たしなみ32
功労賞の授賞式が終わり、優雅な音楽が流れ出したのを合図に、ダンスパーティが始まった。
今夜のファーストダンスは、功労者全員だ。
メイシーは、さも当然のごとく殿下に連れられてホール中央へ歩を進めた。
ラグナーラお姉様は………。
(ん?)
お姉様は、何故かグレン様にエスコートされてダンスフロアに向かっている。
(えっ、ヨゼフ様は??)
メイシーは、ヨゼフ様の姿をキョロキョロして探した。
すると、ヨゼフ様は、見たことのないご令嬢をパートナーにしていた。
(えっ?えっ??授賞の時は、ラグナーラお姉様はお父様と入場されていたし、ヨゼフ様はお一人だったわよね……。ヨゼフ様!?)
メイシーは、ヨゼフ様のことが気になりすぎて、チラチラそちらを見てしまった。
すると、メイシーの背中に添えられた手に力が込められた。
「……私の前でよそ見とはいい度胸だな、メイシー」
「え!それは、その……」
「言い訳は聞かない。其方は私だけを見ていればいい」
「で、殿下……」
メイシーは殿下のその言葉に顔を赤くして俯いた。
「顔を上げて」
曲が変わり、踊り始めるタイミングだ。
観衆が、ダンスフロアに注目している。
「……皆が其方を見ている」
殿下は、開始直後にメイシーを高く抱き上げ、くるくると回りながらメイシーを着地させた。
メイシーのエメラルドグリーンのドレスが花のように揺れて広がり、観衆が『ワッ!』と湧いた。
「殿下……!」
「よそ見などするからだ」
殿下が楽しそうに目を細めて、再びメイシーの背に右手を添え、左手でメイシーの手をグッと引いて動いた。
メイシーは、殿下のリードになされるがままだ。
二人はフロアの中央から観衆の近くまで颯爽と移動し、観衆の手前で、殿下がメイシーの上半身を大きく反らせて、まるで見せつけるかのように留まり、ゆっくりと体を起こしてまた背中を引き寄せた。
二人のパフォーマンスに、観衆は拍手と歓声で答えた。
「……やりすぎです、殿下!」
「これでも自重しているが?」
「どこがです!私を見世物にするおつもりですか?」
「何を言う。其方は自分の価値を全く分かっていないな」
「……どういう意味です?」
「今宵は其方の姿を見にやって来た者たちだらけだ。せっかくなのだから『花の妖精』でも『癒やしの女神』でも『光の女神』でも、好きな呼び名を増やしておけ。信奉者が増えれば、其方が後々王妃になった時に良い手駒となる」
「で、殿下……!」
メイシーは、呼び名についてはよく分からなかったものの、殿下が将来的にもメイシーを望んでいることを告げられた気がして、顔が熱くなった。
ダンスはそろそろ終盤に差し掛かっている。
曲がフェードアウトした時、殿下がメイシーの耳元で囁いた。
「メイシー。其方に祝福を」
殿下がそう告げると、メイシーの頭上からはキラキラと光の粒が舞い降り、メイシーに触れると、溶けるように吸い込まれた。
観衆は、その様子にうっとりとしていた。
「きれい……」
「其方の明るい未来に」
殿下はメイシーに微笑んだ。
メイシーは嬉しくなり、殿下にも同じ祝福を贈りたくなった。
殿下の手を取り、そっと目を閉じた。
「……殿下に全ての祝福を。どうか、陛下と殿下の平和な治世が続きますように」
メイシーの祈りは光の奔流となり、ホールの天井高くまで昇り、やがて最も高いところで弾け、会場中に、まるで流星のように勢いよく降り注いだ。
壇上の皇帝陛下は驚きに目を見張っている。
会場中の人々が一斉に天井を見上げ、美しく幻想的な、降り注ぐ光のきらめきを、驚きや感動や、ワクワクした気持ちで見つめていた。
「……其方はいつでも、誰の予想をも上回ってくる。流石、メイシーだ」
殿下が、呆れたような表情で、口元には笑みをたたえてメイシーを見つめた。
メイシーは、やりすぎて失敗したと思い、肩をすくめたが、目の前の殿下も、周りの観衆たちも、実験室の仲間たちも、皆が驚き、笑い、楽しそうにしていたので、身をすくませるのを止めた。
そして、いたずらっぽい笑みを浮かべてこう言った。
「………これはたしなみの範疇です!」
おしまい




