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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-28


メイシーの放った小鳥は、王宮入口の各所や、中庭や離宮までの道など、外から見える場所を上空から映し出した。



(ずっと飛ばし続けるのはちょっと大変ね…)


メイシーは、すでにローブの不審者を追うのにも小鳥を使っているので、意識がやや分散しており、集中しなければ上空の小鳥を落としてしまいそうなのだ。


すると、スタンリー署長がメイシーに声をかけた。



「メイシー嬢。不審者を今2名捕らえました。あとの2名も騎士たちが周囲を包囲しておりますので、こちらの追跡の魔術の行使はここまでで結構です。本当にありがとうございました、女神」


そう言って恭しく礼をしたスタンリー署長にコクリと頷き、メイシーは追跡用の小鳥をいったん引き上げて、王宮上空の小鳥達に意識を集中させた。




王宮では、平民街の火の手を受けてか、貴族達がそこかしこで集まり、何かを話していた。

また、白いマントの騎士たちは、陛下の護衛のために王宮に集結しているようで、平民街には白いマントは1つも見当たらない。



「ハイド先生はどこに連れられたのでしょうか?」


メイシーの問いに、ドメル先生が答えた。


「おそらく近衛の詰め所だな。王宮の外門近くの近衛兵舎内に留置場がある。マージーはそこに連行されたはずだ」


「今騎士の方々が捕まえてくださった実行犯を引き渡せば、ハイド先生は解放されるでしょうか?」


ドメル先生は、難しそうな表情でメイシーに答えた。


「…マージーが無関係だと分かれば良いのだが…」


先生は、そう言って考え込んだ。



と、階下から騎士たちの声が聞こえてきた。

スタンリー署長は映像を見るのを中断し、メイシーに断りを入れた。


「メイシー嬢。しばしこの場を離れ、被疑者を留置場へ連行して参ります。ご負担かと思いますので、これ以上平民街の様子を探っていただかずともよいかと。長時間魔術を行使いただき、ありがとうございました」


「スタンリー署長、お気遣いありがとうございます。たしかに平民街のほうは、減らしましょうか。……市民の混乱は続いておますので、騒ぎの大きいところにカメラを。鳥の総数を減らして、王宮や貴族街に振り分けることにします。

それから、軽食を用意しましたので、よろしければいかがですか。そろそろこのお部屋に運べるかと思います」


メイシーの言葉に、スタンリー署長は天を仰いだ。


「我々の女神は、圧倒的な魔力と叡智に加え、強く麗しく、その上慈愛に満ち溢れたなんと素晴らしいお方なのだ…!我々は一生貴女様についてゆきます…!!」


「単なる差し入れに、そんな、大げさです…!」


「もはや何を言っても無駄だと思うぞ」



今にも拝みだしそうなスタンリー署長と、困惑したメイシーと、若干このやり取りに飽きてきたドメル先生が待つこの部屋に、ノックの音が響いた。


扉からノアが姿を現し、メイシーを見て安堵の表情を浮かべた。

そして綺麗に礼をして、メイシーが頼んだ物の到着を告げた。


「お待たせいたしました、お嬢様。馬車の荷台いっぱいにお食事のご用意がございます。今からこちらにお運びしてよろしいでしょうか?」


「ありがとうノア。スタンリー署長、机上にお食事を広げてもよろしいでしょうか」


「もちろんですメイシー嬢。手すきの騎士たちに運搬させましょう。被疑者の連行が終われば、すぐ私もお手伝いします、ノアさん」


そう言って、ノアとスタンリー署長は階下へと向かった。



しばらくして、スタンリー署長が部屋に入ってきた。

署長は硬い表情で、今しがた騎士たちから聞いた話を伝えてくれた。



「セオが捕まえた男は、捕まえた瞬間に、聞いてもいないのに『マージー卿に頼まれた』と話したようです。他の被疑者も同じようでした」


メイシーは、署長の言葉に、眉を寄せた。


「では、つまり、捕らえた4名を近衛に引き渡しても、ハイド先生は解放されないということですね?……なぜ、そんな嘘を…」


メイシーは、悲しい顔をした。


(現行犯が、揃ってそのような証言をしているなら、近衛に彼らを引き渡せば、逆にハイド先生の立場を追い込んでしまう。なぜこんなことに…)



市民の混乱は続いており、暴動になる可能性もあったため、騎士たちは結局、落ち着いて昼食を摂ることもままならず、馬車に積んであるサンドイッチを頬張りながら、警らのために出かけて行ったのだった。



少し申し訳ない気持ちになりながら、メイシーはドメル先生と、サンドイッチを食べた。


スタンリー署長は、相変わらず映像を見ながら、騎士たちに指示を飛ばしていた。



食事中も、テレビに映る王宮周辺や貴族街の様子をチラチラ見ていたメイシーは、ハイド先生を助けるために、どうしたら良いのかを考えた。


(実行犯がハイド先生の名前を出すということは、誰かに指示を受けたということよね。その()()を、捕まえないといけないわね)


メイシーが考え込んでいると、ドメル先生の声がした。



「おい、あれを見ろ」


メイシーがその声にパッと顔を上げると、王宮上空を旋回する小鳥の映像に、複数の貴族の男たちが登城する様子が映し出された。



「あれはグリュイエールとマヴァンだ。彼らは地方の領地に戻っていたはずだが、なぜこのタイミングで揃って登城しているんだ?」


「先程先生が仰っていた、貴族派の中心人物ですね」


メイシーは、二人の様子を追うべく、少し小鳥の高度を落として近づいた。


二人は白いマントの騎士たちに伴われて王宮の入口へと向かった。


(どこへ行くのかしら。……近づけるところまででも)


1羽の小鳥の気配を、できるだけ消すように意識した。


(オーディン先生は、あの水晶の魔術の時、ドメル先生に気づかれずに姿を映せていた。きっと、私にも似たことができるはず)


まるで空気になったように、小鳥の気配を消すことをイメージし、その小鳥をどんどん地上に近づけ、王宮の扉をくぐらせた。


ドメル先生は、息を呑んでその様子を見つめている。


(……他の小鳥は維持できない)


メイシーは、上空の小鳥をいったん近くの建物や木々に止まらせ、追跡用の1羽を除き、そのまま待機させることにした。


気配を消した小鳥は、グリュイエールとマヴァンの頭上から、2人の動きを捉え続けた。


2人は赤い絨毯の廊下をまっすぐ進み、シャンデリアの下をくぐり、いくつもの部屋の前を通り過ぎ、木でできた重厚で大きな扉の前で立ち止まった。



「ここは謁見の間だ。この先には陛下が居る」


ドメル先生が硬い表情でそう言い、固唾をのんでテレビを見つめている。


扉が開き、中に入ろうかというその時。





陛下の目が、射るようにこちらを見た。




メイシーはその視線の鋭さにドキリとした。




次の瞬間、映像は黒い煙か何かに覆われ、全く見えなくなった。








「……小鳥に気づかれました」


メイシーは、ため息をついた。


ドメル先生は、しばらく無言で暗くなった画面を見ていたが、険しい表情で口を開いた。



「やはり、勘付かれたか」


「……申し訳ございません」


「君のせいではない。君のおかげで、貴族派がこの騒動を引き起こした可能性が高いことや、陛下との何らかのつながりがあることがはっきりしたではないか」


ドメル先生は励ましてくれたが、メイシーは、唇を噛んだ。



「……あまり言いたくはないですが、彼らがいた時代は、王都の治安は今よりずっと悪かった。私個人的には、今のほうが断然まともだと思います」


スタンリー署長が、眉間にシワを寄せながら口を開いた。



「彼らには常に、黒い噂が絶えなかったからな」


ドメル先生が、署長の言葉に反応した。





その時、平民街の様子を収めるカメラに、騎士たちの制止を振り切り、貴族街へとなだれ込もうとする市民の様子が映った。


「平民たちが、炎から逃れようと北上してきたのか…。他の場所でも、すでに騎士たちが黒い煙で錯乱している者たちを抑え込んでいるので、手一杯で、応援が頼めない」


スタンリー署長が腕を組み、厳しい表情で画面を睨んでいる。



「貴族街に暴徒が入り込むぞ!……陛下は本当に、何をなさっているのだ。近衛達を王宮に集わせず、市民たちを鎮静化させねばマズいぞ…!」



ドメル先生は一層険しい表情になり、立ち上がって出ていく素振りを見せた。




すると、貴族街の方から、1人の男性が壁に近づいてきた。



「あっ!」


「ワナンか。…あいつ、1人で行くつもりか」



ワナン先生が、騎士たちに声をかけ、壁に登り、市民に向かって水の魔術を行使して、雨を降らせて注意を引き、何かを語りかけている。



「ワナン先生が、市民を鎮めようとしてくださっているのですね!ドメル先生、ワナン先生に加勢しましょう。私もここへ向かいます!」


ドメル先生が目を見開き、メイシーを見つめた。

ノアはずっと黙っていたが、メイシーの言葉に反応した。


「お嬢様。このような混乱の只中へ飛び込むなど、お嬢様の身が危険です!」



メイシーは、ノアに向き合い、口を開いた。


「あら。でも、市民たちが貴族街になだれ込んで、貴族街に妙な人物がウロウロしだせば、今よりもっと危険じゃない?壁に阻まれている今のうちに、貴族街から光の魔術を行使すれば、皆少しは落ち着くのではないかしら。火事は平民街の西側が中心よ。東側に誘導して、可能な範囲で、火を消すのを手伝ってもらいましょう」


「で、ですが…」


「ドメル先生、スタンリー署長。すみませんが、私をあそこまで連れて行ってくださいますか?私、お役に立てるかと思います」



メイシーは、そう言って先生に訴えた。




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