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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-36


メイシーが目を覚ましたのは、それから二日経ってからだった。


目覚めた時には侯爵邸の自室のベッドで、メイシーは、自分の身に何が起きたのか、一瞬分からなくなった。



「……ノア」


「お目覚めですか、お嬢様」


メイシーのベッドの横にはノアが座っていて、メイシーの目覚めをずっと待っていてくれたようだった。



「えっと、私、平民街を歩いたのよね?あれからどうやって家に帰ったんだっけ……。私、どれだけ寝ていた?」


「二日前に、マージー教授が貴族街の手前で気を失われたお嬢様を、侯爵邸まで送ってくださいました。お嬢様はあの日、疲労と魔力の使用過多でお倒れになったのです」


「そうだっけ?倒れるほど使った記憶はないんだけど。細かくたくさん使っちゃったかな」


「一日中、風の魔術の化身を使っておいででしたし、平民街で光の魔術を何度もお使いでした」


「あ!小鳥!」


メイシーは、ノアの言葉に驚き、パッと飛び起きてあたふたした。



「小鳥の回収を忘れていたわ!さすがに寝ている間に、もう消えちゃったよね……」


メイシーは、がっかりした表情でうなだれた。



「ハルガンディ教授が、騎士たちへ小鳥の回収を命じてくださいました。王宮や貴族街の分も含めると、ざっと300羽ほどでしたので、鳥の姿のまま、教授が土の魔術の結晶に閉じ込めてくださったとのことです」


「本当に!?」


メイシーは、体の前で手を組んで、この場に居ないドメル先生に感謝の意を表した。



「ドメル先生、素敵です!!」


「お嬢様……。またハルガンディ教授が驚かれますよ」


ノアの言葉に、メイシーはハッとして訂正した。



「ドメル先生、機転を利かせてくださってありがとうございます!!」


そう言うと、ノアがくすくすと笑った。



「ハルガンディ教授は古風ですよね」


「これは古風なのね?線引きが難しいわ」


「素直にご意見を口にしてよろしいのではないでしょうか?言われて悪い気はしませんし」


「ふーん、そうなの?」


メイシーは、分からないなりにも、人の褒め言葉としては、絶対に駄目とは言えないラインなのかなと、なんとなく理解した。



「お母様に会いたいわ。二日ということは、お父様はまだ帰られていないわよね?」


「旦那様は、馬車を飛ばされているとのことで、あと数日で王都に戻られるようです。奥様に、お嬢様のお目覚めを知らせてまいります」


ノアは明るい表情で礼をして、お母様を呼ぶために部屋を出ていった。







「メイシー!」


「お母様!」


お母様は、部屋の扉が開くとすぐ、メイシーめがけて足早に近寄ってきた。



「メイシー、貴女が無事で良かったわ」


お母様は、メイシーをギュッと抱きしめてしばらく離さなかった。

メイシーもお母様を抱きしめ返し、二人でお互いの無事を喜んだ。



「お母様、王都の様子はどうなのでしょう?貴族たちは、今回のことをどう思っているでしょう。陛下からのお話も、何かあったのでしょうか?」


お母様は、困ったような表情でメイシーを見つめ、ただこう言った。



「メイシーが目覚めて、回復したら、王宮に来て欲しいと、陛下からの手紙があったわ」


「陛下から?」


「あと数日でレナルドが帰るから、それまで待ちましょう。登城する時に付いてきてもらえばいいわ」


「お父様に?……そうですね、私一人で来なさいという依頼でなければ、ぜひ」


「手紙には特に書いていなかったわ」


(小鳥で会話した時に仰っていたことかしら。頼みがあるって、何だろう)


メイシーは、陛下のお願いとは何だろうと、不思議に思った。



(殿下には知らせないでいいのかしら?)


メイシーは、この件が殿下にはどのように伝わっているのか、不安に思った。



「お母様、今回のこと、殿下には知らされているのでしょうか?」


「貴女が眠っている間に、手紙を持った騎士が隣国へ向かったわ。でも、単騎で届けるだけで十日はかかるから……手紙を見て、殿下がこちらにすぐに戻る場合でも、多分三週間ほどはかかるはずよ」


「そうですか……」



メイシーは、分かってはいたものの、殿下がすぐ側に居ないことに改めて不安を覚えた。












二日後。

お父様が馬車を飛ばしに飛ばして、帰ってきた。



「セリーナ!メイシー!!」


「あなた!」


「お父様!」


一家が玄関に集まり、三人全員でハグをした。お父様は、心から安堵した表情で、お母様やメイシーのことを抱きしめてくれた。



「二人共、怖い思いをしただろう…。知らせを聞いて、二人に何かあったらと思うと、気が気ではなかった」


お父様は、途中で何度も何度も馬を替え、ほぼぶっ通しで王都まで戻ったのだと話してくれた。



「馬車で一週間近くかかるところを、四日で戻るなんて、大丈夫だったの?」


「メイシーの加速の魔術具を用意していて良かった。アレのおかげで馬も頑張ってくれたよ」


「お役に立てて良かったです、お父様」


お父様は、メイシーに向き合って真剣な顔になった。



「また無茶をしたんだって?王都に入って、思念の指輪でセリーナや他の貴族とずっとやり取りしていた。君や教授たちの活躍で、奴らの目論見は早急に潰されたと聞いたが……」


「私の新しい魔術具が、試作品ではあるのですが、今回役に立てたようです。もっと改良して、今後の王都の警らにもお使いいただければと思いました」


「メイシー」


お父様は、メイシーの手を取って、眉を寄せて心配そうな表情になった。そして少し言い淀み、唇をぎゅっと噛み締めてから口を開いた。



「……ノアからの報告では、君が爆発に巻き込まれかけたと聞いた。結果としては大事に至らなかったが、一歩間違えれば、王宮ごと吹き飛ぶくらいの大爆発だったのだろう?……それを聞いて、肝が冷えるなんてものじゃなかった」


「お父様……」


メイシーは、グリュイエールの爆発と、真っ黒に焦げた謁見の間の絨毯を思い出し、表情をこわばらせてお父様の手を握り返した。

お父様はそれに気づき、メイシーを抱き寄せた。



「ごめん、思い出させたくはなかったんだが、メイシーをそんな目に遭わせた自分が腹立たしかったんだ……。私を許してくれ、メイシー」


「レナルド……」


お母様も、お父様の背に手を添えて、悲しげな表情になった。



「誰のせいでもありません。……彼らが悪かったのです」


メイシーはそう言って、お父様にしがみついた。





そうしてしばらく三人で話をしていたところ、屋敷の前がにわかに騒がしくなった。



「旦那様、王宮からの使者です」


執事がそう言ってお父様の前に立つと、お父様は苦々しい表情になり、口を開いた。



「陛下には筒抜けというわけだ。どうせすぐに王宮に来いという通達に決まっている」


お父様は自らが屋敷の外へ出向き、使者からの伝言を聞きに行った。



「お父様が登城なさるのですか?休むこともなく……?」


メイシーはお父様の背中を見送りながら心配になった。お母様は肩をすくめてこう言った。


「レナルドは呼びつけられるのがイヤで宰相の指名を長いこと断っているのだけれど、今回のことで、もうそういうわけにはいかなくなりそうね」


「そうだったのですか」


「前宰相が退いてから、宰相の任は空位だった。実質はレナルドが担っていたわけだけれどね。この際、腹を括って、肩書も実権も、全て取りに行くつもりかしら。宰相となれば、陛下との結びつきを強く求められるでしょうね」


お母様は、考え込んでいる様子だった。そこへ、外からお父様の侍従が入って来て、ノアに耳打ちをした。ノアは頷くと、お母様とメイシーのもとへ歩いてきた。


「お話し中失礼します。お嬢様にも共に登城を、との話が聞こえたそうですので、お伝えに上がりました」


「あら……。どうする?メイシー」


お母様は、メイシーを見つめた。メイシーは、意を決した様子で頷いた。



「お父様が行かれるのであれば、私もついて行きます」


「では支度をしましょう。ノア、上にあがって化粧品や飾りを並べておいてくれる?」


「かしこまりました、奥様」


「行きましょうメイシー」


メイシーは、お母様に連れられ、自室へと向かった。







一時間後。

支度の整ったメイシーは、お母様と共に玄関に続く階段を降りていった。


玄関ではお父様が、登城のための正装になってメイシーを待っていた。



「今日もなんて素敵なんだ、メイシー」


「お父様も、青色のウエストコート、とても良くお似合いです」


「メイシーの瞳の色にしたんだ。いい色だろう?」


「まぁ、お父様!そうでしたの?私も、今日はお父様の瞳のお色です」


メイシーは、淡いブルーのドレスに身を包み、髪にはアクアマリンのような水色の髪飾りを付けていた。


お父様は、メイシーの姿に満足げに頷くと、お母様に向かってお礼を言った。



「セリーナ、ありがとう。君のおかげでこんなに素敵な娘に会えた。私は君が居てくれて本当に幸せだ!」


「ふふ!私もよ。愛しているわ、貴方」


メイシーは、サッと二人の間から出てノアの隣に立ち、両手で顔を覆った。



(いつでもどこでもラブラブで、目のやり場に困るわ……!)



「お嬢様、馬車の方へ」


「わかったわ」


ノアの掛け声に、メイシーは、少し頬を赤くしつつ、馬車へと向かったのだった。




馬車に乗り込むと、お父様はメイシーに話しかけた。


「陛下はメイシーに何を言ったんだ?使者殿はしきりにメイシーの登城を依頼してきたぞ」


「そうなのですか?実は、私にもよく分からないのです。ただ、頼みたいことがある、とだけ仰せでした」


「頼みたいこと?」


「はい。あれは、平民街から王宮に連絡をして、北側から近衛を派遣してほしいとお願いした時のことです。陛下ご自身は王宮に留まって、王妃殿下を守りたいので動けないと。平民街の対応を私達や近衛に任されました。その時に後で頼みたいことがあると」


「……本当に自分勝手だな、あの人は。平民街の平定は、あの方の魔術でもっと早くに解決できたことじゃないのか?メイシーに放り投げて、あげく『頼みごと』?……冗談じゃない。私はあの親子はやっぱり好かん。」


お父様はムスッとした表情になり、眉間にシワを寄せた。



「王宮を離れたら妃殿下に危険が、というのは、具体的には何なのでしょうか」


「妃殿下の姿は、お二人の結婚式以来見られていないからな。本当に生きているのかと、一時期は噂されていたが……」


お父様は思案し始めて、黙ってしまった。




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