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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-14


オーディン先生に、あの謎の魔術について、簡単に説明した。



「ハイド先生が仰ったのは、私が神殿の遺跡の入口を見つけるために行使した、闇の魔術のことだと思うのですが」


「ほう。闇の魔術とな?なぜそれが風の魔術と思われたのじゃ?」


「ご覧いただくのが早いかと」



そう言って、メイシーは、あの時のように、部屋の様子を探る気持ちで、闇の魔術(風の魔術?)を行使した。


メイシーの両手からは、相変わらず白い煙が出てきて、部屋の壁面を白い煙が覆い尽くした。



「壁面の棚、下から2段目の箱に、色々な素材が入っていますね。……箱の底に鍵があるのは、隠しておられますか?それとも紛れ込んだ?」


「ほぉ!鍵は先週なくしてしまって、探しておったものじゃ。あとで箱から出しておこう」



オーディン先生は驚いた顔でメイシーを見た。


「お前さん、本当に器用に魔術を扱う。これほど幼いうちからそのような感覚を持つのは、才能、という言葉で片付けられるものか…」


「才能だなんて、そんな。学園に来る前は、自宅をしょっちゅう焦がしたり壊したり、人様には言えぬことばかりでしたわ」


「ほっほっ!我々魔術師は皆、多かれ少なかれ、全員がそのような経験を乗り越えて今がある。知っておるか?ワナンのやつ、今ではあのような落ち着き払った公爵家の当主になぞ収まっておるが、あやつは若い頃、火の魔術を暴走させて、公爵家の家宝を灰にしたのじゃぞ」


メイシーは、あのイケオジのワナン先生に、そんな過去があるとは想像もできず、オーディン先生の話に、半信半疑になった。



「まさか、あのワナン先生が…?信じられません」


「ほっほっ!長生きもしてみるもんじゃ。人間は本当に面白い。いつの間にか、思わぬ人物が大成しておるよ。あの悪ガキのワナンが、生徒にそんな風に思われるだなんぞ、儂にも想像できんかった」


メイシーは、ワナン先生のイメージとは正反対の話を、どうやって今のワナン先生に結び付けられるのか、全く糸口が見つからなかった。



「それで、先程のお前さんの魔術についてじゃが」


オーディン先生が切り出した言葉に、思考の最中だったメイシーが、ハッと頭を上げた。


「風の魔術じゃ。それも儂の感覚でいけば、練度10分の9といったところじゃ。儂でも先程の風の魔術は、数ヶ月か、悪ければ数年はやり込まねば、実現できん。……本当の話が知りたい。お前さん、一体このような魔術、どこで身につけた?」



オーディン先生は、鋭い視線でメイシーを射た。

メイシーは、オーディン先生の表情が、突然ガラリと変化したことに、戸惑った。



「……どこで、と言われましても…。ハイド先生に闇の魔術の感覚についてお伺いして、自分なりに想像を膨らませただけですわ」


メイシーは、困った顔でオーディン先生を見つめた。


先生は、しばらく無言で、あごひげに手を当ててメイシーの様子を見ていた。



「お前さんが悪い人間でないのが、救いじゃな……」



先生は、ポツリとそう言うと、壁面の棚へ向かった。

棚の箱からは、メイシーの言った通り、鍵が出てきた。



「助かったぞ。禁書庫の鍵を借りたまま、なくしてしもうての。このまま見つからねば、あやうく解雇じゃった」



先生は、何でもないことのように鍵をポンと宙に放り、パシッと手で掴んだ。



(き、危険過ぎる…!)


「先生、すぐにお返ししに行きましょう!私、実は、図書館に行きたいのです。今見せて頂いた風の魔術に関して、参考文献を見繕ってくださいませんか?」


メイシーは、オーディン先生の茶色のローブの袖を掴み、クイッと引っ張った。



「分かった分かった。あの嫌味な司書にコレを突き返したら、これ以上うるさい手紙を受け取らずに済むわ」


フフン、とオーディン先生は鼻で笑うと、メイシーを伴って、学園図書館へ向かったのだった。













その夜メイシーは、オーディン先生に出してもらった本に囲まれ、風の魔術の理論にどっぷり浸かった。


ノアには早く寝るようにと何度か言われた気もするが、メイシーの耳を通り抜けてしまい、結局その夜は、気がついたら空が白んで来ており、メイシーは、慌ててベッドに身を沈めたのだった。


そんな調子で、メイシーは昼前に目を覚まし、ノアに少々お小言をもらいながら、少し早めに自宅へと戻ることにした。



(せっかく学園にいる間にもっと実験を進めたかったのに、結局本を読むだけで終わってしまったわ……)


メイシーは、残念な気持ちになりながらも、テレビ実現のために、石工や鋳造師に、貴金属や石やガラスの加工をたくさん頼む必要があるな、と感じた。

そこで一度、ガラス板の発注をかけることにした。







夕刻。

マクレーガン侯爵邸に到着したメイシーは、お母様に出迎えられた。


「おかえりなさい、メイシー」


「ただいま戻りました!お母様」



メイシーは、お母様にハグすると、一緒に邸内へと歩き出した。


「お父様にも手紙でお伝えしましたが、ハイド先生のローブ、とても喜んでいただけました。お父様が、わざわざ素材を届けに実験室まで来てくださったおかげです」


「あの人ったら、本当にいたずら好きね。マージー卿はお困りじゃないかしら?」



メイシーは、少し考えてから、お母様に答えた。


「先生なら、きっと有効にお使いくださると思います!」


「そうねぇ…。マージー卿がローブを纏った姿を見たら、どんな反応をするのかしら。ねぇ、ちなみにマージー卿も、いたずら好きなお方だったりする?」


「??」


お母様のお話の真意を読み取れず、メイシーはこれについては、会話を続けることができなかった。


談話室に到着し、ソファに座ったメイシーは、同じく向かいのソファに座ったお母様に、別の質問をした。



「お母様、明日は王宮に上がり、私は殿下の付き添いで、陛下へお目通りする予定なのですが、何か気をつけることはあるでしょうか?」


メイシーの言葉に、お母様が顔色を変えた。



「何ですって…?王宮に行くのは、殿下の執務室へ行くだけかと」


「えっ?明日は陛下とのお約束に、殿下から付き添いを頼まれていたのです。……ノアに言い忘れたかもしれません」


「ということは、時間的には、陛下との昼餐会(ちゅうさんかい)へ招かれたということね?なるほど…」


お母様は真剣な顔で何やら思案し始めた。

メイシーは、後ろのノアに振り返り、声をかけた。


「ごめんね、ノア。私ったらうっかりしていたわ。殿下がお父様に会いに行くのに少し付き添う程度と思っていたから、そんなに重大なことだと思っていなくて…」


「私の方こそ、確認を怠りました。大変申し訳ございませんでした。奥様が何かお考えのご様子なので、ご指示に従いましょう」



メイシーはノアの言葉に頷き、お母様のお言葉を待つことにした。



「……おそらく個人的な会なのだろうけれど、念には念を入れて、他にも誰かが参加する想定で、手土産を多めに用意しましょう。服は昼餐会にふさわしいドレスを私が選ぶわ」


お母様の言葉に、メイシーは目を丸くした。



「他の方?沢山の方がいらっしゃる所へ、殿下と二人で参加するということですか?」


「沢山ではないわ。殿下が直接陛下にお断りを入れているだろうから、個人的な、内々の昼餐会だと思うの。ただ…」


お母様は悩ましげに表情を曇らせた。



「王妃殿下がお出になることも、あるのかしら…」


「王妃殿下、ですか…」



殿下には陛下とのお目通りとしか聞いていないため、殿下のお母様のことは、全く聞いていない。

メイシーは、急に不安になってきた。



(ちょっとご挨拶をして、世間話をして、解散じゃないの?突然話に上がった王妃様……どんな方か、全然記憶にない……)


確か、祝勝会には王妃殿下は参加されていなかった。


なぜなのか、今にして思えば殿下に色々と聞いておくべきだったのだろうが、メイシーは、当日は自分のことでいっぱいいっぱいで、また、会が終わった後は、それはそれで、討伐した魔獣の素材のことに意識が向き、そこまで気が回らなかったのだ。



(それに、誰も王妃様のことを話している方がいなかった。……参加されないのが当然ということ?)



「お母様、王妃様は、どうして祝勝会に参加なさらなかったのですか?ご体調がすぐれないとか……?」


メイシーの疑問に、お母様は曖昧に笑った。



「公式には、持病が理由になっているわ」


「なにか他にご事情が?」


「………私も詳しく調べきれなかったのだけれど、陛下と王妃は、仲がよろしくないらしいの。公式の場に2人で揃ってお出になったことは、陛下との結婚式以来、なかったと思うわ」


(え!)



メイシーは、殿下のあの話を思い出し、想像してしまった。


(……王妃様は、小さな殿下が谷底に突き落とされて、傷付いたということかしら……?)


メイシーは頭を抱えた。


(私ったら、なんて気が利かないの!祝勝会のあとも、ウロボロスのことで頭がいっぱいだったし、先生方の授業が楽しかったり、遺跡の話が出てからは、それに関心が向いてしまって……。ハイド先生のローブや、今度はテレビで頭がいっぱい……)



メイシーは、自分は王妃など、つくづく向いていないな、と痛感した。


殿下に求められ、最近ようやく、殿下と一緒に生きることを想像するようになったのだが、果たして王妃など、本当に自分に務まるのか?

現時点ではかなり危うい。全く素養がない。



(……王妃って、そもそも、何をするのかしら。外交で賓客をもてなす?威厳のある姿で式典やら会議やらに出席する?……考えただけで胃が捻れそう)


メイシーは、想像して、勝手に自滅した。


メイシーの顔色が悪くなったのを見て、お母様が心配そうに声をかけた。



「メイシー?貴女がそんなに嫌なら、お断りしてしまえば?」


お母様は、事もなげにそう言った。

メイシーは狼狽えた。



「で、でも、私が言い出したのです…。陛下は遺跡の件で、殿下を心配して魔術師を派遣してくださったので、お戻りになった殿下とお会いになるのをきっと望んでいるでしょうから、陛下にご挨拶に行かれては、と。殿下はあまり乗り気ではないようでした…」



メイシーの返答に、お母様はあらあらといった感じでこう言った。


「あら、なぁに?殿下にも可愛いところがあるじゃない。貴女に甘えているのね」



お母様は、ふふ、と笑って、メイシーの頬を両手でそっと包んだ。


「明日は私が、貴女を大人の女性に仕上げてあげる。たとえ陛下の前でも、怯んではだめよ。あなたはあなた。誰を前にしても、背筋を伸ばして胸を張って、堂々となさい」



お母様はそう言って、ノアを引き連れて、メイシーの衣装部屋へと向かっていった。



(お母様のような人のほうが、王妃に向いていそうだわ)



メイシーは仕方なく、1人で本でも読もうと、侯爵家の図書室へと足を運んだ。


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