのだろう。そういえば、あの勇者パーティ、邪竜の騒ぎの時にはいなかったけど、どこに行ったんだろう。よそでまた侵略を繰り返しているのかな。あるいは、別の場所で他の魔物にやられたか。


 勇者の替えって、いるのだろうか。思い返してみると、石になって初期の頃、レベルの低い勇者に出会った。あれがあのパーティの勇者だったのだろうか。それとも、勇者とは何人もいるものなのか。あんな血も涙もない奴らがゴロゴロしていたら嫌だな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ