ヨゼフのお相手2 SIDE:ラグナーラ
触れた手から、自分の心臓の音が伝わるのではないかと思えるほど、ラグナーラは緊張し、ヨゼフとの間に、何かを期待していた。
エスコートされ、ダンスフロアに戻れば、周囲がさざめくのが感じられた。
今、曲が終わり、また次の曲が始まろうとしていた。
ヨゼフは何も言わず、すっとラグナーラの背に手を添え、ラグナーラの右手を肩の高さまで引き上げ、ホールドした。
「……貴方が来てくれて、嬉しかった」
ラグナーラが頬を染めながらそう呟くと、ヨゼフは目を見開き、固まった。
おかげで、周りはすでにダンスを開始しているのに、ヨゼフとラグナーラだけ、その場で立ち止まったままだ。
「……ふふ、貴方って、こんな崩れ方をなさるの?」
ラグナーラは笑って、二人の重ねた手を高くあげて、一人でヨゼフの周りをくるりと回った。
ヨゼフはハッとして、ラグナーラと再び型を保ち、ダンスに入った。
「ちょっとびっくりしちゃって」
ヨゼフが少し頬を赤らめながら、ラグナーラを見つめた。
今流れている曲はスローテンポで、激しいダンスは求められていない。
にも関わらず、ヨゼフはグッとラグナーラとの距離を詰め、ラグナーラを誘うようにクルクルと回りながらフロアを大きく移動し始めた。
ラグナーラの青と白のグラデーションの美しいドレスの裾が、二人がくるりと回る度に揺れて広がり、まるで水の女神が波に戯れているように見えた。
気がつけば会場中が、ラグナーラとヨゼフのダンスに魅了されていた。
曲が終わり、ホール中が二人への拍手に包まれる中、ラグナーラとヨゼフはダンスの終わりの挨拶をし、互いに笑顔で観衆に礼のポーズをとった。
「ラグナーラ嬢、飲み物でもどう?」
「ええ、ぜひ」
二人は曲の間中ずっとクルクルと回り続けていたので、踊り終えた今、少し息が上がっていたのだ。
ホールからテラスに向かう途中でヨゼフが給仕係のトレイからグラスを二つ取り、ラグナーラをエスコートした。
テラスに着き、ラグナーラにシャンパンを手渡す。
「楽しかったわね」
ラグナーラがそう言うと、ヨゼフも笑って同意した。
そして、間髪を入れずに、ヨゼフが口を開いた。
「……ねぇ、僕が来て嬉しかったって、あれどういう意味?」
ヨゼフは口元に笑みをたたえたまま、ラグナーラに問いかけた。
「……」
ラグナーラは、顔に熱が集まるのを感じながら、黙ってヨゼフを見つめた。
「君を妻にしたら、幸せになれるって、本当?」
「……当たり前ですわ」
「君の家族計画、あれってひょっとして、僕も入ってる?」
「……あ、貴方が……望むなら!」
ラグナーラは、どんどん質問攻めにされ、羞恥に耐えられなくなってきた。
(……前言撤回。この人は、Мじゃないわ!勝算が低くても挑むの。自分が欲しいものを得るために挑むの。空から狙いをつけて獲物を掴み取る鷲は、МどころかキレキレのSよ!!)
ラグナーラは、目の前のニコニコと笑う素敵な王子様を見て、自分の選択は、本当に正しかったのかしら?と、少し不安になるのだった。
祝勝会の数日後。
「ラグナーラお姉様!!」
「メイシー!」
二人が会うのは祝勝会以来だ。
学園のレストランにやって来たメイシーは、個室の扉からひょこっと顔を覗かせ、ラグナーラの姿を見つけると、青い瞳をキラキラと輝かせて足早に近づいてきた。
「お姉様っ!素敵でした……!!!」
メイシーはラグナーラに抱きつきながら、伝えたくてたまらなかったという風に、開口一番にそう言った。
「ありがとう。貴女の光の魔術もとても素敵だったわ」
「恐れ入ります。でも、お姉様とヨゼフ様の素敵なダンスを前にすれば、全てが霞んでしまいますわ……!」
「そうかしら……。思い出すとちょっと気恥ずかしいわ」
「ヨゼフ様と、いいこと、ありましたか?」
メイシーは、わくわくしながらラグナーラの表情を伺っている。
二人はようやく、テーブルに着席した。
「……そうね」
ラグナーラは、頬を少し赤らめて、メイシーから目をそらした。
「でも私、ちょっと早まったのではと、若干後悔し始めてるの」
「えっ?なぜです?」
「だってあの方ったら……」
ラグナーラはあの夜のことを思い出しながら、ドキドキと心臓が音を立て、顔が勝手に熱くなるのを感じた。
「ラグナーラお姉様……」
メイシーが、ラグナーラを見つめつつ、なぜか鼻に手を当てている。
「鷲は、獲物を見つけるまでは悠々と空を飛んでるのよ。でも、見つけると、静かに空から降りてきて、獲物はいつの間にか捕まえられてしまうの」
「……??お姉様の表現は、高尚すぎて私には難しすぎますわ」
「気がついたら、あっという間に距離を詰められていた、という話よ」
「まぁ……!」
メイシーは、その言葉に、ちょっとニヤニヤしている。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
きっと給仕係が来たのだと、軽く返事をしたラグナーラだが、次に聞こえてきた声は、最近よく一緒に過ごすことが多い、あの方の声だった。
「失礼、外からノアさんが見えたので話しかけたら、二人がいると聞いたので」
ニコニコしながら、ヨゼフが部屋に入ってきた。
「まぁ、ヨゼフ様!祝勝会以来ですわね。ごきげんよう」
「こんにちは、メイシー嬢。……ラグナーラ、君が読みたがっていた本、手に入ったんだ」
そう言ってヨゼフは、持っていた本をラグナーラに手渡し、「またね」と言って、さっさと部屋を出ていった。
そのやり取りを見て、メイシーが目を丸くしている。
「……『ラグナーラ』?あの、お姉様、聞き違いではなければ、ヨゼフ様はお姉様のこと、今『ラグナーラ』と……?」
「……まだ私も慣れないの。呼ばれる度にドキドキしてしまって」
「………!!!」
「頭の良い方だからか、色々と計算づくで私を弄んでいる気がするの。何だかやられっぱなしで悔しいわ……」
「結婚式には、お呼びくださいませ!!よろしければ全力で祝福をさせていただきますので!!!!」
「気が早くてよ、メイシー」
ラグナーラとメイシーは、クスクスと笑い合い、楽しい食事のひとときを過ごした。
おしまい




