表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転石  作者: 七田 遊穂
第6話 観る石
18/21

6-1

 母の尻からひり出され、すぐにちゅーちゅーと甘い汁を腹いっぱい吸っていたら、一瞬で全身を潰された。


 気が付くと、何の感覚も無かった。


 あー、これ、また転生か。何度目かな。


 私の記憶の一番古い部分で、私は人間だった。天寿に指先が触れたか触れないかくらいの年頃におっちんで、それからは、あれやこれやに転生している。前回はアリマキ、別名アブラムシ。一瞬だったけど。他には、草(自分じゃ種類が分からないまま誰かに引き抜かれて死んだ)。蚊(吸血時に叩かれて死んだ)。芋虫(蛹から変態するのに失敗して死んだ)。何かの鳥の卵(孵る直前に蛇に食われて死んだ)。ねじ(不良品だったらしく、リサイクルに回され潰されて死んだ)。


 清々しいほど、モブ道まっしぐらである。非生物まで混じっているけど、それさえもが純正モブ。まあ、人間だった時も根っからのモブだから、しゃーなしやな。


 アブラムシでも、ねじでも、人間としての私の意識はずっと残存している。仏教の輪廻転生なら特定の前世の記憶をずっと引き継ぐなんてことはないだろうから、私の身に起こっているのは異世界転生物の方の転生だろう。


 まーたすぐに死ぬのかな。今回、何になったんかな。こういう時は、ステータスオープン。ぴろん。


「小石 Lv.1」


 なーるほど。よく分かった。いいね!


 周りにもいるのかな。ステータスサーチ。ぴろん。


「小石 Lv.1 ×たくさん」


 ほー、同類もいるんだ。しかも、たくさん。そして、我々はレベルアップしないと見える。


 あ、ちなみに、このステータス機能、転生初期は無理だったんだけど、ぶーぶー文句言ってたら割とすぐ手に入った。だって、最初、草だもん。二酸化炭素うめー、とか実感がありゃまだしも、何も分からんのよ。転生したことだって理解できていないから、こちとら人間様のつもりでいるわけだし。


 なお、オープンの方は、自分の状態が分かる。サーチの方は、近くにいる転生組の状態が分かる。ノーマルな石とか草とかは、探知できない。そんなものまで全部知覚できたら、こっちの頭(石だから無いけど)が爆発するわ。


 さて、今は石の他には転生組はいないらしい。この辺りは石専門なのかな。今までのフィールドだと、違うモノも周りにいたんだけど。


 っていうか、モブ転生、多いんだなあ。これって、あの世社会の仕事みたいなもんなのかな。我々、死んでまで社会の歯車か。しかも、いくらでも取り替えのきく、どうでもいい歯車。貴様の代わりなどいくらでもいるのだぞ…とか魔王様に脅される機会すらない、底辺モブ。スライムではない。あれは超有名だし、チュートリアルにも出るし、町にいたりするし。いいとこ、おおなめくじくらいかな、我々…。


 あ、そう言えば、なめくじにもなったわ。で、コウガイビルに速攻で食われたわ。嫌なこと思い出しちまったよ、なめくじ嫌いなのに。


 しかし、石か。こりゃ、今生は長そうだな。ねじも割と長かった。非生物は食われることが無いからな。


 何に転生したって大差ないんだけど、非生物はとりわけ退屈だ。動けないし、感覚もないし、やることがない。草でさえ、光合成をしていたというのに。まあ、あれには、おっしゃ光エネルギーで糖を作るぜ!よっこいしょー!みたいな作業感はないんだけど。


 小石かー。小石かよー。ねじの方がなんぼかマシだわ。どっかにねじ込まれたり、回されたり、感覚は無いにしろステータスオープンで「ねじ Lv.1」に「スキル:家具」とかプラスされる変化があった。小石じゃあ、その辺に転がっているよりほかにすることは無いし、何も起こりゃしないじゃないか。しかも、どうやって終わるんだ?雨による浸食で河原の石が砂礫に変わり、やがて川底に沈殿して層となり、地殻変動によって隆起して…みたいな地学的単位の忍耐が必要か?小石が私の最終転生先か。


 それならそれで良いんだけどさ。何しろ性根がモブだから、まあ、いいんだ、色んなことを諦めるのには慣れている。でも、人間としての意識、要らなくね?ヒトらしい部分ゼロのまま、地学スケールの年月に耐えるのは苦痛でしかないよ。不老不死系で悩む空想上のキャラだって、ものを見聞きしたり、動いたり、他者に干渉したり、そういうことはできるじゃん。その上で、「俺は死ねないんだ…」みたいな高尚すぎる悩みを飴玉みたいにしゃぶって喜ぶものだろう。この真っ暗闇は、辛いよ。できることと言ったら、ステータスオープンとサーチだけなんだぞ。「小石 Lv.1」を何度も見ても楽しくない。無人島に何持っていく?的な本の方がマシ。


 ああ、せめて、ご同類以外の存在でも来てくれないかな。私は暇に飽かして、ぴこんぴこんとステータスサーチを何度も行った。今までの経験上、ごくまれに遭遇した原住民もサーチできたのだ。元人間、もしくは現人間を対象にできるのだろう。


 不思議なことに、周りの石はたまに減ったり増えたりした。そんなに頻繁ではないが、変化がある。増えるのは、お可哀そうなモブ族が最底辺の転生を果たした結果だろう、私のように。しかし、減るのはどういう理屈だ?私のサーチ能力では、どの石も「小石 Lv.1」で違いが何もない。何とかして、減る理由を知りたいな。そうしたら、私も早々にいーち抜ーけたっ!できるではないか。


 このステータス開示能力、鍛えられないかな。鍛えると言えば、筋肉。筋肉は適度な負荷を与えれば増える。ステータス開示能力だって、程よい負荷をかけて伸ばすことができるかもしれない。というか、今の私にはそんなことくらいしかすることがない。やってみるか。暇だし。


 ということで、私はステータスオープンを幾度もやっては、ねばちっこく「小石、小石、小石とは何ぞや?!」と小石そのもののステータスを開こうとした。ステータスサーチでも同様。それから、今は大して遠くはサーチできないが、その限界を突破すべく、にじりにじりと手を伸ばしてみた。


 ところがどっこい、努力にはなーんの効果もありゃしなかった。「小石 Lv.1」は「小石 Lv.1」のまま。サーチの範囲は、よく分からん。そもそも探知できているのが自分からどの程度離れているかの情報は得られないので、射程距離が伸びているかどうかも掴めない。石以外も探知出来たら、広がっている証拠かと思ったけれど、相変わらず石しかいねえ。世の中どんだけモブだらけなんだよ。


 いや、まあ、歴史的に見たって世の中の大多数というかほぼ全員がモブなんだが。織田信長の一生は知っていても、信長の戦に巻き込まれて死んだ百姓の名前なんて誰も知らない。モブってのは、そんなもんであり、海辺の真砂並みに大量にいる。この辺の石の供給源はほぼ無限だ。


 っていうか、供給する必要、有るのか?石は石でいいだろう。転生しなくたってさあ。転生すると金鉱脈の粒になって地下資源の補給につながる、とかいう意味がありゃまだしも、小石 Lv.1にその価値はないだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ