たしなみ2-26
「……お前達、もういいか?本題に入りたいのだが」
ドメル先生が呆れたようにそう言うと、騎士たちはパッと姿勢を正して、その場で気をつけのポーズになった。
「申し訳ございませんでした、閣下。どうぞ、お話ください」
キリッとした表情で、真ん中のマドックス様がドメル先生に話を促した。
「メイシー・マクレーガン。過去の景色は、ここにある魔術具で再生しよう」
「あっ、よろしければ、私に再生させてください。早送り再生いたしますので」
「あれか。先程やっていた再生方法だな。私も練習しておこう。今は君に頼むのが早いな」
ドメル先生が撮影した、ここ数日の王都の様子は、何ヶ所かに分かれていた。
その中で、ハイド先生が白いマントの騎士たちと口論していた場所に近い場所を教えてもらい、その場所の映像を再生する。
メイシーがテレビに手をかざし、早送り再生していく。
「わっ、すごい……!これなら気になる景色まで飛ばせるんですね。便利だなぁ」
セオ様が感心したように声を上げた。
ほかの四名の騎士たちも、メイシーの魔術に見入っている。
「ハイド先生が手紙の魔術を送ってくださったのは数時間前です。この映像は、何日前のものでしょうか?」
「三日前だ。こうして日付と場所を書いたメモとともに結晶を一つずつ箱に入れて保存している」
「ありがとうございます、先生……!箱ごと置いておいていただければ、とても助かります。次々確認したいので。
隣のテレビにも、古い日付の、現場付近の映像を流してもよろしいでしょうか?騎士の皆様方にも引き続き確認をご協力いただけますか?」
「もちろんです、メイシー嬢」
スタンリー署長が胸に手を当てて礼をし、メイシーに賛同した。
メイシーは、早速部屋にある五台全てに過去の映像を映し、持ってきた小さなテレビでも、今放っている小鳥の映像を確認することにした。
「署長さんとドメル先生はこちらの小さなテレビのご確認をお願いいたします。私は過去の映像を確認いたします」
「分かった。そのうち騎士たちが詰め所に戻って来るだろうから、人数が集まったら、学園の君の実験室にあるガラス板をこちらに移送しよう」
「了解です、先生」
しばらくメイシー達は、それぞれ映像を確認し、何か手がかりがないかを見続けた。
すると、メイシーが見ている画面に、ローブ姿の、フードを深く被った人物が、現場の近くをウロウロしている様子が映った。
その人物は、他に人が通ると、サッと物陰に隠れて、明らかに探られたくない様子だった。
しかし残念ながら、カメラの角度が悪く、何かをしているようだが、何をしているのかまではわからなかった。
(……怪しいわ。他のカメラにも映っていないかしら)
メイシー達が映像を確認していると、30分ほどで、階下に十数名の騎士たちが集まりだした。
メイシー達は、一度映像を止めて、実験室からガラス板を運ぶため、部屋を出ることにした。
メイシーが、集まった騎士たちの前に姿を現すと、騎士たちは皆、何やらそわそわしだした。
スタンリー署長が口を開いた。
「ここに居る騎士たちは、北東の森でメイシー嬢の光の魔術を受けました。ですので皆が貴女様に感謝をしております。本当なら、我々が遺跡にも同行したかったのですが、総団長に聞き入れていただけず……」
スタンリー署長が、とても残念そうな表情でメイシーを見つめた。
「そうでしたか……。あの、皆様、森では魔獣討伐、お疲れ様でした。皆様お一人お一人が、懸命に戦ってくださったおかげで今があります。本当にありがとうございました」
メイシーの言葉に、騎士たちは、皆先程のセオ様達のように、思い思いに面白いポーズを取っている。
メイシーは、署長さんに話しかけた。
「スタンリー署長。遺跡に同行くださった方々も、とても良い方達でした。もしお会いすることがあれば、お礼をお伝えください」
「あの者たちに礼など必要ございません。女神に光と水の魔術を行使いただきながら、あの体たらく。あの者たちにはしばらくの間、騎士の役目を体に覚え込ませています」
スタンリー署長は冷たい瞳でフッと笑うと、集まっている騎士たちに声をかけた。
「分かっているな、お前たち。我が君を落胆させることの無いよう、女神を全力でお守りせよ。その上で、王都を騒がせる輩を捕らえ、女神の憂いを晴らして差し上げよう」
「「「はっ!」」」
署長の言葉に、騎士たちは胸に手を当てて敬礼のポーズを取った。
「あの、女神ではないのですが……」
困った顔をしたメイシーが小さく呟くと、ドメル先生がポンと肩を叩き、諦めろ、とでも言うように、首を左右に振った。
ガラス板を運ぶため、メイシー達は五台の馬車で学園に向かった。
署長以下全員がメイシーの実験室に興味があるらしく、誰が行くのかで小競り合いになったため、メイシーが、全員で行くことを提案したのだ。
署内には現在誰もいないが、門を守る騎士が二人残るので、とりあえずそれで良いという話になってしまった。
道中、学園までのほんの少しの距離にも関わらず、騎乗した騎士がメイシーとドメル先生の乗った馬車の周りを取り囲んだ。
その物々しさに、少々恥ずかしい気持ちになったメイシーだった。
「王妃になった暁には、この者たちを近衛に取り立ててやれば良いのでは?喜んで働くだろう」
ドメル先生が可笑しそうに馬車の周りの騎士たちを見回して冗談を言うものだから、メイシーは、どう返事をして良いのやら、困惑した。
さらに、馬車のその会話を聞きつけた騎士たちが「自分だ」「いや、俺だ」と、なにやらまた小競り合いを始めてしまい、メイシーは頭を抱えたのだった。
学園に到着し、第1研究棟の前に馬車が止まると、ドメル先生とメイシーが騎士たちをズラズラと連れて歩く様子に、すれ違う何名かの生徒が、驚き、深くお辞儀をして道を開けた。
(やめて〜〜!ただガラス板を取りに来ただけなのに……!)
メイシーの実験室に着くと、騎士たちは一度扉の前で待機した。
「とりあえず、中でガラス板に布を巻きつけたいです。ですので隣の物置部屋から布を持ってきますね。その後馬車まで運搬をお願いいたします」
「では先に実験室に入るか。お前たち、ガラスに気をつけて入れよ」
「私はメイシー嬢に付いて布をお持ちします」
ドメル先生が騎士たちを連れて先に実験室に入室し、メイシーはスタンリー署長と共に隣の物置部屋に入った。
すると、すぐに実験室から「わーー!!」とか「ギャァァァ!!」という、雄叫びのような声がした。
驚いたメイシーが、布を手に、実験室に駆け込むと、部屋には面白いポーズの騎士たちが散乱していた。
「め、女神だ……!女神の絵姿だ……!」
後ろのスタンリー署長が、ポスターを見て息を呑んでよろめいた。
どうやら騎士たちは、ポスターに驚いたらしい。
「これは絵ではなく、魔術具を使った写真というものです。人が描いたものではないので、とても正確に細部まで表現されているのですよ」
メイシーは魔術具の解説をしたが、騎士たちはポーっとポスターを見つめ続けている。
「……素敵すぎる」
「見ろ、こちらに笑いかけてくださっている」
「これがあれば毎日女神に会えるのか?」
「はぁ〜……最高だ」
騎士たちが呟く声が全部聞こえて、メイシーは恥ずかしくなり、持っていた布の中に顔を埋めた。
そんなメイシーの表情を見て、何人かの騎士たちが、さらにその場にドサリと膝をついた。
ドメル先生は、面白いポーズの騎士たちを見て、やれやれといった様子で肩をすくめた。
「お前たち。彼女が助けたい、近衛に無実を訴えたい、と思っているのは、ここに写っているフードを被った男だ。彼がこの写真の機構を作った」
ドメル先生は、ポスターに写るハイド先生を指し示して騎士たちに解説した。
「つまりだ。彼を助けなければ、新たな写真は生み出せない」
「……!!」
「彼を助ければ、メイシー・マクレーガンの写真をいくつか撮ってもらえるかもしれん」
「……!!!!!」
「ど、ドメル先生……!なぜそのようなことを……」
ドメル先生の説明に、メイシーが意見を言うより前に、スタンリー署長が眼鏡を中指で触れながら、キリッとした表情で答えた。
「教授。お話は分かりました。ハイド・マージー教授をお助けすることは、我々の心のオアシスを守ることと同義のようです」
「そ、そんな大げさな……!いえ、ハイド先生は助けて差し上げたいのですが……」
「我々の女神、メイシー嬢。必ずや真犯人を突き止め、マージー教授を救出するとお約束します」
「あ、ありがとうございます……?」
スタンリー署長は、メイシーを笑顔で見つめると、恭しく礼をした。
そして、やる気に満ち溢れた騎士たちは、素早くガラス板を布でくるみ、重たい板をあっという間に持ち運んで、馬車に全て積み上げてしまった。
「良かったではないか。これで騎士たちは血眼になって犯人を探すだろう」
「……ドメル先生、可愛い生徒を売りましたね?」
「ふっ。気のせいでは?」
「いつもなら、殿下に知られたら恐ろしいと仰るのに」
「この者たちは私の騎士時代の最後の教え子たちだ。多少可愛がっても良いではないか」
「……では、ハイド先生をお助けした後は、ドメル先生と騎士の皆様と、私も入れていただき、集合写真を撮りましょう。それなら、まあ、文句は言いませんわ」
メイシーは、ドメル先生を見上げて、困った顔で笑った。




