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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-34


メイシーは目を閉じ、平民街の西側に配置した小鳥全てに意識を集中させた。



「……闇よ、小鳥から広がり、魔術具の気配を探れ」



メイシーは、遺跡のときに思い浮かべたように、闇の魔術を使うイメージで小鳥から煙を広げていった。


ただし、出る煙はやっぱり白い煙なのだが。


煙からは、人々が争ったり、中にはすでに倒れている人がいる気配も感じられ、メイシーは不安になった。

しかし地面の下にあるはずの魔術具の気配を探ることに集中しなければ、と頭を振り、100羽近くいる小鳥のうち、数十ヵ所の地面から、何かを感じ取った。



(ここに、小鳥を移動させて……)



違和感を感じた場所へ1羽ずつ小鳥を移し、その場所に土の魔術を行使した。



「……土よ。地中の魔術具を掘り起こせ」



メイシーは、目を瞑ったまま、土の魔術を行使して、その場からランプ型の魔術具を一斉に掘り起こした。

ただ、掘り起こしても何もでてこない地点が大半で、ランプが出てきたのは半分より少し少ないくらいだった。



「魔術具を燃やし尽くせ」



土から出てきた魔術具は、小鳥の目の前で炎に包まれ、あっという間に焼け落ちた。



(小鳥を移動させて、他の場所でも探索を……)


メイシーは、少し体がふらついたが、また魔術を行使しようと足を踏ん張った。

ハイド先生は、闇の中でもはっきりとメイシーの様子が分かっているようで、肩に手を添えて制止した。



「メイシー嬢。これ以上はやめておけ。外へ出てドメルと状況を確認しよう」



ハイド先生は、土の囲いを上から崩れさせ、ドメル先生とノアの前に姿を現した。


メイシーは、ノアの姿を見て安堵し、手を伸ばした。


ノアはサッと駆け寄り、メイシーがぐらついていたのを抱き止めた。



「お嬢様!」


「ノア、ちょっと魔力を使ってしまったみたい。でも、大丈夫」


メイシーはノアに寄りかかり、ドメル先生の方を見た。



「ドメル先生。魔力の同調はやめて、私の風の魔術で10個ほど、魔術具を見つけて壊しました。……でも、やはり闇の魔術具の気配を探るのは難しいです。100ほどの小鳥のうちの数十で反応を捉えた気がしましたが、実際に壊せたのは10個ほどです。すみませんが、先程の方法で、ハイド先生に魔術具を探していただきたいと思います」


「分かった。私が土の魔術を使おう。君も魔力を抑えたほうが良さそうだ」


「では、光の魔術を使います。先程の方たちは…」


メイシーが振り返ると、下半身が土に埋まっていた人々はドメル先生が掘り起こし、仰向けに寝かせてくれていた。



「倒れている方たちに、癒やしを」



メイシーは右手を伸ばして光の魔術を行使した。

光の粒は人々に吸い込まれ、大きな傷があった人々は、傷が塞がれたのが見えた。



「このすぐ北で、1つ魔術具を壊しました。その先は、数百メートルほどの間で気配が分からなかったので、魔術具が地中に残されていて、錯乱した人々が居るかもしれません」


「それだけ分かれば、かなり助かる。ドメルが構えるタイミングも予想しやすいしな」


「そうだな」


「お嬢様、私がお嬢様を背負います。歩く分だけでも、体力を温存してください」


ノアがメイシーの前にかがんでくれた。

メイシーは、その言葉に甘えることにした。


「ありがとう、ノア。悪いけれど、そうさせてもらえると助かるわ」



メイシーがノアの背中に乗ると、一行は北上を始めた。







メイシーの予想通り、少し先に進むと、錯乱した人々が見えた。ドメル先生は土の魔術を行使してメイシー達を壁に囲むと、素早く立ち回って錯乱する人々を手刀や拳で気絶させて行った。


メイシー達3人は壁の中で小鳥からその様子を確認し、感嘆の声をあげた。


「さすがドメル先生…!」


「やはり騎士は鍛錬の量が違うのですね。現役の頃はさぞ厳しい鍛錬をこなされていたと思いますが、ハルガンディ教授は、今も鍛錬を欠かさないと聞きました」


ノアが先生の鮮やかな動きに、目を釘付けにして見つめている。



「そうなのね。……やっぱり私も訓練しようかしら。そうすればこのような時に、魔術なしでも体術で立ち回れるじゃない?」


「……君は何を目指しているんだ?」


ハイド先生は、メイシーの感想に、何とも言えない表情になった。



「強い研究者というのも、良いと思うのです。魔獣が跋扈(ばっこ)する所へ向かっても、自分で素材が取れますし」


「……マセラッティとかポルデロイとかのような方向性か?彼らは狩猟を趣味として楽しんでいるようだが、オレは研究や資料の読書に時間を費やしたいね。素材狩りは騎士にも任せられるが、研究を突き詰めるには、己の思考が必要だからな」


「ミッティ先生とヒューバート先生は、確かに生き生きと北東の森へ出かけられていました。私にはそこまでの楽しさは感じられないですが、入手難易度の高い素材が今すぐに欲しい時には、自分で行くほうが早いのかな、と想像しまして」


「ああ…。君の実験は、高位の魔獣の素材をよく使っているようだからな。そういう理由なら、強い冒険者でも雇って、素材収集を依頼する方法もあるぞ。

それなら騎士たちの素材を待つより早い。君の家は資金に余裕がありそうだから、この方法がいいんじゃないか?」


「なるほど、冒険者ですか。ミッティ先生は、元冒険者だと聞きました。今度お会いした時に、良い方がいないか、伺ってみます」


「それがいいだろう」



ハイド先生と雑談をしている間に、ドメル先生が辺りの人々を、皆()してしまったようだ。


土の壁が地面に戻り、ドメル先生がこちらに近付いてきた。


「マージー。探索を頼む」


「了解」


ハイド先生が倒れた人々を避け、民家の間を抜けて遠のいていった。

入れ替わりに、ドメル先生が汗だくでメイシーの隣にやってきた。



「ドメル先生に癒やしを」


「あぁ、ありがとう」


ドメル先生は涼しい表情でそう言い、どこかで調達したらしい水の入った布袋を傾け、水を飲み始めた。

メイシーはドメル先生にニコリと微笑んだ。


「ドメル先生の華麗な立ち回りに、3人でドメル先生は素敵ねと、噂しておりました」


「ぐふっ!ゲホッゲホッ」


ドメル先生は、水を吹き出してむせてしまった。


「だ、大丈夫ですか?」


「ゲホッ…君!気をつけろ!もしここに殿下が居れば、私は間違いなく八つ裂きだ…!殿下の前で、他の男をみだりに褒めたりするなよ」


「えっ?体術の素晴らしさを褒めてはいけませんか?」


「それなら単純にそう言えば良い。男の名を呼び、素敵だなどと言わないことだ」


「すみません。深く考えませんでした」


メイシーは、単純に褒めただけだと思ったのだが、ドメル先生には危険に思われたようだ。


(私、この世界の文化や慣習に馴染めていないのかしらね。お母様にもっと色々と聞いたほうがいいのかな?)


メイシーは、そんなことを少し考えた。



「……孫ほどの年の君に、こんな言葉をかけられると思わず、油断した」


「孫には早くないですか?末娘くらいでは?」


「どちらでもよい。とにかく、気をつけなさい」


「はい、ドメル先生。……素晴らしい身のこなしでした。騎士の方々は、対人戦と魔獣討伐とで、それぞれ違った訓練をされるのでしょうね。大変そうです」


「最初は対人戦の動きから入る。魔獣討伐には、警らに数年あたった後で着任する者が多い。スタンリーは、入団当時からずば抜けて剣さばきが上手かった。なので彼は警らはそこそこに、すぐに魔獣討伐の実践に投入された。功労者達は全員が見込みのあると思われた者達だ。タイラーが彼らを育てる意味で、褒章に推薦したと聞いた」


「そうですか。……あの、ちなみに、殿下は?」


「殿下は8つで騎士団に入られた。1年後には当時の騎士団総団長をも凌ぐ戦いぶりで、すでに『戦の神』と、騎士たちから崇拝されていた」


「そんなに幼い頃から、騎士団に…」


「幼さは不思議とあまり感じられなかったな…。常に鋭く目を光らせ、誰よりも早く正確に敵を倒すのが殿下だったからな。そのスタイルは今も変わらない」



(陛下の属性の試練を終えて、間もなく騎士団に入られたんだわ。……当時の殿下は、何を思っていたのかしら)


メイシーは、小さな殿下が子供として無邪気に振る舞えなかったであろう当時を思い、複雑な気分になった。






ハイド先生に呼ばれ、メイシーは、周囲で倒れた人々を光の魔術で癒した。


「倒れた方々に、癒やしを」


人々に光の粒が舞い降り、傷を癒した。

ハイド先生がメイシー達に話しかけた。


「魔術具は2つ壊した。この先に煙が見える。多分火を消すために騎士たちが集まっていたんじゃないか。彼らが錯乱で暴れているとしたら、非常に厄介だな…」


ハイド先生は、フードを被り、足早に北に歩き出した。


ドメル先生も表情を引き締めて歩き始め、メイシーとノアも、二人のあとからついて行った。







少し進むと、人々の喧騒が聞こえてきた。


「ルぐぁァァァ!!」


「オォォォ!!」



一般人でも人間離れした動きだったものが、騎士たちとなると、さらに動きが俊敏になって、剣まで加わっている。


幸いにも、騎士たちは一般人ではなく騎士同士で剣を交えているようで、こんな状況でも体に染み付いた慣れというのはすごいなと、メイシーはただただ驚いた。



「お、恐ろしいですね……」


メイシーが震えると、ドメル先生はため息をついて土の魔術を行使した。



「土の神オメテオトルに告ぐ。騎士たちを張り倒せ」


「は、張り倒す?」


ドメル先生の土の魔術で、地面や民家の壁からいきなり杭のような突起が飛び出し、騎士たちに直撃し、騎士たちの体を強打した。


(あんなに打ち付けて、平気なの…?)


メイシーは顔を青くした。


ドメル先生は、素早く騎士たちに向かって走り出し、よろめいた騎士たちに風の魔術をぶち込んだり、腹部に重たい拳を打ったりして、次々と昏倒させていった。



「全く、ドメルめ。こんな時に遊びだすとは…」


ハイド先生は、顔を青くしているメイシーの横で、やれやれといった様子で肩をすくめ、こちらに気づいて近づいてきた市民に向かって土の魔術を行使した。



「土の神オメテオトルに告ぐ。周囲を沼に変えて市民を沈めろ」


「がァァァ!」


叫び声を上げながら近づいてきた、錯乱した市民の足元がガクンと沈み、メイシー達の周りで、次々と動きを止めた。


「ありがとうございます、ハイド先生」


メイシーは、火が消えていない箇所に、水の魔術を行使した。


「水よ、火を全て消せ」


水塊が火元に向かっていくつか弾けて、残っていた火を消火した。

ドメル先生は、まだ交戦中だ。

その様子を見てハイド先生が口を開いた。


「ドメルは何を隠そう、若い騎士たちより、誰よりも、彼自身が一番鍛錬好きだからな」


「そんなにですか…!」


「オレは遺跡や遺物の現地調査で騎士と共によく移動するんだが、彼らは聞いてもいないのに、オレの前で騎士団の話をしだす。おかげで騎士について詳しくなってしまった」


「まぁ、ふふ」



メイシーは、ハイド先生が騎士たちとわいわいと楽しく道中を過ごす様子を想像して、微笑ましい気分になった。


誤字脱字報告ありがとうございますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[気になる点] お嬢様、私がお嬢様をおぶさります。歩く分だけでも、体力を温存してください」 この[おぶさる]について2点。 ひとつはノアのセリフとすると主人公の背中にノアが乗る表現であるということ。…
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