エピローグ
たけしは暗い山道を一人で降った。時々左の脇腹が痛くなったが、彼にとって今更気にすることではなかった。
山道は長く、麓のコンビニにたどり着く頃にはたけしは文字通りクタクタになっていた。
たけしはパジャマ姿にスクールカバンと言った格好で財布は持っていない。たけし迷ったが、コンビニに入って涼む事に決めた。
たけしがコンビニの自動ドアまでたどり着くと、「待ちたまえよ…君、お金持ってないだろう?」と横から呼び止められた。声は大きくなかったが、良く通る声だ。声の主は上下ジャージ姿のラフな格好をした異常に整った顔立ちの女で、コンビニの駐車場の車止めに腰掛けていた。隣には黒い大型バイクが停めててあった。車体には「かぐや」とラッピングされていた。
女は電子タバコを美味そうに吸ってから夜空に向けて吐き出した。
たけしは女の顔に見惚れてしまっていた事に気づいて「す、すみません」と彼女に反射的に謝ると、「良いんやで」と彼女は悪戯っぽく笑いながらたけしに手招きをした。たけしは美しい女性から手招きをされ、心臓が高鳴った。
たけしが近くに来ると、彼女は「あげる」と言って銀色の缶ジュースのような物を僕の頬にくっつけた。「バイバイ」と彼女は手を振ると、バイクに跨り、大きな肉食獣の咆哮のようなエンジン音を響かせながら駐車場から去っていった。
貰った缶には ヒョウエの強炭酸 エナジードリンク とプリントしてあり、僕は絶句した。どうやら少しだけ、過去がかわったみたいだ。たけしはエナジードリンクを一口飲むと、爽やかな渋みと甘み、柑橘系の香りが口に広がり「美味い…」と一人で呟いていた。
「これを飲まば、力湧なん」
たけしは何処から太郎の声が聞こえた気がして、目頭が熱くなった。
「かたじけなし…」とたけしは呟いてから
爽やかに笑った。
終わり




