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たしなみ2-38


王都では、平民街の復興のために魔術師が集められ、焼け落ちた建物の残骸の処理が進められていた。


「この際だから、焼け野原一帯を区画整理して、街の見通しを良くするのはどうでしょう」


メイシーは、再建に協力すべく、お父様とドメル先生と共に焼け野原まで来ていた。

3人で会話しながら、瓦礫を移動させている。


「王都の土地は全て国有財産だからね。(うわ)ものがなくなってしまった今は、計画さえ立てれば、好きなように街を設計できる。ひとまず、再建には多少時間がかかるから、被災した市民たちが仮に生活できる場所を確保しなければいけないね」


お父様がメイシーの意見に同意し、実現のために必要なことを考え出した。

すると、ドメル先生が発言した。


「王都の郊外に避難所を設置しているが、数は十分とは言えない。地方に当てのある者は、今どんどん王都から離れて出ていっているが、そうでない者も多い。

延焼は西側が中心だが、東側の者でも、商業区の職場が焼けてしまって、早々に生活に困窮する者が出そうだ」


ドメル先生は、お父様に思いつく現状の問題点を挙げていった。

お父様は手元のメモにドメル先生の言葉を書き、頷いて口を開いた。


「住宅の数は、西側ではおおよそ1万戸。商業区の店舗や工場などは、使い手の意見を聞きながらの建て直しが必要だろうが、庶民の家なら、土の魔術で画一的な住宅を作るのなら、1日で100棟ずつくらいはいけるんじゃないか?3ヶ月ほどで住宅は完成しそうだ」


「はい!はい!お父様!私、せっかくなので素敵な街並みを作りたいです!街の設計と、家のデザインを考えてもよろしいでしょうか?」


(わ~い!イタリアみたいな赤い屋根の可愛い街並みはどうかしら。これまでのような、木造やボロボロのレンガの汚い外観の家はすべてなくすの!

区画はバルセロナみたいに、ピシッときれいに整えて、もっと王都に人が増えても良いように変えていこう。

公衆トイレは、明るくて清潔なものを区画ごとに設置する!公園や図書館なんかも、市民の憩いの場として作ったら楽しいかも!

あと、一定の間隔で広場を作る!広場では毎週市場が開かれるの!帝国各地の物産展なんかが、いつも街の何処かで開催されるなんて、想像するだけで楽しいわ!)


メイシーは、勝手に想像して、目をキラキラさせて興奮しだした。


「メイシーの望むようにやればいい。資金ならすべて国庫から出そう」


「ありがとうございます、お父様!」


「……このやり取りだけを聞くと、なんて暴力的な会話だと、眉をひそめたくなるが、きっとメイシー・マクレーガンの計画なら、皆が満足する結果になるのだろうな」


ドメル先生は、マクレーガン親子の隣で、肩をすくめて苦笑いした。


「建築に関しては、モーリシャスが詳しい。彼は土と火の魔術の使い手で、普段は諸外国の都市設計や要塞に関して研究しているが、住宅や他の建造物などにも精通している。」


「まぁ!では、色々とご相談したいです!先程瓦礫を運ぶと言って、北に向かっていらしたので、ちょっと行ってまいります!」


「メイシー、我々も行こう。都市計画には、最後には陛下の承認もいるだろうから、多くの意見を聞き、手早く詳細を詰めていこう」



こうしてメイシー達は、モーリシャス先生のもとへと移動した。







モーリシャス先生は、オーディン先生と共に、商業区の工場の焼け跡で、平民や騎士たちと瓦礫の撤去作業を行っていた。

大きな柱などは後回しにし、馬車に載せられる程度の瓦礫や燃えた木材、家財・商材などを、土の魔術で持ち上げていた。


オーディン先生は、風の魔術を駆使して、瓦礫を一箇所に集めていた。


メイシーは、二人の姿を見つけて小走りで近づいて行った。



「オーディン先生!モーリシャス先生!」


「おお、娘っ子。元気になったか?」


「はい、おかげさまで!……あら?」



メイシーは、平民だと思っていた周囲の人々の中に、魔力を使って瓦礫を持ち上げている人々が何人もいることに気がついた。

メイシーがその様子をじっと見ているのに気づき、オーディン先生が口を開いた。


「ワナンが長いこと貴族たちに呼びかけていたからな。それに、今はマクレーガン派が主流なので、貴族派に遠慮しなくても良い。平民街のことであっても、やれることをやろうと、手伝いを申し出てきた貴族は多数いるぞ」


「そうでしたか…」


メイシーは、純粋にありがたいなと思った。



「それで、何か用か?」


モーリシャス先生が、大きな体を曲げて、上からメイシーを見つめている。

先生の身長は2メートルはあるのではないだろうか。

分厚い唇に色黒の肌、頭はスキンヘッドで、重たい荷物を運んでも平気なくらいは鍛えられていて、濃い灰色のローブを纏った姿は、まるで壁のようだ。


メイシーは、モーリシャス先生を見上げて答えた。


「ドメル先生と父とで、平民街の再建について話していたのですが、建築に関してはモーリシャス先生に聞くのが早いという話になりまして」


「ああ。おれでよければ、聞いてくれ。王都の三分の一ほどが焼失したんだ。ぜひ再建に協力したい」


「それはありがたい。お二人とも、きちんとお目にかかるのは初めてだな。レナルド・マクレーガンだ」


お父様がモーリシャス先生とオーディン先生に、にこやかに挨拶をした。


「オーディン・クルクサスじゃ。ご令嬢が臥せっておる時に屋敷へお邪魔したが、侯爵は不在じゃったな」


「モーリシャス・フィヴァだ。よろしく」


お父様達の会話が止むと、ドメル先生が皆に切り出した。


「早速だが、学園に戻るか?メイシー・マクレーガンに、何やら都市計画の要望があるらしい」


「この際ですので、壊れた箇所に関わらず、地中の下水道管全体をもう一度引き直し、馬車が通りやすいきれいな道を敷くことを中心にして、街の景観を整えたいです」


メイシーの言葉に、モーリシャス先生が反応した。


「おれの実験室に諸国の建築物を描いた資料がある。それを見ながら、参考にできる設備を盛り込んで、王都の新しい地図を作ろう」



モーリシャス先生の意見に賛成し、一同は魔術学園へと移動した。








魔術学園、第7研究棟。


第7研究棟は、何となくカントリーな感じの建物だった。

(郊外のお屋敷みたいな雰囲気ね。横にある畑も、野菜がたくさん!)


城に入ると、学生たちが息抜きをするレクリエイションルームがまず目に飛び込んできた。


楽しそうに和気あいあいとダーツやチェスをしていた学生たちは、メイシー達の姿を見ると、驚いた顔で立ち上がった。



「こんにちは!マクレーガン侯爵令嬢」


「こんにちは」


メイシーがにこりと微笑んで挨拶を返すと、学生たちは嬉しそうに互いに顔を見合わせていた。



「侯爵令嬢の実験室に行きたいと、うちの研究棟の者たちがよく私に申し出てくる。この研究棟の学生は、自領が魔獣頻出地域の者ばかりでね。はっきり言えば、辺境の田舎の秀才が集まった棟だ。王都で話題のマクレーガン侯爵令嬢と一緒に学んだのだと、田舎に帰って自慢したいんだろう」


「まぁ。各研究棟には建物だけではなく、集う学生たちにも特色があるのですね。面白いですね」


「興味があれば話しかけてみろ。彼らの話は、大体が自領でどれだけ強力な魔獣を倒したか、だ」


モーリシャス先生の話に、ドメル先生やオーディン先生が笑って答えた。



「騎士団にも地方出身者は多い。彼らのお家自慢は、酒が入ると止まらんからな」


「エリート揃いの中で、この棟はいつ来ても良い意味で庶民的じゃ。気を遣わんで良いのがいい」




話しているうちに、モーリシャス先生の実験室にたどり着いた。


「ここがおれの実験室だ。ちょっと物が多いが、まぁ気にしないで欲しい」


部屋に入ってすぐ、目の前に長い大きな木のお面や、魔獣を模した見た目のお面などが壁にずらりと並んでいるのが目に飛び込み、メイシーはビクッとして固まった。


「卒業生や学生達が、自分の領地に伝わる面だと言って置いていくんだ。断っても断っても、なぜか気づいたら増えている」


モーリシャス先生は迷惑そうに眉を寄せ、壁に所狭しと並ぶ中でも、ひときわ奇抜な形のお面を何個か手に取って、おもむろに実験室から廊下に放り投げた。


「えっ!?」


メイシーはびっくりしてその様子を見つめたが、モーリシャス先生は顔だけ廊下に出してこう言った。


「お前ら、要らんと言ってるだろ!」


「あっバレた、だめだったか」

「派手すぎンだよ。だからもっと地味なの持って来ようって言ったのに」


「もう持ってくるな!」


モーリシャス先生はピシャリと扉を閉めて、うんざりした顔をして振り返った。


「今のは実験室に、おれにバレずにお面を増やせるかという遊びだ。この前はあいつらが土の魔術でどれだけ高く土を盛れるか競っているのを見た。まるでガキだ。……うちの研修生らは、本当に魔術学園の試験をパスしたのかと疑いたくなる。平民街の半分が焼けたのに、なんの緊張感もない」


「ほっほっ!学園生活を楽しんでおるのう!しかし意外に第7研究棟は手堅い研究をする者が多い。昨年の卒業生には『要塞に適さない土地に要塞を建てる方法』というテーマで研究を続けている者がおったな」


「確か去年は『魔力の高さと土壁の耐久性の相関関係』という論文もあった。あれはなかなか面白かった。モーリシャスの研修生は、普段は全く頼りにならんが、考えていることは現実的なんだな」


先生達は、可笑しそうに第7研究棟の雰囲気について語り合っていた。

お父様とメイシーは、顔を見合わせて笑っていた。


「すまんすまん、これじゃ何の話をしに来たのか分からん。何より今は、平民街の再建だ」


モーリシャス先生は、その巨躯で素早く移動して、積んである資料や本棚の書籍を選んで持ってきた。


そして、おもむろに大きな紙を手に取ると、皆の囲む机に転がし、一面に広げた。



「おれは毎年研修生らと王都の測量をする。これは今年の年初に行ったものだ」


「すごい!こんなに細かく…!」


地図にはモーリシャス先生や学生たちの手描きで、びっしりと王都の様子が描かれていて、メイシーは感嘆の声を上げた。


「下水道整備に関しては、おれの就任前の出来事なので、詳細まで把握できていなくてな。今の水道管の配置を知ったうえで、希望の配置を決めて作業するほうが効率的だ。その資料については、マクレーガン侯親子に準備を願おう」


「分かりました、モーリシャス先生!私が記録している資料を侯爵家から持ってまいりますね」


「今ノアに頼んでは?メイシーはここでの話し合いに集中できる」


お父様の言葉に納得したメイシーは、思念の指輪でノアに資料の持ち出しを依頼した。




「では、ここからは侯爵令嬢の都市設計のイメージを聞きたい。場合によっては、諸外国の良い例なども話せればと思う」



メイシーは、モーリシャス先生のその言葉に、待ってましたとばかりに目を輝かせ、モーリシャス先生を見上げた。



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