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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-30

【注意】一部過激な表現があります。


謁見の間では、睨み合いが続いていた。


しかし、マヴァンたちの揃えた証拠は一見すると本物らしく見え、この状況で陛下がどう判断するのかは、明らかに思えた。



(この人たちは、どうしてもお父様の足を引っ張りたいのね。陛下に自分たちが正しいと嘘までついて返り咲きたいのかしら。こんなことをして、今ここにお父様が居れば、逆戻りどころか文書偽造だと跳ね返されて、牢に入れられるでしょうに)



メイシーは、この2人のことを全く理解できなかったし、市民にひどいことをしたり、ハイド先生に罪を着せようとした事実は、どんな事情があるにせよ許されないことだと思った。



「証拠などいくらでも捏造できます。実際貴方がたは、そうやって今まで嘘に嘘を重ねて来られたのですから。

けれど今はもう状況が違います。……一体どれだけの方が、貴方がたの味方になるのでしょう。こんなに多くの人を傷つけておいて、ただで済むわけがございません」


メイシーは強い視線でグリュイエールとマヴァンを射抜いた。


その威圧に、2人はぶるりと震え上がった。




「メイシー嬢、魔力を抑えよ。……其の方の言い分はただの感情論に過ぎん。この者たちを糾弾するなら、その理由となる証拠を、私の前に示しなさい。子供とて、これ以上根拠のない話をするなら、容赦せんぞ」



陛下は冷たいエメラルドグリーンの瞳をひたとメイシーに向け、メイシーを抑えつけるように威圧を向けた。



(今陛下に何を言っても、証拠だけを取ればこちらが不利だわ。お父様や殿下が居れば……。それに、もっと時間があれば……!)


メイシーは歯を食いしばった。




その時、扉が開いた。



「ドメル・ハルガンディです。火急の用があり御前に馳せ参じました」


ドメル先生の来訪に、皆が先生の方を見た。


先生は大きなテレビを部屋に運び込み、王宮侍女に持ち運ばせたイーゼル2台に立てかけた。


「これより陛下にグリュイエール前宰相の隠し部屋の中をご覧いただきます」


「な!?」



(やった!先生が何か見つけてくださったのね!)



先生の言葉に、グリュイエールとマヴァンは、血相を変えて慌て出した。



「お、お待ち下さい陛下!このような得体のしれぬ魔術具に、真実が映るはずがありません!この者たちが捏造したものに決まっております!」


「捏造した手紙や、確かめもせずに捕まえた現行犯を証拠だと言い張ったのはどこのどなたです?貴方がたはそこで、今から映る映像をよく見てください」



メイシーはまたグリュイエールとマヴァンを睨みつけ、ドメル先生に向き直った。



「ありがとうございます、ドメル先生!」


「礼ならマージーに言え。さあ、この小鳥をガラス板に」


ドメル先生はニッと笑うと、メイシーに小鳥を渡した。


メイシーは頷き、小鳥を煙に変えて、ガラス板の中に広げた。


パッと映った場面は、小鳥が上空から舞い降りてグリュイエールの屋敷の外観を映すところだった。




「必要な場面まで早送りします」


メイシーはそう言って、目の前の映像をどんどん送っていった。


ドメル先生がハイド先生と共に屋敷に忍び込んだところから、早送りを止めて普通に再生することにした。



「こ、この者たちは私の自宅に勝手に侵入しております!陛下、このようなことが許されるはずがありません!」


グリュイエールが映像を止めさせようと陛下の前で訴え、後ろを振り返ってガラス板を睨みつけた。


「こんなもの…!」


グリュイエールが魔術を行使しようと、手をかざす素振りを見せた。



「黙れグリュイエール」



陛下は底冷えのする声を出した。

その威圧に、グリュイエールは体を動かせなくなった。


陛下が片手を挙げると、数十名ほどの近衛が一気に部屋に押し入り、グリュイエールとマヴァンを取り囲んだ。



「メイシー嬢、続けなさい」



陛下の言葉に、メイシーは頷き、映像を再び再生し始めた。


先生たちは書斎に入った。

ハイド先生の闇の魔術で映像が真っ暗になったものの、しばらくするとハイド先生が書棚で何か検分する様子が映し出され、そのうち一冊の本を手に取った。


(この本…魔術具?)



メイシー達が見つめる中、本が黒い煙を出し、煙に覆われた書棚が扉に変わった。



「ここからが隠し部屋の中です、陛下」



ドメル先生の解説に、グリュイエールがどさりと膝をついた音が聞こえた。

グリュイエールの顔色は蒼白で、尋常ではない脂汗をかいている。

マヴァンも同じく、フラフラとよろめき、膝をついた。


テレビに映る部屋の中は薄暗く、陰気な雰囲気で、壁一面に広がる棚には、今回使われた物に似た闇の魔術具がズラリと並べられていた。


そして映像の中でドメル先生は、書棚に近づき、書類を1枚ずつ小鳥に向けて見せてくれた。


「これは収支報告書のようですね。……なるほど、本来納めるべき税は、この書類に全て記載されているようです。私の記憶では、この年の北部の貴族からの税収は、もっと少なかったはずですから。

グリュイエール前宰相および貴族派の面々の過去の申告書と、この書類を比べれば、不一致が分かるかと」


メイシーは、テレビから陛下に振り返ってそう告げた。


陛下は無言でテレビを見つめている。



「過去に市中で流行した、違法な薬物の含まれたアルコールと思われる酒瓶もございました。このまますぐに近衛を屋敷に向かわせて、証拠を保存させるようご指示いただけますか。

ただし、近衛に怪しい者が紛れ込んでおりましたので、近衛騎士団長を必ず現場に送っていただきたい」


ドメル先生の要望に、陛下は背もたれに深くもたれかかり、鷹揚に足を組んだ。


そして軽く片手を挙げて振ると、騎士たちが数名立ち去り、おそらくドメル先生の言った指示を実行するため、近衛騎士を招集しに行ったものと思われた。




「へ…陛下!我々は常に陛下と共にあったではないですか…!」


「どうか、どうかお助けを…!」


グリュイエールとマヴァンが、情けない声を上げて近衛達の間から滑り出し、陛下を見上げた。

マヴァンは陛下の前で頭を地面にこすりつけた。


陛下は冷たい視線を二人に向けると、口を開いた。



「助ける?なぜ?お前たちは皇帝の威光のもとで好きなように振る舞ってきた。私が何も言わぬのを良いことに、平民や下級貴族を虫けらのように踏みつけ、自分たちだけで甘い汁を啜ってきただろう?

お前達を捕らえるためにしばし言いなりになってやったが、結託する仲間が居なければ、こんな浅はかな事件しか起こせぬのか。哀れなものよ」


「あ……へ、陛下……」



陛下が手を挙げると、グリュイエールとマヴァンは近衛に引っ張られるようにして連行された。

しかし、グリュイエールが突然両手を振り回し、騎士たちを振り払った。



「くそ!くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉ!」



顔を真赤にして大声をあげて暴れ回り、焦点の合わぬ目でメイシーのほうに振り返った。


近衛は陛下を庇うように並び、ノアとドメル先生が、メイシーを護るために背に引き込んだ。



「なぜ私がっ!こんな目に!マクレーガンのせいでぇェェ!」



グリュイエールが狂ったように頭を振り乱し、懐に手を入れ、何かに魔力を込めた。


すると、グリュイエールの懐から閃光がほとばしった。



(危ないっ!)


「っ!氷の壁よ!!」







ーーーードン!!!






グリュイエールを中心に、爆発の炎が広がり、メイシーの咄嗟に出した氷の壁は、ドメル先生とノアとメイシーを瞬時に覆ったが、爆風の威力に、ビシビシと音を立てた。


爆発の炎に飲み込まれると思った瞬間、炎はまるで時間を巻き戻すかのように、中心に向かって収縮し、あっという間に小さくなって消えた。



「なんと醜い最期だ」



陛下が左手をかざし、火の魔術と風の魔術を同時に行使し、炎を小さくしたようだった。

氷の壁はガラガラと崩れ、メイシーの目には、爆発の中心に居たはずのものが飛び込んできた。


メイシーはハッとして、黒いものから目を逸らし、俯いた。

ノアがメイシーの視界を覆い隠すように、きつくメイシーを抱きしめた。


メイシーは、自分の心臓が激しく動悸を立てていることに気がついた。


(今の、なに…。人が……)



皆が突然の出来事に恐れ慄いている中、陛下が真っ先に異変に気がついた。



「マヴァンはどこだ?」


「…!?」


近衛達は真っ青になり、あたりを見回したが、その姿はない。

爆発の騒ぎに乗じて、囲んでいたはずのマヴァン前魔術長官に逃げられたのだ。



「くそっ!奴を追え!逃がすな!!」



慌てた近衛の声が響き、多数の近衛達が部屋を出て行く足音が響いた。


メイシーは、ノアの腕の中で、何かしなければと必死に頭を動かした。



「…小鳥、を」



メイシーは、やっとの思いでそう呟き、風の魔術を行使しようとした。

だが、動悸が収まらず、うまく魔術を使うイメージができなかった。



「ハァ…ハァ…」


「お嬢様…!?」



ドクン、ドクン、と心臓が嫌な音を立て、次第にメイシーは息をするのが苦しくなってきた。



「君!?大丈夫か!?」


ドメル先生がメイシーの様子に驚き、咄嗟にメイシーを抱きかかえ、慌てて部屋を出ようとした。

すると、いつの間にか陛下がメイシー達の近くまで移動しており、メイシーに手をかざした。



「すまなかった、メイシー嬢。今見聞きしたことは全て忘れてくれ」



陛下の光の粒がメイシーの体を包み込むと、息苦しさがスッと楽になった。



「ありがとう、ございます、陛下……」


メイシーがそう言うと、陛下は心配そうに、こう言った。



「全ての責任はこの私にある。君は正しいことをした」



陛下はドメル先生に目配せし、部屋を出て行くように促した。

ドメル先生は頭を下げ、メイシーを抱きかかえたまま、ノアと共に足早にその場をあとにした。



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