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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-20


ドメル先生は、メイシーのテレビに、いたく感心していた。


「オーディンの水晶もすごいが、このガラス板は、絵画のように、大勢が一度に鑑賞するのに長けた形状だな…。それに、その小さな箱に閉じ込めた手紙の魔術は、同じものをまた見返す時に便利だ」


「はい。結晶は保存、板は再生のための魔術具です。ちなみにガラス板は、先日、高温で液状化した金属の上に、溶かしたガラスを浮かべて形作る方法を工房の方に説明書きを渡して、真っすぐできれいな平面になるよう、少し工夫したものなのですよ」


メイシーは、ガラス板を撫でて、少し微笑んだ。



「……君の発想力は、一体どこまで果てしないんだ?そんな製法、おいそれと教えて良いものなのか?いや、もういい。君の凄さについて議論をしているとキリがない」


そう言うと、ドメル先生は、ガラス板を見つめて考え込んだ。



「……このガラス板の魔術具、早速製作を依頼したいのだが構わないか?」


「え?それは、はい。大丈夫ですが…」


メイシーが理由を聞きたげにドメル先生を見た。



「……近頃王都内の治安が悪化していてな。平民街で市民たちが乱闘を起こすことが増えたのだ。騎士たちは巡回の頻度を増やしたり、市民に警戒を呼びかけたりしているのだが、どうにも妙な点が多くてな」


「妙な点ですか?」


「乱闘騒ぎを起こした連中を捕まえて、落ち着いたところで理由を確認しても、誰もはっきりと自分たちの行動を覚えていないと言うのだ。最初は飲み過ぎた酔っぱらいが記憶をなくしたものかと思っていたのだが、ここ数週間の間で、同じようなことが何度も起きた。

そこで、原因を突き止めるために市中を見回り、怪しい人物や証拠がないか探っているのだが、全く何も見当たらない。

その状況を打破するために、この魔術具だ」


「……小鳥を配置して、不審者などの手がかりを探るのですね」


「ああ。この騒動を長引かせるのはマズい気がしている。……犯人が、殿下の居なくなる隙をついて動いているようで、何か引っかかるのだ」


「……分かりました。私でできることがあれば、お手伝いいたします!」


メイシーは、胸を張って言いたいところだったが、そう告げた後、困った顔になった。



「ただ、この魔術具、まだ改良しなければいけないことだらけです。……現状でも確かに最低限の性能は持ち合わせているので、ドメル先生がこれで良いと仰るのなら、この状態でご利用いただくことは可能です」


「どの辺りが、君の懸念なのだ?」


ドメル先生は、メイシーとテレビを交互に見て、不思議そうな表情になった。

メイシーは、口元に手を当てて、テレビを見つめながら難しい顔で考え込んだ。



「まずは保存の魔術具。中の魔術は、外側の結晶が朽ちるまでは密閉できると考えられますが、術者が、手紙の魔術をどれだけ維持できるものでしょうか?」


「ふむ。そうだな。結晶の中だとしても、数週間もすれば、おそらく魔術は霧散するだろう」


メイシーは、眉を寄せた。



(それでは想像しているような、何年も何十年も記録を保存する、というビデオの役割には程遠いわ……)


「それ以外にも、まだ問題はございます……。音声です。小鳥をカメラ代わりにすると、小鳥は音声を拾うことができません。あとは、小鳥からの映像がやや不鮮明なこと。

そして何より、この結晶が、物理的に使い勝手が悪すぎます。再生のタイミングで中身をうっかりこぼして霧散させてしまいそうで、もっと工夫の余地があります。

……最終的には、この保存の魔術具には、たとえ術者が死んだとしても映像が残るようにしたいのです」


メイシーは、難しい顔をして、腕を組んでテレビを見つめた。


ドメル先生も、口ひげを触って、眉間にシワを寄せて考え込んだ。



「……それはまた、かなり高度な水準だな。君の要求を満たすには、このガラス板と結晶以外にも、まだ複数の魔術具が必要そうだ」


「ご指摘のとおりです、ドメル先生。私、まだカメラのほうには手を加えておりませんので、やはりカメラも作らねばと思います。小鳥に全てを任せるのは、難しいようですから」


メイシーはここまででかなり頭を使っていたようで、急に疲労を感じてしまい、近くの椅子に腰掛けた。


座る時に邪魔にならないようにとローブを少し持ち上げると、ポケットに何かの感触があった。



(……あ)


それは、以前ハイド先生にもらったキャンディだった。

メイシーは、ポケットにあったキャンディをそっと口に放り込むと、その甘さに、表情が緩んだ。



「そうやって菓子を食べる姿は、年相応だな」


「先生もいりますか?まだありますよ」


「いらん。子供から菓子を奪う趣味はない。私はそろそろ戻るとしよう」


「これはハイド先生に頂いたものなのです。ちょっとした糖分補給に最適ですね」


メイシーの言葉に、ドメル先生は動きを止めて、メイシーの手元を見つめた。



「……マージーが。そうか、まだ毎日、そうやって墓前に供えているんだな」


「墓前に……?」


「マージーには妹御が居たそうだ。もう亡くなったと、以前聞いた」


「……!」


メイシーは、ドメル先生の突然の言葉に、何と答えてよいのか、返事に詰まった。



「そういえば……。カメラ、という魔術具の機構が、まだ私にははっきりと思い浮かばんが、確かマージーは、以前闇と光の魔術で、古い遺物の正確な描き取りの仕組みを考えていたな。うまくいかなかったようで、途中で諦めていたと思うが……。彼にも話を聞いてみても良いかもしれんな」


「そうなのですか!ぜひお話を聞きたいです!」


ドメル先生とは、いったんガラス板を工房から融通することを約束した。その後、ドメル先生は自分の実験室へと戻って行った。



メイシーは、早速ハイド先生に手紙を書いてみた。




「長くそちらで調査にあたられていますが、まだしばらく滞在されるのでしょうか?


私の方は、新しい魔術具の製作に頭を悩ませております。

簡単に説明すると、見た景色を閉じ込めて、いつでも好きな時に見返すことができる魔術具です。

私が製作に行き詰まっていると見て、ドメル先生が、ハイド先生の知見を取り入れてみては、とアドバイスをくださいました。

以前ハイド先生は、闇と光の魔術で、遺物の描き取りに挑戦なさったそうですね。

私が今考えているカメラという魔術具は、まさに、目の前の景色を正確に描き写すことを想定しており、先生のご意見もぜひ聞いてみたいのです。


さて、連日徹夜などと、ご無理はなさっておりませんか?

お戻りになられましたら、一度第1研究棟にお寄りいただけますと幸いです。



メイシー・マクレーガン」




先生はまだ遺跡に居るので、手紙はノアに渡して、騎士に届けてもらうことになる。


メイシーは、ふと思い立ち、先程ドメル先生と見た大きなガラス板ではなく、小さめのノートくらいの大きさのガラス板を手に取った。


(まだ音もないし、不完全だけど、ハイド先生に送ってみようかな)



なかなか良い案だと思い、メイシーは、手紙の魔術の化身を肩に乗せ、先程別れたばかりのドメル先生ほか、授業中のユユメール先生を訪ねたり、学園を歩いているワナン先生に挨拶したり、研修生を引き連れて野外実験に臨むバーサ先生に出会ったり、実験棟で山積みの本に囲まれるオーディン先生に、進捗を話しに行ったり、ちょっとしたショートムービーを作ってみた。


それから、不在中のハイド先生の第10研究棟にも足を運び、そびえ立つ黒い建物の外観を撮影し、ハイド先生の実験室の前まで歩いた。

メイシーは、ノートを破いたものに、できるだけ太く大きく書いた文字を、扉の前にサッと掲げて写した。



『そろそろ学園が恋しくなってきましたね?』



(うふふ!もう1ヶ月近くも学園に戻っていないもの。ハイド先生、これを見たら帰りたくなるでしょう。帰ってきて私の魔術具作りを手伝ってください!)



メイシーは、作ったショートムービーを結晶に閉じ込め、ガラス板と共に、壊れないように何重にも布に巻いて梱包し、もう一通、この魔術具の使い方を記載した手紙とともに、ハイド先生のもとへ送った。











数日後、ハイド先生から手紙が返ってきた。



「毎度のことだが、君は突拍子もない。

あの魔術具が素晴らしい魔術と技術の、(すい)を尽くした逸品だということは理解した。

その発想力と実行力は、相変わらず手放しで称賛できる。


しかし、一体どういう意図であんな景色をオレに寄越した?

君の見る景色を覗いている感覚になって、どうにも居心地が悪い。


当然、殿下にはこれと同じものをすでに渡したのだろうな?

オレはあの人に目をつけられるのは御免だぞ。

君たち親子は、オレをからかい相手にして遊んでいるだろう?

そういう意味では、あの最後の質問への答えは『否』だ。

遺跡で静かに籠もっていれば、オレの平和は保たれる。


……しかし、君の正確に描き写す魔術具の開発には研究者として、とても興味がある。

それがあれば、遺跡の様子をあとから見返すことができる。

仕方がないので、こちらの作業はキリの良いところで止めて、王都に戻ることにする。




ハイド」




(やったわ!協力者ゲット!)



メイシーは一人、にんまりと笑った。

一番重要な返事がもらえたことにメイシーは安堵した。



(それにしても、これ、殿下にも送ったほうが良いかしら?まだ未完成だし、この結晶の中身も、どのくらい保つのか分からないんだけど……)


ハイド先生が手紙に書くくらいだから、王族へ新しい魔術具を見せるのは、大事なことなのかもしれない。



(今までも、楽しく作るだけ作って、あとの処理は大体お父様任せだったし……。盾は殿下からの要望だったから、ドメル先生やヨゼフ様がまとめてくださっていたし)


しかし、メイシーは、先日殿下に新しい魔術具のことを「また教えてくれ」と言われたことを思い出した。



(ご興味があるということよね。まだ試作品だけど、見せてみようかしら)


そこでメイシーは、早速、殿下に送る映像の中身を考えてみた。



(もうすぐ隣国へ行かれるし、帝国の景色でも撮ろうかしら。殿下はどんな映像なら喜ぶかなぁ)


どの場所がいいのか、騎士団の訓練場だとか、王宮の談話室だとか、色々と思い浮かべてはみたものの、いまいち、殿下の好きな場所かどうか、分からない。



(……せっかくなら秘密にして驚かせたいから、本人に聞くのは白けるわ。となると……)


メイシーには、一人、思い浮かぶ人物が居た。早速その人物へ手紙を書いた。




「お忙しいところ突然のお願いで申し訳ございません。

今製作中の魔術具は、気に入った景色を閉じ込めて、あとで見返すことのできる魔術具です。まだ試作段階で、不十分な点が多いのですが、殿下にもご覧にいれようかと考えました。

ついては、殿下のお気に入りの場所や風景を記録したく、ご存知の場所があれば、いくつか教えていただけますでしょうか?

できれば学園からそう遠くない場所ですと助かります。



メイシー・マクレーガン」




メイシーが、この手紙を魔術で送ると、すぐに返事が返ってきた。

どうやら協力してもらえるようだが、ご自分も撮影に同行したいとのことだ。


さらに、ノアには撮影の日に協力してほしいとのことだった。


メイシーは、ノアに説明し、急遽予定された、明日の撮影を待つことにした。



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