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たしなみ2-29



その時、平民街から爆発音が聞こえた。

ハッとして皆が南の方に目を向けると、遠くで土煙のようなものが上がり、叫び声や悲鳴が聞こえた。


メイシーは小さなガラス板を取り出し、南の方に止まらせた小鳥の映像を、どんどん切り替えて映した。



「あ!」



ようやく爆発音付近と見られる映像が見え、そこには土煙と、何人かのローブを着た魔術師たちが爆発により地面を掘り返し、地中深くに埋めていた下水道管を露出させている様子が映し出された。


そして、さらにその者たちが手をかざし、火の魔術が行使され、下水道管めがけて炎が放たれた。

それを見てメイシーは叫んだ。



「やめてっ!下水管が…!」


ーーーードン!ドンッ!!



爆発音が響き、テレビには壊れた下水管が映った。


メイシーは、スタンリー署長が駆け寄ってきたところで、小鳥の場所を告げた。



「……署長、これは中央大通り沿い南の下水管です。怪我をした人が居ないか、騎士たちに確認を」


署長はメイシーに頷き、すぐさま指輪で指示を飛ばした。


「南の4隊。中央大通りに向かえ。今の爆破で通りに大穴ができている。北の部隊は南下し、住民を迂回させろ」



メイシーは、大きな土煙が上がる方向を見て、強く怒りを感じた。



(一生懸命作った下水管を…。許せない!!)



メイシーの目には青い炎がゆらめき、体からゆっくりと魔力が立ち上り始めた。

その様子に、周囲の人々は息を呑んだ。



「私は王宮へ向かいます」



メイシーはきっぱりとそう告げ、馬車に乗り込んだ。

ノアは手慣れた様子でメイシーのあとに付き従い、共に馬車に乗り込むと、先生方に声をかけた。



「王宮へはどなたも行かれませんか?急ぎますので扉を閉めても?」


ドメル先生は、そのノアの言葉にハッとして、急いで馬車に乗り込んだ。


ワナン先生は、平民街へ入るため、中央大通の門へと向かっていった。


スタンリー署長は、馬車に向かって礼のポーズを取った。



「メイシー嬢。とうかご武運を。私はオルドリッジ公爵と、騎士たちと共に平民街の平定に努めます」


メイシーはその言葉に頷くと、光の魔術を行使した。


「署長や騎士の方々に癒やしを。……この場に居られぬ方々にも、どうぞよろしくお伝えください」


メイシーの光の魔術は、署長や騎士たちの頭上に降り注いだ。


馬車は、王宮へ向けて走り出した。






王宮の外門の手前で、メイシーは近衛の兵舎に目をやると、口を開いた。


「ドメル先生。この中にハイド先生が居るはずですよね。多少手荒になっても構いませんので、ハイド先生を救い出し、平民街へ向かっていただけますか?」



メイシーの言葉に、ドメル先生は呆れたような表情になった。


「……君は何を言っているのか自覚はあるか?水道管を壊されて頭に来ているのは分かるが『手荒でいい』とは侯爵令嬢が口にすべき言葉とは思えんぞ」


メイシーは、ドメル先生の言葉に、平然と答えた。



「だって、先に手荒な真似をしたのはどちらですか?これ以上犯人の好きにさせれば、市民の方々がさらに危険です。

それに、私の丹精込めて作った水道管を壊した罪は、何よりも重いです。たとえそれが陛下だとしても、謝罪させてやりますわ」



メイシーは、立ち上る魔力を大きくして先生に微笑みかけた。

ドメル先生は、顔色を一層悪くしてメイシーを見つめた。



「……わかった。わかったから、その威圧をやめなさい。まるで突然高い雪山にでも放り出されたような気分になる」


「あら、すみません先生。つい」


メイシーは怒りを滲ませたまま、ふふ、と笑うと、纏う魔力を緩めた。


「正直、牢破りなど全く気は進まないのだが…」


「では、破らなくても済むように、スマートにハイド先生をお救い下さいませ。賄賂でも魔術具でも何でも、うちから出せるものであれば、何でも出しますので」


「…それは武力で破るか悪事で破るかの違いであって、なんの解決にもなっていない」


「うーん…では、あのローブの現行犯たちが、ハイド先生ではなくグリュイエール前宰相やマヴァン前魔術長官に指示されたと自白した、と言ってハイド先生を連れ出すのはどうです?

今は混乱の最中ですから、近衛たちの間でも情報が錯綜しているでしょう。逆に今を逃せば相手に時間を与えてしまうことになります。一時的に牢を抜けてもらえば、あとは絶対に私がどうにかします!」


「……一体君にはどんな策があるんだ?相当な自信があるようだが…」


ドメル先生が不安げにメイシーに尋ねた。



「策などありません。話して聞く相手とも思えませんし、あちらが実力行使に出るなら、こちらもそうするまでです」



メイシーはそう言って、ニコリと微笑んだ。

ドメル先生は、メイシーの笑顔に、寒気を感じて顔色を悪くした。












王宮外門でドメル先生と別れ、メイシーとノアは、馬車で王宮に到着した。


王宮には近衛騎士が多数配置されており、1人がメイシー達の馬車に近寄って来た。


「これはこれは……マクレーガン侯爵令嬢。本日のご用件は?」



メイシーは、エスコートのために手を伸ばした近衛の手を無視して馬車を降りて、そのままずんずんと王宮内を進んだ。


近衛達は制止しようとしたが、メイシーが威圧すると、たじろぎ、凍りついたように足を止めた。


途中、衛兵や白いマントの騎士たちに制止をかけられたが、メイシーの威圧に負けたのか、どの者も顔色を悪くしてその場で硬直した。



赤い絨毯の長い回廊を抜け、シャンデリアが下がる広い大回廊も通り過ぎ、メイシーとノアは迷うことなく謁見の間へと歩を進めた。


謁見の間の扉には白いマントの騎士たちが据えられていたが、メイシーは強い視線を向けて開扉を要請した。



「扉を開けて」



メイシーの様子に、騎士たちは戸惑う様子を見せたが、ぎこちない動きで扉を開けた。




扉の向こうには、赤い絨毯が敷かれ、数段の階段の上に玉座があった。


頬杖をついて玉座に座る陛下は、突然開いた扉に目をやると、メイシーを見つけ、少し口端を上げた。


手前で話をしていたグリュイエールとマヴァンは、突然のメイシー達の訪問に驚き、声を上げた。


「! マクレーガン侯爵家の娘か…」


「突然現れるなど、無礼な」



メイシーはグリュイエール達の言葉を無視して、陛下に向かって深くお辞儀をし、カーテシーのポーズを取った。


「火急の用があり、馳せ参じました。

それから、先程は私の小鳥が迷い込んだようで、大変失礼いたしました」



メイシーの言葉に、陛下は片眉を上げ、面白そうに笑った。


「ああ…。あれは其の方の小鳥だったか。風の魔術の研究は、順調なようだな?」


「先生方のご指導のもと、新しい魔術具を鋭意開発しております」


メイシーがノアに目配せすると、ノアが鞄からノートサイズのガラス板を取り出し、その場で抱えた。


メイシーが風の魔術を行使すると、ガラス板にパッと平民街の様子が映し出された。


「な、なんだ?」


グリュイエールとマヴァンが目を見開いてノアの持つテレビに近づいた。


陛下は壇上のため、距離があるものの、興味深そうにテレビを見つめた。



「こちらには、現在の平民街の様子が映し出されております。先程、中央大通り沿いの下水道管が何者かに掘り起こされ、火の魔術で爆破されて壊されました。

そしてご存知のように、平民街では火災が起き、市民が暴動を起こす寸前です。

私は家臣として、陛下に王都の安全を脅かす者を報告する義務があると思い、こちらに参りました」


マヴァンは、メイシーの話に、ニヤリと笑った。



「私からも陛下にお伝えしたいことが。近頃平民街で市民の乱闘が繰り返し起こっておりましたが、その原因と首謀者を突き止めました」


マヴァンは、得意げに話を続けた。


「こちらのマクレーガン侯爵令嬢の話にある爆発も、その者が関係しているのでしょう。……闇の魔術の使い手が、ね」



陛下はマヴァンのほうに目をやり、話を促した。



「闇の魔術の使い手?」


「はい、陛下。ちょうど数時間前に、陛下直属の近衛兵が、怪しい人物を平民街で現行犯逮捕いたしました。

……その者の名は、ハイド・マージー」



マヴァンがそう言って、また不敵な笑みを浮かべると、陛下はマヴァンを冷たい瞳で、射抜くように見据えた。



「マージー家の人間が、なぜそのような騒動を?理由があるのか?」



マヴァンは陛下の言葉に、メイシーの方をちらりと確認してこう言った。



「それはマクレーガン侯爵に聞かねばならないことかと」


「……なに?」


「ハイド・マージーは、マクレーガン侯爵から多額の資金を受け取る代わりに、平民街へ闇の魔術の魔術具をバラまき、市民を暴徒化させ、貴族街へ入れさせようとしました」


「ふむ……。続けよ」


陛下は顎に手を当てて、マヴァンに話を促した。


「侯爵は、帝国を捨てて、別の国でより良い待遇で受け入れられることを望んでいるようです」


「………」


「彼は、そのために王都を混乱させ、帝国を捨てる意志があることを他国に見せつけるためにこのような暴動を企てたようです。複数の他国との書簡に、そのような記載がございます」


そう言って、マヴァンは、侯爵家の印璽の封蝋付きの手紙を、これ見よがしに見せつけた。


(あんな、偽物の書簡まで作って…!)



メイシーは憤ったが、マヴァンの説明に、陛下は否定も肯定もせず無表情にマヴァンを見つめていた。



「陛下。発言をお許しください」


メイシーは、たまらず陛下に直訴した。


「許す」


「ありがとうございます。……今のマヴァン卿の話はすべてデタラメです」



メイシーは陛下をまっすぐに見つめて話した。


「ハイド先生に王都民扇動の罪を着せたのは、他ならぬマヴァン卿です」


「なっ…、言いがかりはよしなさい!子供のくせに」


マヴァンは不愉快そうに眉を寄せ、メイシーを睨みつけた。

ノアが殺気を放ったが、メイシーはノアに振り返ると目配せして(たしな)めた。



「どちらが子供なのでしょう。都合の悪いことを言われて、そのような低俗な発言しかできぬなど…」


メイシーはそう言って、ため息をついた。

マヴァンはその言葉にカッとなり、メイシーにまくしたてるように悪態をついた。


「子供だからと許されると思ったら大間違いだぞ!私を名指しで貶めた罪は、一生をかけて償ってもらうぞ!」


「貴方こそ、自分が貶めたハイド先生に、その罪を認めて償いなさい」


「なっ…」


「陛下。こちらの魔術具では、映し取った過去の景色も見ることができます。ここに、市民を錯乱状態にしたあと、闇の魔術具を回収して回る者の姿が収められています」


メイシーが結晶から映像を流すと、陛下は興味深そうにテレビを見た。



「なるほど。この者が現行犯ということか?」


「はい。犯人は、マヴァン卿の配下の人間です。騎士団が連行し、取り調べしております」


メイシーがきっぱり断言すると、マヴァンはたじろいだ。



「な…!陛下、この者の虚言に付き合うのは時間の無駄です!そんな魔術具が証拠にはなり得ない。それに、ハイド・マージーは陛下直属の近衛が現行犯で捕まえたのですぞ!近衛は、奴が確実に暴動に関わっていると判断して連行したのだ」


マヴァンは、ふぅふぅと息を荒くして、メイシーに反論した。


グリュイエールがにたりと笑い、金歯をキラリと光らせた。



「どうやら結論は出ておりますな。こちらには侯爵の書簡や主犯を現行犯で捕らえたという確固たる証拠がある。一方でマクレーガン侯爵令嬢には何もない。ただの言いがかりだ」



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