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異世界転石  作者: 七田 遊穂
第6話 観る石
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6-2

 何なんだろうなあ。いくらモブだって、扱いがひどすぎやしないか。すっかり腐りながら、習慣と化しているステータスサーチを繰り返す。


「勇者 Lv.2」


 おっ。何、これ。間違いなく、石ではない。勇者ならモブではないな。Lv.2って、随分初心者みたいだけど、まあこの先無双する展開かもしれないしな。


 その勇者は長居せず、割りとあっさりいなくなってしまった。「勇者 Lv.2 状態:死亡」とかじゃないので、死んだわけではないだろう。


 勇者がいるなら、私のいた現世ではなくてやはり異世界なのかな。小石やアブラムシや草では異世界感ゼロだが、勇者という職業は現代日本にはない。まあ、ちょっぴりアレな病気が深刻な方だと、そう思い込んでいることもあるかもしれないが、思い込みタイプの勇者ならきっと「学生 Lv.3 状態:中二病」とか表示されるだろう。


 そんなことを考えていたら、別の生き物が現れた。


「ハーピー Lv.5」


 おお、やっぱりじゃん!そういう世界なんだよ、ここは。


 ハーピーか。どんな感じだろう。魔法とか使えるのかな。私のイメージだと、弱めの攻撃魔法とか、誘惑系の魔法を使ってきそうなのだが。私のサーチ能力で分からないかな、分かりたいな。と、もう一度ステータスサーチの照準を当ててみる。


「ハーピー Lv.5 スキル:音波攻撃(弱)・ヒップホップ」


 何だ、ヒップホップって。いや、ヒップホップそのものは知っている。下手過ぎて音波攻撃になるということか?それとも、別の趣味?気になるけれど、このハーピーもすぐどこかへ行ってしまった。


 次に現れたのは、また魔物系だった。


「ノーム Lv.7 スキル:作陶・蕎麦打ち・渓流釣り」


 んん?定年後のおじさんか。スキルというか、趣味ではないのか、これ。いや、趣味が高じて技術の域まで達しているのか。それにしても、ああ、蕎麦食いたいな。イワナの塩焼きとかも、良いなあ。石だから腹は減らないしエネルギーも要らないけれど、ものを食っていた時の記憶は鮮明に残っているので、食事をしたい欲求は沸いてくる。人間ってのは罪深いな。


「ゴブリン Lv.3 スキル:お菓子作り(マカロン特化型)」


 カワイイお菓子を作るのが大好きな女子中学生あたりか。そのうちカップケーキとかも作りだすぞ、こいつ。そういえば、甘いものも食べたいぞ。何しろ、アブラムシだった直前世で、甘い汁吸い始めてすぐ殺されたからなあ。未練たらたらである。


「ホブゴブリン Lv.11 スキル:家事・育児」


 専業主婦か、専業主夫だろうか。ホブゴブリンでも、そういうのいるんだ。結構レベル高いな。子どもは大変そうだぞ、こりゃ。それにしても、家庭料理も食べたいな。肉じゃが、とろろごはん、きぬかつぎ、ポテトサラダ、コロッケ…芋ばっかりだな、自分。芋好きだったけどさ。


 って、さっきから私は食欲ばかり刺激されている。石のくせに。腹が減っているわけでもないのにあさましいぞ、と戒めてみたけれど、現れる魔物たちのスキルが身近な物ばかりで、人間だったころの生活をついつい想起してしまう。そうすると、どうしても食事が懐かしく思い出される。


 魔物たちは、人間と同じような暮らしをしているのだろうか。この世界では、人間と魔物が共存しているのかもしれないな。私は時折現れる魔物たちのスキルを眺めながら、のんびりと考えた。


 ところがどっこい、どうやらそうではないらしい。


 ある日、久方ぶりに人間サイドっぽいのがやってきた。


「勇者 Lv.15 スキル:剣術・炎魔法」

「魔法使い Lv.14 スキル:氷魔法・風魔法」

「治癒者 Lv.10 スキル:治癒魔法」

「遊び人 Lv.18 スキル:誘惑・洗脳」


 おお、ドラクエ3っぽい。治癒者ってのは、ドラクエなら僧侶か。遊び人はいるんだな。一番レベル高いけど、賢者にでもするつもりだろうか。いや、ドラクエ3と同じシステムかどうか知らないけど。でも、誘惑・洗脳というスキルからすると、精神攻撃特化型のジョブなのかもしれない。意外と強そうだ。


 こういうパーティがいるということは、やはり魔王が悪役で、人間が主人公だろうか。ほんわかした魔物たちを眺めていたので、違和感を覚える。魔物が主人公で、人間を倒すというストーリーというのもありうるな。何しろ、私に分かる程度のステータスでは、どちらが悪逆非道な存在か分からないのだ。


 などと考えていたら、横から魔物が出てきた。


「オーク Lv.1 スキル:おひめさまごっこ」


 むむ、こやつ、幼稚園児か。ちょっと、待った。こんなの、あの勇者パーティの相手にもなりゃしないだろう。いくら魔物だからって、こんな幼気な子どもを殺すだなんて、あんまりじゃないのか。


 そう思っていたら、すぐにこうなった。


「オーク Lv.1 瀕死」


そして、


「オーク Lv.1 しに」


ああ…。


 そこの表記法は、「しに」なんだ。って、そんなことを考えて気を紛らわすしかない。


 しばらくすると、亡くなった子オークの家族だろうか、オークが何人かやってきた。勇者一行は既に立ち去っていたので、その場には「しに」の子しかいない。でも、遺体の状態を見れば何が起きたかはきっとわかるだろう。剣術や魔法でやられたはずなのだ。転んで頭を打ったのとは違う。


 オークの家族たちが何を考えて、何を感じて、どんな表情をしていたのかは、私には分からない。一時その場にいて、やがて「しに」の子どもと一緒に消えていっただけだ。


 やりきれない。


 ひどいよな、と同意を求めたかったが、ステータスサーチではその辺の石たちと会話できない。無い胸にしまっておくしかできない。


 その後も、件の勇者パーティは私の縄張りをうろうろしては、運悪く居合わせた魔物を駆逐していった。大人も、子どもも、関係無い。例の専業主婦(夫)?のホブゴブリンさえも殺されてしまった。私は声を上げて泣きたかった。そいつ、育児してんだぞ!お前みたいな人殺しじゃねえんだぞ!ばっきゃろー、と叫びたかった。


 叫んだって、どうにもなりゃしないんだが。モブが喚こうと騒ごうと、社会も歴史も変わらない。そんなことは、現世で十分に体験及び学習済みだ。


 サーチしなけりゃ、嫌な気分になることもない。やめればいいのだが、気になってステータスサーチばかりしてしまう。SNSかよ。石に転生してまで、この悪循環か。

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