廃屋
僕は彼に理由を尋ねてみた。彼の好きな子がホラーゲームが好きであり、話のネタを仕入れたいとの事だった。僕は面白そうだと思ったので、見て帰るだけと条件を付けて誘いに乗ることにした。
翌日の早朝、僕たちは鉄線を跨ぎ、廃屋の玄関に向かって歩いていた。天気が良く、早朝の気持ちの良い空気と自然の匂いが心地よかった。僕は廃屋の玄関の扉がいつも少しだけ開いているのを知っていた。きっと肝試しに来た者が鍵を壊したのだ。
僕たちは内開きのドアを開けて中に入ると埃とカビ臭いが鼻についた。絨毯は所々穴が空いて、元の色がわからなくなっていて、屋内は風化していて薄気味悪い場所であった。
玄関から正面には二階へと続く階段、左右と奥に伸びた廊下があったのだが、とても奥に進みたいという気持ちは失せていたので、横にいるにふとしに帰ろうと声を掛けると、彼の肩がガタガタと震えていた。
僕は何が起こっているのかわからなかったが、急に恐ろしくなったので声を振り絞ってふとしにもう帰るぞと言った。
ふとしが頷き、僕たちは入ってきたドアの方を向くとほっそりとした人影が静かにドアを内側から閉めようとしているところであった。人影は浴衣のような布を身にまとった老人のように見えた。
老人はニコニコしながら口をパクパクと動かした。徐々に人影の輪郭が濃くなり不気味な程痩せた手足が見えた。
ふとしはついに叫びだした。普段は気さくにハキハキと喋る姿からは想像のできない声であった。僕を含め、人影まで顔をしかめているような気がした。
ふとしは目を見開き、人影がいるドアに向かって走り出した。人影は長い手を広げてふとしに抱きついたが、タックルを止めきれなかったフットボールの選手のようにふとしの腰にしがみついていた。
ニヤニヤと笑う老人が「だき だき だき」と声を上げて笑っていた。僕は廃屋のドアを蹴とばしてふとしの手を引っ張り洋館から引っ張り出そうとすると、老婆や老人が何人も、ふとしのズボンにしがみついて、こちらを引き込もうとしていた。
ふとしは彼らの顔を蹴飛ばしたり踏みつけたりして貼りほどこうと必死になっているうちについに転んでしまった。
僕は必死に洋館の外からふとしを引っ張り、得体のしれない老人たちそれを阻止していた。
少しずつふとしがズルズルと洋館に引っ張り込まれていく。 その間も 「だき だき だき」と老人たちは声を上げていた。
老人たちはふとしのズボンに掴まっていたのでいつの間にかふとしのズボンが脱げ、老人たちがふとしを引く力が弱くなった。
僕はとにかく、この綱引きに負けてはいけないと思った。ふとしの手首を力強く引っ張り足腰に力をいれた。そのうちにふとしとの体半分を外に引っ張り出した辺りで老人たちは諦めたのかふとしから手を放した。
ふとしの足には引っ掻き傷や手の跡がいくつも残っていた。僕たちはとにかく走った。
洋館の敷地内に停めておいた自転車にのり、僕たちは無言で山を下った。
ふとしの白いブリーフには薄黄色になっていたが、僕は気付かないふりをした。
僕はふとしの家まで自転車で付いていき、ふとしが家に入るのを見届けた。彼は青白い顔で「すまなかったな、助けてくれてありがとう」と力のない表情で言うと家の中に入っていった。
その後ふとしは学校を休んでいる。