薬
たけしは部屋の扉から出る前に手足がびくびくと痙攣したように震え、力も徐々に抜けてきた。肺と心臓は忙しく働き、身体の隅々から脳に痛みが伝わってくる。
たけしは力を振り絞り、呻きながら仰向けになると、少し休む事にしたが、一向に身体は楽にならなかった。その上、部屋の扉がぎぃぃ、と開かれる音が聞こえてきた。
「もう、終わりか…我が生涯に一片の悔い無し」とたけしはもう一度、最期の最期にふざけ、自分の人生を振り返った。
ガチャ、ガチャと先程聞こえた金属音。
「そこのわらは、いまだ生きたりや?」野太い声がたけしの頭上から聞こえた。
「え?」とたけしは声の方を見ると兜と甲冑の形が暗闇でも見えた。甲冑姿の人間がたけしの左側に立ち、しゃがみ込んだ。そのまま、たけしの肩と首の下に手を入れると、たけしの上体を軽々と起こした。
たけしはされるがまま、甲冑の男の顔を覗き込むと、濃い髭と鋭い目付きが特徴的な顔が見えた。
「潔き童なれど、いまだ死ぬるには疾し。これを飲みたまへ。」
男はそう言って、自身の甲冑の胸元から何か筒のような物を取り出し、たけしの口に丸薬を丁寧に放り込んだ。
「むごぉっ」
たけしは口の中に苦みとえぐみ、獣臭、ボソボソとした木の皮のような食感の塊を、反射的に嘔吐しそうになったが必死に堪えた。
「飲まば痛み収まり、力湧かん」
たけしはごりごり、得体のしれない物体を咀嚼して必死に飲み込んだ。喉に張り付き、何度も生唾を飲み込み、やっとのことで飲み込むと、口から喉にかけてつぶつぶとしたものが残ってしまった。
しかし、飲み込んだ直後、食堂がヒリヒリと焼け付くような、心地よいような不思議な感覚と高揚感が体に満ちていく感じがした。
たけしはそのまましばらく、目を丸くしていた後、自分の力で立ち上がると、「ありがとうございます」男に礼を言った。
男は首を傾げていたが、なんとなく意味が伝わったのか、握り拳を前に出して「応!いざ鎌倉!」と言った。
たけしはなぜ甲冑を着た武士のような男がいるのか、疑問に思いながらも何かコミュニケーションを取って、味方にしなければなと思ったので、何かお返しになるような物を探した。
たけしは学校の机と一所に床に転がっている学校の鞄中にエナジードリンクが入っていたのを思い出したので、エナジードリンクのプルタブをプシュッと引き上げてから甲冑の男に両手で差し出すように手渡した。
男は興味深そうにエナジードリンクの缶をコポコポと揺らし、匂いを嗅ぎ、鋭い目を見開いてから一口飲み込むと、何かを呟きながら(いい香りだ、喉が焼ける、力が湧くと言ったような気がする)飲み干した。
たけしは身振り手振りで出口の場所を伝え、「出口まで案内致します」と丁寧に伝えると、男は「愉快、愉快」と大きく笑いながらたけしの後に続いた。




