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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-18



数日後、学園の実験室にて。


メイシーは、風の魔術を使って、試行錯誤を繰り返していた。



(風の魔術で映像を作ることはできたけど、それを留めておくために、どうしたらいいのか分からないわ……)



陛下や殿下に、素晴らしい風の魔術を見せてもらい、あのイメージを、どうにか一枚のガラス板の中に閉じ込めておけないかと頭をひねっているのだが、うまくいかない。



根本的に間違っている気がするのが、映像を写し出すこと、映像を貯めておくこと、それらをガラス板1つでやってしまおうとしていることだ。



(カメラもビデオも、風の魔術でできると思ったのだけれど、映すことはできても、それを保存するとなると、別の方法を考えなければいけないかしら)



しかし、問題全部をいっぺんに解決しようとするのは良くないと考え、とりあえず、いったんは映像の保存について、新しい案を探してみることにした。





「……頭を使いすぎて疲れたわ。お茶でもしに行こうかな」


(ラグナーラお姉様、しばらくお会いしていないけど、お茶に誘ったら来てくれるかな?)


メイシーは、遺跡への旅以降、お姉様と連絡を取っていなかった。

それは、忙しかった、という理由以外にも、メイシーの中で思うことがあるからだった。


でも、メイシーは意を決して、ラグナーラお姉様に手紙の魔術を送ってみた。



「お久しぶりです、お姉様。

今日は学園にいらっしゃいますか?

もしいらっしゃるなら、お茶でもいかがですか?


メイシー」



すると、お姉様からすぐに返事が来た。



「ありがとう、メイシー。

お誘い、とても嬉しいわ!

ドメル教授から、貴女が侯爵様と、事業の関係でしばらく留守にしていると聞いたわ。

込み入った話のようだっだから、しばらくメイシーのお邪魔をしてはいけないと思って連絡は遠慮していたのよ。


学園のカフェで会いましょう。

私はすぐに行けるわ!



ラグナーラ」



メイシーは、お姉様の手紙を読み、そういえば、あの遺跡は、道路の敷設の問題に関わることだから、できるだけ秘密裏に調査をしに行った場所だったと思い出した。


(また隠される遺跡だし、お姉様には伝えないほうが良いのかも)



メイシーは、お姉様に遺跡のことを話せないのがとても残念だったが、お父様やハイド先生に迷惑をかけてはいけないと思い、口を閉ざすことに決めた。








学園のカフェはいくつか点在しているのだが、ラグナーラお姉様と使うカフェは、第1研究棟の最寄りのカフェなので、メイシーは迷わずそこへ行った。


お姉様は、もう奥のソファの席で待っていてくれた。



「お姉様!」


「メイシー!!」



二人は久しぶりの再会に、手を取り合って喜んだ。



「お久しぶりです、お姉様!父と、急な対応に迫られた案件に見舞われておりまして」


「ええ、ドメル教授から話を聞いたの。教授は、護衛の手配の関係で、メイシーのことを耳にした、と仰っていたわ」


(ドメル先生、色々とお気遣いいただいたようで、ありがとうございました…!)



メイシーは、ドメル先生にも、あとで挨拶に行かねば、と思った。





「お姉様、今日のお姿も素敵ですね」


メイシーは、お姉様が、今日は深い青のドレスに身を包み、オレンジ色の宝石のついたネックレスをしていることに気がついた。



「……私、絶対に締まりの無い顔をしているわ」


お姉様は、幸せそうににこにこ笑いながら、

そっとネックレスに触れた。



「順調なようで、何よりです!」


メイシーは、ラグナーラお姉様の幸せそうな笑顔に、こちらまで心が温かくなった。



「……メイシー。貴女、あちらの実験室には来ないの?」


お姉様は、少し探るようにメイシーに問うた。

メイシーは、お姉様の目を見て、正直に言った。



「もう、ウロボロスの研究が一段落して、またメッキ加工の発展について話が進んでいることは、知っています。あのメッキ加工については、ヨゼフ様に、これからも取りまとめていただければいいかな、と思っております」


ラグナーラお姉様は、眉を下げてメイシーの方を見つめた。

メイシーは、少し躊躇いつつ、ラグナーラお姉様に話を続けた。



「……あの、あとは、その…。過去の話ですが、一応、私はヨゼフ様に結婚の話を持ちかけられた人間です。なので、今はできるだけ、ヨゼフ様の周りをうろちょろしない方が良いと思いまして。お姉様に、なんの憂いもなくお幸せになっていただきたくて」



メイシーは、そっとお姉様の手を取って、にっこりと微笑みかけた。


「ヨゼフ様、お姉様に好かれて、きっとお幸せでしょうね!」


「メイシー……。貴女って子は……」



お姉様は、ちょっと泣きそうな顔になり、ぐっとこらえて、微笑んだ。



「気を遣わないで、と言っても、貴女は優しい子だから……。だけど、今はほんの少し、貴女に、甘えてもいいかしら?あの実験室は、私達の思い出がまだ沢山あり過ぎて。ふと、メイシーを心配していたヨゼフ様のことを思い出すの。分かっているのに、どうしようもなくて……」



メイシーは、お姉様の悲しみに初めて触れて、自分の至らなさに申し訳ない気持ちになった。



「お姉様、すみませんでした……。やっぱりあそこは、もう閉じてしまいますか?あまり広い場所も、もう必要ないと思いますし。お姉様は、どの研究棟の研修生になられるのですか?もし可能なら、そちらに実験室を用意してもらって、ヨゼフ様とお二人で拠点とされては?」


「そうね……。ただ、ちょっと言わなければならないことが。広さは必要なのよ。一応あそこは、貴女の名前の実験室だから、貴女と関わりを持ちたがっている研修生たちが、実験室から離れなくて……。ドメル教授にご相談して、今はメッキ加工のやり方を彼らに教えているの。後々、量産品を作る時に、彼らが役に立つだろうからと。難しいから、習得できる人は、半分もいるかしら、というレベルよ」



メイシーは、びっくりした。



「えっ?そ、それは…。私がどうにかしないといけませんよね?ウロボロスの試料の件が終われば、解散かと思っていました……」


「私もそう思っていたわ。でも、いったん繋がりができたと見て、メイシーの実験室のメンバーにして欲しい学生たちが大勢残っているのよ」


メイシーは、ヨゼフ様とラグナーラお姉様に、多大なご迷惑をかけていたことに、知らなかったとは言え、深く反省した。



「すみませんでした……!私、自分の実験のことばかり考えて、周りのことが見えていませんでした……!」


「いいえ、いいのよ。貴女がこのような些事に時間を割くのは、才能の損失よ。今はメッキ加工技術の習得に、あの部屋を使っているけれど、それもあとほんの一月、二月ほどで終わらせるわ。貴女から、大きい方の実験室を閉じても良いと聞けたから、ドメル教授にご相談して、私達の裁量で運営させてもらうわね」


「お、お姉様……!それではあまりにも、お姉様達に甘え過ぎです!私にも……」



メイシーがラグナーラお姉様に食い下がろうとすると、お姉様は、右手を挙げてメイシーを制した。


「いいえ。……甘えているのは私よ、メイシー。全部私の我儘で、貴女にお願いしているの。

貴女が私に気遣って、大きな方の実験室に、なるべく来ないようにしてくれていたのを、私は知っていて、ただ黙って見ていたの……。

貴女の思いついた技術なのに。ヨゼフ様や、他の先生方と、もっと議論して、発展させていけるのに。そんな秘めた可能性を、貴女の存在を、私は、自分の苦しさのせいにして、見て見ぬふりをして……。

もし、貴女に甘えさせてもらえるなら、私の気持ちが落ち着くまで、どうか、あそこの運営は、しばらく私達に任せてもらえるかしら?」


メイシーは、お姉様が、そんなにも思い詰めていたことを知り、心苦しくなった。


「お姉様!私、そんなにお姉様を悲しませていたなんて……。私はお姉様に、あんなにたくさん、親切にしていただいたのに……。ごめんなさい、お姉様!」


メイシーは、目にみるみる涙を溜めて、立ち上がろうとした。


お姉様も立ち上がり、メイシーの手を離さず、テーブルを回って、メイシーを抱きしめて、二人で隣り合ってソファに座った。



「どうしてそうなるの。貴女に悪いところなんて、1つもないじゃない?私がいけないのよ。本当に、私の心の問題なの。ね?」


お姉様に優しく、あやすように声を掛けられて、メイシーは、お姉様の背に腕を回して、ギュッと抱きついた。



「ごめんね、メイシー。……本当のことを言うと、私まだ、自信がないの。貴女がヨゼフ様のことを何とも思っていないことは分かるし、殿下が許すはずもないと理解しているの。でも、ヨゼフ様のほうが、まだ貴女に…」


「お姉様、そんなことあるはずないです」


メイシーはきっぱりと言い切った。



「ヨゼフ様は、とても誠実で素敵なお方です。そんな誠実な方が、お姉様にそのペンダントを贈られたのはなぜですか?」


「……!」


「あの方は、条件が良いという理由で、私に声をかけました。……気持ちは伴っていませんよ」


ラグナーラお姉様は、また少し泣きそうな顔になった。

メイシーも、目をうるうるさせながら、お姉様に向き合った。



「私……できれば、お姉様とお友達で居たいです……」


「……私もよ。勝手に、可愛い妹のように思っているの」


お姉様は、少し微笑んでメイシーに返事をした。



「じゃあ、家族ですね?お友達より、もっと末永く一緒に居られそうです」


「ふふ、貴女のお姉さんになれるなんて、とても光栄だわ」



メイシーは、お互いが落ち着いたのを見て、そっと体を離した。


「メイシー。私、この件については、もう貴女に謝らないでおくわ。謝れば、貴女はますます萎縮するでしょう?貴女の心遣いに、お礼を言わせて」


「……はい、お姉様。私、お姉様と笑ってお話ができるのが、嬉しいです!」


「ありがとう、メイシー」



お姉様は、メイシーに手を広げて、またギュッとハグをした。

お姉様は、温かくて柔らかくて、とてもいい匂いがした。




遅ればせながら、二人で注文した焼き菓子を食べた。

お茶はすっかり冷めてしまったので、もう一度注文した。



「ねぇ、メイシーのほうは、順調?殿下とはどうなの?」


お姉様が、にこにこしてメイシーに尋ねた。

メイシーは、どう答えて良いものやら、少し逡巡した。



「……いつも殿下には、色々な言葉をもらうのですが、私の方から殿下へ、その……、上手に言葉をお伝えできず。殿下は少し、ご不満な様子なのです。改善しなければと思うのですが、その、相手への気持ちを、言葉にすることが、とても難しくて……」


メイシーは、絞り出すように、ポツポツとお姉様に語った。


ずっとテーブルを見つめながら話していたメイシーが顔を上げると、お姉様は、口元を押さえて、目をキラキラさせてメイシーを見つめていた。



「仔ウサギの周りで、悩ましげにウロウロして身悶えているライオンの姿を想像するだけで、もう胸がいっぱいよ!!素敵な話をありがとう、メイシー!!」


「あの…私、そんなに良い話をした覚えは……」


「いいえ!!誰にも平等に興味のなかったライオンが、まさに今真実の恋に目覚めたのよ!私ったら、こんな重大なニュースを独り占めにして、なんて役得…!!ああ、素敵過ぎる……!!」



お姉様が歓喜に打ち震えている様子に少々驚きながら、メイシーは、温かい紅茶を飲み、ホッとひと息ついたのだった。





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