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5 ババ専は地雷です。

「あれは寝ぼけていただけだ」


 フレイヤは側にいるのがサミュエルだと気がつき、言い訳のようにつぶやいた。


「えっと、サミュエルが本当に俺の父の生まれ変わりなんですか?」

「そんなわけなかろう」

「そうだよ」


 フレイヤはディランに返したが、サミュエルはニコニコ笑って肯定する。


「わしは信じぬ。わしは疲れているのだ。寝る。さっさと部屋から出ぬか」

「フレイヤ。話がしたい。君の命ももう長くないのだろう?」

「お前には関係ない。さっさと人間界に戻れ。ディラン、連れて行かぬか」

「母上。サミュエルはどうも前と様子が違うし、よく見ると彼の瞳と俺の瞳って同じ色ですよね?」

「知らぬ。早く人間界に連れて行け。じゃないと、死んでしまうぞ」

「僕よりフレイヤ。君が先に死にそうだよ。君は、僕に会いたくて若返りの魔法を使わなかったんだろう。僕が、いつか生まれ変わっても会いたいって言ったから」

「知らぬ。そんなことは知らぬ」

「母上。とりあえず、俺はサミュエルのことが段々父親に思えてきました。だから、ちゃんと話をしてください。魔界に一日いたくらいで命は縮まりませんよ」

「そうだよ。フレイヤ。話をしよう」

「したくない」

「ふうん。子猫ちゃん、全然素直じゃないなあ。可愛がってほしい?」

「よ、呼ぶなって言っただろう。その子猫ちゃんって」


 照れまくる皺皺()()()、それが自分の母親なので、ディランは微妙な気持ちになる。


「俺は出ていきますね。二人でゆっくり話してください。それじゃあ」


 これ以上、二人のやり取りを見るのが耐えきれなくて、ディランは逃げるように部屋を出て行った。


「フレイヤ」

「私を見るな。皺皺のばばあになってしまった」

「僕は気にしないよ。フレイヤはフレイヤだから」

「わしが気にするのだ」

「まったく。じゃあ、目を閉じる。それでいい?」

「よし」

 

 ディランが部屋を出た後、フレイヤは諦めたようにサミュエルをエズラードとして扱った。


「お前を見た時、目が似ていると思ったんだ。やっぱりお前だったか」

「うん。思い出すのが遅くなってごめん。どうして小さい時から魔王、フレイヤのことがずっと好きなんだろうって思っていたけど、今わかった」

「そ、そうか」


 フレイヤはじわじわっと年甲斐になく頬が赤く染まっていくのがわかって、顔を伏せる。相手は目を閉じているのだが、見られている気がして恥ずかしかったのだ。


「フレイヤ。俺が今度は君を見送るよ。お願いだ。最後まで側にいさせて」

「だめだ。今後こそ、お前は長く生きるんだ。前回、私はひどく後悔した。だから!」

「だめだ。絶対。ね、フレイヤ。多分君が死ぬのと僕が死ぬのはほぼ同時期だと思うよ。だから、今度こそ一緒に死んで、生まれ変わろうよ」

「魔物に生まれ変わりはない」

「そんなのわからないよ。やってみなきゃ」

「……ただ死ぬよりはましか」

「ありがとう。君は僕をずっと待っていたんだね。遅くなってごめん」

「別に待ってなどいない」

「嘘ばっかり。寿命を削らないように若返りの魔法も使わなかったのに」

「あ、目開けるなっていっただろ」

「だめだよ。僕は君の皺一本、一本を見たいんだ」

「か、変わった趣味だな」

「僕はババ専ではないよ」

「ババ専?なんだそれは」

「フレイヤは知らなくていい」


 そうして、百年ぶりに恋人たちは再会した。

 その後、フレイヤがババ専の意味を知り、部屋に籠り数日間何も食べなくて、サミュエルが死ぬほど心配した。けれども毎日彼女の好物を作り愛を囁いているうちに、フレイヤは部屋から出てきた。

 しかし、ババ専が彼女にとって禁句になったことは言うまでもない。


 二年後、フレイヤが亡くなり、それを追うようにサミュエルが息を引き取った。

 それからディランは二人を同じ墓に埋葬した。

 両親が今度は同じ種族に生まれ変わるといいなと思いながら、今日も彼は墓参りをしている。


(おしまい)


読了ありがとうございます〜


エピソードタイトルなのですが、本当は、文中でババ専が彼女の地雷になったと書きたかったのですが、流石に中世風ファンタジーで地雷は使えないと断念しました。

タイトルはお遊びなので使わせてもらいました。

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