表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/119

たしなみ2-3


翌日、メイシーは朝から湯殿へ行き、身支度を整えると、ハイド先生に手紙を送り、ドメル先生のところへ向かう時間を確認した。


これから数日は野営をするとなれば、膳は急げで、メイシーは必要な物をベッドの上に並べ出し、旅支度を進めた。


準備をしているうちに、あっという間に約束の時刻となり、メイシーは、第1研究棟のドメル先生の実験室へ向かうことになった。ハイド先生とは、研究棟の前で落ち合い、一緒にドメル先生のもとへ移動した。



「ごきげんよう、ドメル先生」


「急にすまないな」


「……ずいぶんと妙な組み合わせでやって来たな。何の用だ?」


ドメル先生は、ハイド先生とメイシーを交互に見て、とても不思議そうにしつつ、実験室に入れてくれた。



「単刀直入に聞くが、今日から数日、この娘に護衛を付けたい。誰か良い騎士を選抜してもらえないか?」


ハイド先生は、そう口火を切り、ドメル先生はその言葉に片眉を上げた。



「メイシー・マクレーガンに護衛を?どこに彼女を連れ出すつもりだ?」


「あの……他言無用でお願いしたいのですが、父が進める幹線道路の敷設の予定地に、遺跡群が見つかりまして。ハイド先生に遺跡の調査を至急でお願いすることになりましたが、私もお手伝いについて行きたいのです」


ドメル先生は、眉を寄せ、メイシーをじっと見た。ハイド先生が横からさらに説明を加えてくれた。



「北部の魔獣が多い地域なので、この娘を連れ回るには護衛が必要でな。悪いが腕のたつ者を何人か用意できないか?」


ハイド先生の言葉に、ドメル先生は、ふーっとため息をついた。



「……マクレーガン侯は何と?君の保護者は君の参加を許可しているのか?」


メイシーは、ドメル先生の言葉に、ぐっと押し黙った。その様子を見て、ハイド先生がため息をついた。



「この娘の魔力は、こんな時にこそ役に立つんだがな……」


ハイド先生がとても残念そうにそう言い、腕を組んだ。メイシーは、がくりと肩を落とし、なんとかできないものかと、すがるような目でドメル先生を見た。


ドメル先生は鋭い眼光でメイシーを見つめると、眉間のシワをぐっと深くして、口を開いた。



「……心当たりは、ある。とても腕が立ち、君を守ってくれるだろうし、参加に関し、マクレーガン侯を説得することも可能だろう」


「まぁ!!そんな方がいらっしゃるのですか!?」


メイシーは、パッと顔を輝かせてドメル先生を見つめた。ドメル先生は、苦い表情でメイシーを一瞥し、ハイド先生に向き直った。



「……最近騎士たちから、()()()がきつすぎて魔獣討伐のほうがラクだった、などというボヤきがちらほら聞かれてな。彼女を北部の遺跡群に連れると言うなら、少々過保護な保護者が二人に増えることになっても構わないか?マージー」


「……なるほど。まぁ、とにかくオレ一人で広大な遺跡群を回るのは骨が折れるからな。猫の手も借りたいが、猛獣も付いてくるのか……。まぁ、仕方ない」


「あの、お二人とも、何の話をなさっていますか?」


なぜかドメル先生とハイド先生の会話に入れず、置いてけぼりのメイシーだったが、その、とても頼りになりそうな騎士の方について聞いてみることにした。



「ドメル先生がおっしゃる騎士の方は、どなたでしょうか?私も知っているお方かしら?」


「……。私の口から言わねばならん事態というのは、かなり危険なのではないか?何があったのかは聞かんし、知りたくはないが、本来であれば君の方から真っ先に()()()に話を上げるべきところを、そうしないのはいかがなものか?」


「……あら?」


メイシーは、ここに来てようやく何か嫌な予感がしてきた。



「どうする?私から報告すれば、殿下はさらにご不満だろうが、君から言えば、少しは態度を和らげられるのでは?」



「で、で、で、殿下ですか!?」



メイシーは、本日何度目かの爆発を起こした。


このところギュウギュウにスケジュールを詰め込み、記憶から追い出すようにしているのに、全く改善の傾向も見られず、むしろ日増しに悪化している(ノア調べ)この症状は、近頃、所構わず発生して、メイシーを生命の危機に追い込んでいた。



「だめ!だめです!!殿下が来るなんて絶対に無理です!」


メイシーの発言に、ドメル先生とハイド先生は顔を見合わせた。



「よく分からんが、オレがこいつをどうしても連れて行くと言えば、気の毒な殿下と、騎士団およびドメルに恩を売れるということかな?」


ニヤリ、とハイド先生が不敵な笑みを口元に浮かべて、楽しそうにそう言った。



「貴殿の窮地には、騎士団一同は間違いなく力を貸すだろう。また、私から殿下に口添えしておく。確約はできんが、何か褒美があるかもしれんな」


「ふ、いいな。これからも危険な場所に出向く際には、この話を出させてもらおう。マクレーガン侯の不興をいくらか買うかもしれんが、調査自体は、不眠不休でやり遂げてやるつもりだ。侯にとっても、利益のほうが上回るよな?」


「マクレーガン侯は、この娘のことを目にいれても痛くないほど可愛がっているからな……。そこは何とも。ただ、娘の希望を叶える良き父だと褒め称えて、どうにか難を逃れることは考えられるぞ」


「その線でいこう」


ドメル先生とハイド先生は、メイシーそっちのけで話を進めている。


メイシーは、殿下が来るとか殿下に会う、などと考えるだけで爆発が止まらず、二人の会話を止めることができないでいた。



「ではお前は、今回の遺跡への旅に参加してもらえるよう、殿下に話を伝えることだな」


ハイド先生は、バシッとメイシーの肩を叩くと、話がついたら連絡をくれ、と言って退室していった。



「うう……ひどすぎます!私、今殿下とは会いたくないのです!!」


メイシーが顔を覆うと、ドメル先生は困った様子で、少し思案した後に口を開いた。



「……私は騎士として生きた時間が長かったので、このような場合に気の利いたことは言えんが……。人間、いつ死ぬとも分からん。後悔のないように、いつでも素直に言葉を伝えるのが良いと思うぞ」


「……ドメル先生」


ドメル先生は、眉を下げて少し笑い、メイシーが落ち着くまで、側でお茶を飲んで、ただ静かに一緒にいてくれた。


しばらく経過し、やがて、メイシーはのろのろと顔を上げ、決意した様子で、口を開いた。






「……手紙を書きます。女に二言はございません。私はハイド先生をお手伝いするため、北の遺跡に参りますわ」


メイシーは、ふーっと息を長く吐き出し、ローブから便箋と羽根ペンを取り出し、ためらいながら、時間をかけて手紙を書いた。



「殿下のことを考えると、いつもの私と違う私になってしまいます。

冷静になるためには距離を置く時間が必要でした。

すみませんでした。

都合のよいお願いで申し訳ございませんが、今から数日間、殿下にお力添え頂きたいことがございます。

ハイド先生のお手伝いで、北の遺跡の調査に参加したいと思っております。

父は難色を示していますが、ハイド先生のお力になりたく、また、学問の上でも興味があるため、ぜひお供したいのです。

遺跡周辺は魔獣が跋扈しており、私が参加する場合は、騎士の方を伴うようにとハイド先生が仰りました。

ドメル先生にもご相談し、殿下にお願いするのが最も適任だというお話になりました。

勝手を申し上げ恐縮ですが、私の願いは殿下以外には叶えていただけそうにありません。


……一緒に来ていただけますか?



メイシー」




呼吸を整えて、殿下のことを思いながら、メイシーは手紙の魔術を送った。


数分後。

すぐに返事が飛んできた。



「其方が私を頼りにしてくれて嬉しい。

私の愛の表現に、其方がかなり困惑したことは理解した。

其方のデビュタントまで時間もある上、結婚式はさらにその1年後だ。

其方の愛らしさにどうしようもなくなる時があるが、結婚するまでは少し我慢しよう。

王都から北の遺跡までは、其方の改良してくれた馬車で向かおう。

其方は父親と共に行くのか?

……私はメイシーと馬車に乗りたい。



ジョイス」




メイシーは、顔を真っ赤にして、手紙を読み終え、1つの疑問を口にした。



「……私、いつの間に、殿下との結婚式の日取りが決まっていたのでしょうか?」


「殿下のことだ。なんの抜かりもなく計画を立てていることだろう」


「で、でも、私、当事者ですよね……?当事者が知らないのは、さすがにおかしくないですか?」


「今知らされたのだから、それで良しと考えては?」


「そ、そんな……!!」


ドメル先生は、やれやれといった様子で表情を緩め、メイシーを生暖かい目で見つめた。



「適材適所ということだな…」


「な、なんですか!今、副音声に、割れ鍋に綴じ蓋、という言葉が聞こえましたよ?」


「殿下のことを割れ鍋だなどと。しかし規格外同士で、案外上手くまとまっているではないか」


「や、や、や……やめてください!!」


メイシーは、ドメル先生からの意外な(?)口撃に、タジタジになってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 先生二人が悪巧み(?)をしている傍できょとんとしてたり、爆発したり、タジタジになっていたり、メイシーちゃんは可愛いです。 先生方の口ぶりからして殿下のことだろうなと思いましたが、やっぱり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ