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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第一章

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たしなみ31


祝勝会が行われるのは、王宮の中央付近の式典用のホールだ。


ホールは天井が高く、上部からはいくつものシャンデリアが下がり、部屋の中央には、帝国の紋章が入った大きな長いタペストリーが掲げられている。


陛下から名前を呼ばれて功を称えられる場所は、そのタペストリーの前の壇上である、とのことだった。


日暮れ現在、ホールには国内の貴族が大勢集まっており、開始を今か今かと待っている。




その時、時を告げるファンファーレの音が会場全体に鳴り響き、壇上には皇帝陛下が颯爽と姿を現した。


陛下は、淵が白く中央が赤い、金糸で装飾された長い毛皮のマントを胸元から肩に掛け、裾は数メートル床を引きずるようにしてやって来た。


マントと同じ、赤と白のたっぷりとしたドレープの衣服は、陛下の貫禄を、より増している。


ホールには数百人の貴族が居るはずだが、今は全員が、陛下の様子を固唾をのんで見つめていた。




「ーーー今日のこの日、帝国を脅かす脅威に打ち勝ち、再び我が国にさらなる繁栄をもたらしてくれた英雄たちを、忠実なる帝国臣民である其の方らと共に祝えることを、心より嬉しく思う」


陛下のその声に、ホール中が拍手喝采に包まれた。


拍手が止み、再び観衆達が陛下の次の言葉を待つと、陛下はホール中を見回すようにして、口を開いた。



「まず、此度(こたび)の魔獣の大量発生では、討伐にあたり、騎士からも、帝国民からも、死者を一人も出さずに収束を迎えられた。これに貢献したのは、騎士団の装備品を改良し、戦に挑む騎士たちの防御を高める防具や、魔獣を迅速に屠る武器作りに挑んだ、魔術学園の13名の魔術師達だ。私は彼ら一人ひとりに敬意を表したい」



「また、彼らは魔獣大量発生の原因究明にも尽力した。これも、帝国民全体の安全へ多大に貢献したものとして、同13名を重ねて称えるものとする」



「此度の魔獣大量発生は、兆候から発生までが短期だった。かなり切迫した状況の中、騎士団のための補給路と交通網の整備、支援物資の手配を迅速に行った者の功労も、忘れてはならない」



「さて、今回は皇太子、ジョイス・ゼメルギアスが討伐の総指揮を執り、数多(あまた)の魔獣を屠りながら瘴気の発生地点へと踏み込むという、歴史上類を見ない戦となった。まずはこの戦いに参加したすべての騎士達を称え、中でも最も激しい戦闘を乗り越えた英傑6名へ、私からその戦功を称えたい」



「以上が此度の魔獣討伐における主な功労である。それぞれを称えるため、名を呼ばれた者はこの場へ姿を表すように」





「ジョイス・ゼメルギアス


…………メイシー・マクレーガン」



陛下が二人の名を呼んだところで、会場中がどっとざわめいた。


開かれた扉からは、ジョイス皇太子殿下が、彼の瞳と同じエメラルドグリーンのドレスを身に纏った令嬢を伴い、会場に現れた。


その意図は、誰がどう見ても明らかだった。


階上に現れた二人は、殿下のエスコートでゆっくりと階段を降り、ホール中央の壇上までの長い赤い絨毯の上を、上品に歩いていった。


貴族たちのざわめきは止まないどころか次第に大きくなり、卒倒する令嬢や、顔を青くする令息が、ちらほらと見られた。


メイシーは、緊張で胃が捻れそうな思いだったが、左側で余裕の表情で微笑む殿下につられて、自身もなんとか口元に微笑みを絶やすこと無く、衆目の間をにこやかに、楚々とした様子で進んでいった。





其の方(そのほう)ら、前へ」


壇上に至る階段の手前で立ち止まり、礼のポーズをとっていた二人に、陛下から声がかかった。


再び殿下がメイシーの手を取りエスコートし、壇上に上がる。


殿下がメイシーの肩をそっと押し、先に陛下の御下へ行くように促した。




「メイシー・マクレーガン」



メイシーは、陛下の近くに行き、タペストリーの直線上にある、放射線状の床の装飾の中央に腰を落とした。



「其の方は、若干13歳にして魔術学園に入学した。学園では騎士たちの盾の製法を編み出し、加えて、皇太子の剣へも特別な魔術の加工を施した。これらは、これまでの騎士たちの魔獣討伐の負担を大きく軽減させ、騎士たちの命を守った。また、其の方は、野営地へ出向き、皇太子や騎士たちを、その類まれなる光の魔術で回復させ、周囲の瘴気をも、一時的に霧散させた。これらは帝国民へ、計り知れないほどの恩恵を与えた。……よって、其の方へ、金貨5000万枚と、私の名のもとに叶えられる願いであれば、一度限り、どのような内容でも叶える権利を与えよう」



陛下の言葉に、ホール内は騒然とした。

これは陛下からの一度限りの特別請願権を得るということだ。

メイシーには、例え陛下から依頼されたことでも、意に沿わぬ場合は断ることができるし、何か願いたいことがある場合でも、陛下のできる限りにおいて、願いを聞き届けられるという権利が与えられたのだ。


これが破格の厚遇であることは誰の目にも明らかで、13歳のメイシー・マクレーガンの将来は、確実に安泰であると思われた。




「……恐れながら申し上げます、陛下」


「許す。面を上げよ」


メイシーは、ゆっくりと顔を上げて陛下を見上げた。

陛下は整えられた口ひげで口元を隠していた。

ところどころ白くなった、少し長めの金の髪の上に王冠を被り、威厳のある表情でこちらを見つめている。


エメラルドグリーンの瞳は、息子である皇太子に、しっかりと受け継がれていた。



「……私は5歳の頃より、事業を計画したり、魔術具や魔術の研究を行ってまいりました。信じていただけるのかは別にして、平民街の下水道整備の発案や、浄水の普及の発案、揺れの少ない馬車や車両に冷気をもたらす装置、扇風機など、すでに様々な事業の発案や魔術具の開発に携わりました。このどれもが、すべて自分の楽しみのための、いわば実益を兼ねた趣味でございます」


メイシーの発言に、ホール内にヒソヒソと話し声がさざめいた。



「同じく、この度の騎士の盾の製法は、私にとっては、ほんの興味本位、些細な好奇心を満たすために実験した……その結果でしかありません。そのため、盾の量産で実質的に苦労をなさったのは、メナージュ侯爵家ご令息ほか、学園の関係者の皆様です」


ホール内の人々の話し声は次第に大きくなり、観衆の動揺が表れていたが、メイシーは構わず奏上を続けた。



「この褒賞は過分に過ぎます。……魔術学園に入学してまだ日が浅いにも関わらず、このように褒賞をいただけば………その……。


私が卒業するまでの間に、国庫を空にしてしまうことでしょう」


陛下が息を呑み、唖然とした表情になった。

メイシーはさらに続ける。



「……どうか、私への功労はお控えいただき、私の発案を普及させるために奔走くださり、様々なお手数をおかけした、学園の先生方、ならびにメナージュ侯爵家ご令息、ルデルニエ子爵家ご令嬢にこそ、この場をお譲りしたく存じます」



「これは私にとっては、ほんの()()()()でございますので」



メイシーは、にこりと微笑んで陛下を見つめた。

陛下は眉を寄せ、メイシーの発言に、あり得ないといった様子で驚き、動揺を隠せないでいた。



「………色々と、信じられない発言があり、困惑しているが……。其の方は、つまり、先に述べた論功に異議あり、と申すのだな?」



「仰るとおりにございます、陛下」



メイシーは、微笑を浮かべながらカーテシーをして、再び頭を垂れた。


メイシーの後ろで、殿下がこらえきれず、声を上げて笑っている。



「……陛下。彼女は間違いなく国庫を空にします。本来であれば、彼女はこのような公の場で功績を称えられることなど、最も忌避するもので、受賞の拒否も考えている様子でした。ですが私は彼女を説得し、こうしてこの場に招きました。………彼女には、隠しきれない才能と高い魔力がございます。どうか、彼女のこれまでの来歴に拍手を。これを以て、彼女への公の場での褒賞など……無意味で陳腐な行為は、今後一切行わないこととしていただきたい」



ーーーードッ!!



会場は地鳴りのような歓声と拍手に包まれ、メイシーのびっくり発言への称賛・疑念・興味など、観衆のすべての感情を()い交ぜにしてぶつけたような、湧き上がる喝采は、長い時間、止むことはなかった。





(これで、私はもう、このようなお式に出ることはなくなるのよね……?)


メイシーは、やりきったような達成感を味わいながらも、本当にこれで大丈夫だったのかしら……?という不安は拭えなかった。


(……でも、もう言ってしまったんだもの。なるようになるわ)






メイシーは、再び殿下にエスコートされ、壇上から降り、観衆から見て左側の貴賓席へと歩を進めた。


それからは、ヨゼフ様、ラグナーラお姉様、ドメル先生、オーディン翁、ミッティ先生、ヒューバート先生、ユユメール先生、バーサ先生、モーリシャス先生、ワナン先生、フルルーナ先生、ハイド先生が順に呼ばれて式次第が進行した。


なお、壇上の声はすべて、魔術で各所に拡声されており、実験室の皆がメイシーの発言をすべて、しっかり耳にしていたので、皆が一人ずつ貴賓席へ入る度に、メイシーは仲間たちからの質問攻撃に耐えねばならなかった。



お父様は、お母様を伴って入場した。


二人はにこやかに観衆の間を進み、お父様は壇上で功績を称えられた。


貴賓席へとやって来た二人は、先生方に取り囲まれていたメイシーのもとへやってきて、ハグをしてくれた。

そしてお父様は殿下へと向き合った。



「……まさかこんなに派手に事を進められるとは思いませんでした」


お父様が、少し苦虫を噛み潰したような表情をした。


「メイシーの存在や能力を隠そうとしても、もはや不可能と断じたのだ。安心せよ、メイシーのことはこれからは私が守る」


殿下が簡潔にそう答えた。するとお父様は、ムッとした表情で答えた。



「……まだ娘は13です、殿下。現時点で、婚約者でも、ましてや配偶者でもない殿下のお手を煩わせることはないかと」


「ふむ。今日は帝国中の貴族が、私がこうしてメイシーを伴ったことの意味を痛感したはずだ。彼女が私の庇護下にあることは明白で、これからメイシーは、困ったときには私を頼ることになると思うが、まだ親の力など必要なのか?」


殿下とお父様の間に、静かに火花が散った気がした。

メイシーは、二人を交互に見つめ、殿下に話しかけた。


「あの、殿下?私は、父や母の力添えなしには、今ここにおりません。これからも、私がどれだけ年をとっても、私が二人の娘であることには変わりません。……どうかそのことはご理解くださいませ」


メイシーがそう言うと、殿下は、一瞬面白くなさそうな表情をしたが、気を取り直して微笑むと、お父様に向かってこう言った。



「では、未来の父君。メイシーは将来私が大切にするので、結婚するまでの僅かな間のみ、其方に彼女の安全を任せるとしよう」


「ぐ……!」


(なぜ二人は、こうも険悪なのかしら?仲良くすれば、これほど強力なタッグはないでしょうに)



メイシーは、全く静かに式に臨まない貴賓席の面々と、隣の殿下と父の小競り合いに、少々呆れながらも、先程までの緊張がほぐれ、なんだか逆に微笑ましいとすら思えてきた。



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