#1 改変
「あー!!!ほんっとうにこのボスが倒せない!!!」
鳴之 可楚はいつも学校に行く前にゲームをする。彼女の習慣、というものだろう。
なぜか、このゲームを朝にすると気分がすっきりし、学校が頑張れるようになる。
今日もいつも通り、学校に行く支度をした後にゲームを起動した。名前は「オルタネート」という。改変とかの意味がある。
昨日、「アンチリアリティ」という強ボスと戦う所まで進んでいた。しかし、そのボスは「拘束」「強ダメ」「多体力」という悪魔の3要素を兼ね備えたしてくる。
そのため、正攻法だとほぼクリアができない。そんな強ボスを突破できないかと悩んでいた。
そこで、現代の利器であるインターネットにて攻略法を調べてみた。
「オルタネート アンチリアリティ 攻略法」
多くの攻略サイトが転がっている。ゲームオアノット、ゲームナイン、オーバーゲーマー...
そのサイトたちを覗いてみてみた。
「改変主人公と稲狐のコンビ」
稲狐を持ってない。そしてよりによって固定枠だ。最悪。
「負荷主人公とリアス、輪廻」
いつものパーティーだ。火力は伸びず。
「九尾狐単騎」
あいつはバッファーだ。世の中物好きだらけ。
そんなこんなあーだこーだとサイトを見ながら悩んでいると、聞きなれた声が耳に入る。
「時間よー、学校行きなさーい」
母の声だ。母に怒られるのはめんどくさい、さっさと学校に行こう。
「いってきまーす」
家に一言を残し、玄関から飛び出た。
そこで、見慣れた姿をみる。
「つむつむ〜!」
彼女には登校する時に一緒に行く友達がいる。
その人は、倉敷 紡來という人だ。彼と可楚は恋人関係にある。2人は幼稚園から家族のように仲が良く、付き合い始めたのは1年前だ。幼稚園から今まで、とても仲良くすごしている。
紡來も可楚と同じく、オルタネートをやりこんでいる。実際、紡來が可楚へオルタネートをおすすめしたほどだ。
可楚がアンチリアリティを倒せないということは昨日から知っていた。電話で言われたのだ。しかし、彼も同じところでつまずいている。だから、可楚と同様の悩みで頭を抱えていた。
「どうして倒せないんだろう...」
ふたりはそう呟きながら登校している。
そのゲームは「オルタネート」というアクションRPGゲーで、ソシャゲともいえる。
ストーリーとしては、主人公が魔物たちの蔓延る世界を探検し、開拓していくというゲームだ。
そのゲームの取り柄はストーリーだけでなく、キャラの服を自由に組み合わせれる、能力を切り替えることが出来るなどと、自由性が高い。という所にあるだろう。
ただクリアする。それだけのゲームではない。そんな確信的なゲームは若い人々の心を掴む人気のゲームとしてよくメディアに取り上げられていた。
そのゲームはとてもバグ技やグリッチが多かった。
運営は、オフラインモードでのみそれを許可していた。自由度の確保だろうか。
もちろん、それを利用してクリアをしたりする人も多く居た。
「テレポート」「すり抜け」などはほとんどが知っている技だった。それだけでなく「バリア消失」「破壊光線」「高速回転」「敵の消滅」など、ユニークなカオスで混沌を招くバグが多くあった。
そんな自由奔放な「オルタネート」に都市伝説があった。
「現実を歪ませる」
そのバグ技は、近頃、都市伝説として話題となったバグだった。だが、何故か誰も試していない。というか誰も試そうとすらしない。
その奇妙な都市伝説は
「現実を歪ませて魔物が出現するようになる」
そんな、胡散臭い都市伝説だった。
もちろん、最初は誰も信じていなかった。というか、知っている人がいなかった。しかし、ひと握りの人がそのバグ技の解析を進めていくにつれて、それが本当なのではないか、そんな説が浮上してきた。
公式のプログラマーがそのプログラムを解析して、その根本を辿ってみると、[削除済]。
そのバグ技を発見したと言っている公式はその方法を誰にも知らせないようにするため、徹底した情報統制を行っている。そんな噂がある。しかしそれは本当かは不明だ。誰も知ることが出来ないが。
その噂を信じる人々の中で
「現実の状態を監視している」
という部隊があるという人もいた。
もし現実が改変されたとき、その「エラー」を特定し、対応を行う。
そんな噂はすぐに消えていってしまったが。
そんな裏側を知ることの無い2人は、彼女と共に雑談をしていると学校に着いた。その2人は学校の前にある時計を見た。
25分となっている。40分に席に着けばいいというルールであるため2人は安心した。
しかし、可楚がとあることを思い出す。
「今日30分には体育館に集まらないとダメだったような...」
そう、今日は全校集会が30分から実施される。
それをきいた紡來は可楚と面を合わせる。
そして、その瞬間にダッシュで教室へ向かっていく。
あの怖い生徒指導に怒られたくなかったから、全力でダッシュした。だが、間に合わなかった。
教室には空虚と机と椅子しかない。
2人が教室で立ち尽くしていると、誰かが歩いてきた。集会はまだ始まっていないはずだ。
そのため、可楚が
「誰ですかー、」
空虚が漏れ出ている廊下へ問いかけてみる。すると、
「こっちが聞きたい。なんでお前がいるんだ。」
生徒指導の声が帰ってきた。2人は荷物を投げ、教室を飛び出る。
やっぱり生徒指導だった。
2人は怒られると思った。先手必勝!そう考えて、先に頭を下げた。すると彼らの耳に入ってきた言葉は、予想に反した言葉だった。
「今日は変則的だったからな。しょうがない。とりあえず早く行け!」
普段、清々しく許すことは無かった生徒指導が許してくれて2人は空いた口が塞がらなかった。
生徒指導は、
「どうしたんだ?お前らは早く謝ってきたし気分が変わったんだ、とりあえず早く行け!」
2人は光のように速く走って体育館へ向かっていく。
そこまで遠くは無いので直ぐに体育館についた。
2人は静かに自分の位置へ座る。紡來と可楚の間の人はどんな話をしてたのか教えてくれた。
「最近変な人がいるんだってよ。」
集会が始まり5分くらい経っていた。
この学校は校長の話を吹っ飛ばし大事な話をするのがさきだ。
そんな集会の話を聞いていると、とある話がとんできた。
「絶対に、世界を壊すな」
普通世界を壊すことなどできない。そのため、彼ら含める全員の頭には「?」。1文字だけが残っていた。
そんなことは常識だ。そもそも壊すことなどできない。
集会から少々時が経ち、学校が終わった。今日は早く終わる日程だ。しかし、紡來は委員会がある。
紡來と帰りたい可楚は、家で何をしようか...そう考えたりしながら学校で復習をすることにした。
この学校では放課後、誰かを待つために学校に残ることは許可されている。
紡來を待つため。紡來と一緒に帰るのは楽しいから。
「紡來が来るまで...紡來は確か16時に戻って来るから...数学やってよっと。」
数学の復習を始めよう。黒い軽いシャーペンを持つ。教科書を開いて、ノートを開く。
よし、手をつけよう。問題を見てみた。
「?」
何も分からない。こいつは何を言っているの?
悩みながら、ふと辺りを見てみた。
たかが知れてる机が規則正しく、綺麗に並べられていた。可楚が出しているシャーペンをノートにトントンと当てている音がただ響く。空調が動いている音も微かに混じる。生活音というものだろうか。それがただ右から左へ、左から右へ、ただ流れている。
しかしいつもみる風景も考え方を変えてみれば面白いのね。こうやって残ることも悪くない。そう考えていた。
「って!何考えてんのよ!もういいや、わからん、」
得意分野である社会を取り出す。
手をつけよう。そう思い、シャーペンを手に取ろうとした時、名希が来た。
「行こうぜっ、」
社会をやりたかった欲望を社会と共にしまい、荷物を背負う。
そして、廊下に出る。
「何してた?」
「勉強!私は天才なので?」
「ふーん。まあいいや、明日は暇?今日は金曜だよ。」
「暇だよ〜、どうしたの?」
「ふふっ、まあ2人でゲームしまくりたいからさ。」
「ふーん。親もつむつむだったら許してくれるだろうし。17時くらいに家来てね!」
「りょーかい!」
家まで15分ほどだ。さっさと帰って準備したいようで、紡來は手を引っ張っていく。
紡來が家にくる時間になった。
部屋は片付けているのでいつどこから来ても大丈夫な状態だ。嘘。窓から突入されたら困る。
紡來が来るまでワクワクして待っていると、可楚のお母さんが部屋に来た。
「つむくん来たよー、」
紡來が来てくれたことを伝えてくれた。
お母さんが下に戻り、キッチンへ行ったのを音で確認して、可楚は急いで玄関へ向かうため階段をおりようとした。
その瞬間、騒がしい音が家を響かせる。
「これ笑った方がいいのか心配すべきか...」
紡來は目の前に転げ落ちてきた可楚を見て困惑している。
「つむつむぉ、」
とても情けない声で言った。
紡來は状況が分からない混乱で脳がシャットダウンしそうになった。しかしここでシャットダウンしちゃカオスな場所が生まれる。
頭をふるわせて直ぐに立ち直っては可楚を起こし、
「怪我は無い?」
「うゆ、多分ない...」
涙が混じった声で答える。
紡來は一瞬考えたあと、
「ご飯の時は呼んでください。それまで可楚の部屋でゲームしてます」
そう告げると
「はーい、やましいことしないでね!呼びに行くから!」
そう帰ってきた。
「やかましいです。可楚が誘って来ない限りはしませーん」
可楚は首を傾げると
「何も無いよ、とりあえず早くゲームしよ」
そう言い、階段を上る。
突き当たりにある可楚の部屋へ行く。
可楚の部屋は泊まりや遊びに来た時によく入室するがザ・女子の部屋でいつまでたっても慣れない。女子に関わることなど可楚としかほぼない。
白いジャケットがかけられた椅子。白と青で統一された机。オルタネートが開かれたパソコン。生活感のあるベッド。生活感のあるクローゼット。奇妙な置物。確かオルタネートのグッズだったかな。紡來の部屋とは対照的に、生活感で溢れている。
「つむつむー」
「はっ...ごめんごめん...」
部屋の入口で立ち尽くしていたため、可楚に怒られてしまった。名希も慌てて彼女のもうひとつの机に飛びつき、自分のゲーミングノートパソコンを開いた。そして同様にオルタネートを起動する。
「慌てなくていいよ〜、」
可楚は紡來をなだめ、紡來のパソコンをコンセントと接続する。
「あー、ありがとう!俺のワールドの方でマルチしよっか」
2人は笑い、ゲームを始めた。
「つむつむ〜、みてみてー」
バグ技を記録しているサイトを開く。
そのサイトは少し奇妙な雰囲気を醸し出していた。背景が黒い。ほんとに余計なものがない。バグ技の方法とバグの効果しか書かれていない。
それ以外は何も無い。ほんとにただそれだけだ。
興味本位でスマホを可楚から半ば奪い取り、そのサイトを見てみた。
「うへ...」
可楚はスマホを取られて困惑している。そんなの構わずサイトを見ている。
「稲荷とルノを向かい合わせにして、同時に必殺技を発動してお互いに攻撃する。」
変だ。だから、バグ技か。彼は1人納得している。
「つむつむ?」
可楚に声をかけられた。そしてやっとわかった。
このバグ技はおそらくエラーを起こしその隙にボスをすり抜ける。
2人は強制ノックダウン状態にするアタッカーだ。ノックダウンアタッカーはその2人しかいない。
そして、2人はバグ技二大巨頭だ。強制ノックダウンというのはバグが多いらしい。
そのバグをとりあえず試してみよう。
「よし、やろう。」
「何を?」
「バグ技をやってみる。」
そういい、自分のパソコンに面を合わせる。
幸い、可楚はルノを持っているため、そのルノを呼び出す。
「え、えぇ...」
少し引きつつも彼女は手伝ってくれた。
やっぱり可楚は優しい。そう心で思っていた。
彼は彼が持っている稲荷を呼び出し、息を合わせて、同時に必殺技を発動する。
その瞬間、ノイズが走る。画面にでは無い。これは、紡來の視界にノイズだ。頭痛が波紋のようにかかる。そんな中、可楚の方をみた。可楚も同じように頭を抑えていた。
一瞬、彼女の姿が急変したような。そんな感じがする。
1分ぐらいで、それは収まった。オルタネート側では、「アンチリアリティ」が消滅している。
「なんとか、やったね。」
「ああ、でも...なんだったんだ?」
「たまたまでしょ。」
その後時間という概念を忘れたようにやりこんでいた。もう19時。しかし、可楚の母は呼びに来ない。
「まだかな。変だね。」
「行ってみようぜ。」
やけに彼ら以外の物音がない。2人は顔を合わせて、首を傾げる。倒れてるのかな、と考えているのだろう。
そして、下へ駆け下りてみると、可楚のお母さんがキッチンで倒れていた。
「お母さん!?」
家中にその声は響き渡る。