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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第一章

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たしなみ30


祝勝会当日。


メイシーは、結局、祝勝会に出席することとなった。


悩んだ末、殿下のご提案を受けることにしたせいでもある。


その日はノアが張り切ってメイシーの支度を手伝ってくれた。


朝起きて早々に、湯殿へ直行し、いい香りの香油を全身にくまなく揉み込まれ、髪も入念に(くしけず)られて、肌や髪のコンディションを一番良い状態に整えてもらった。



「まぁ!すごいわ、ノア!いつの間にか凄腕の美容係ね?」


「お嬢様を、ホールで一番お美しくしてみせます!!」


ノアは、ラグナーラお姉様直伝の美容情報をフル活用して、メイシーの本日の装いに挑戦してくれるのだ。


今日着るドレスは、殿下からの贈り物で、綺麗なエメラルドグリーンのドレスだ。



(……瞳の色と同じドレスって、やっぱり、かなり……意識してしまうわ)


考えると顔が真っ赤になりそうなので、メイシーは、なるべくドレスのことは意識の外へ追いやるようにイメージしてみた。


湯殿から上がり、メイシーの体が火照るのを冷ます間に、ノアがドレスやアクセサリー、靴など、すべての着用品の確認と、手順の確認を行っていた。



火照りが落ち着いたところで、お化粧の開始だ。

おしろいを塗ったり粉をはたいたり、キラキラした粉をデコルテと頬にパタパタと付けてもらった。

瞼や唇にも、きれいな色のポイントメイクが施された。


「では、今日は先に髪型を整えますね」


ノアがそう言って、髪に櫛が入った。

そして、おもむろに鉄の棒を取り出し、棒に髪を巻き付け、何度もそれを繰り返した。



(美容に疎い私も知ってるわ……。これはヘアアイロンね!?)


火の魔力の込められた魔石が、中に一定間隔で入っているらしい。



(ふうん……現代のものと基本的には変わらないのね。あとでよく筒の中身を見せてもらおうっと)


ノアが一生懸命髪を巻いてくれて、毛先がクルンと美しくカールした。

これを、指先に少しつけた、ベタベタとした髪用の糊のようなもので崩れないように固定する。

ノアが器用に、メイシーの両方のこめかみから後ろに編み込みの筋を作り、後ろの髪もまとめて、ゴージャスなポニーテールにしてくれた。


仕上げに、髪の上から、キラキラとした粒が入った粉をかけてくれた。



「わぁ……!今日のお化粧と髪は、とてもパーティっぽい華やかさね!」


メイシーは、鏡の中の自分が、どんどんと変えられていくのに驚いた。



「もっと華やかになりますよ。ドレスを着て、胸元と耳にアクセサリーを付けますので!」


ノアの指示に従って、ゆっくりとドレスに袖を通した。

肩を出したデザインで、ふんわりと腰から膨らんだシルエットのそのドレスは、誰が見ても、お姫さまの着る素敵なドレスだった。



(衣装負けしそう……)


メイシーは何だか不安になったが、ノアの手で胸元にエメラルドのネックレスを付けられ、耳にも揺れる小さなダイヤのイヤリングを付けてもらい、再び鏡を覗き込んだ。



「お嬢様、とてもお綺麗です…!」


ノアが目を輝かせて褒めてくれたメイシーの姿は、たしかに王宮のきらびやかなホールに居ても違和感のない、素敵なお姫さまのようだった。



「ありがとう、ノア。こんなに素敵に見えるのは、貴女が一生懸命頑張ってくれたおかげね」


そう言って、にこりと微笑むと、ノアが両手を頬に当てて、うっとりとした表情になった。


「……世界一お美しいです、お嬢様……!」


「まぁ、ふふ。勇気が出るわ」


メイシーは靴を履いて、ノアにドレスの裾を持ち上げてもらいながら、階下の玄関ホールにまで降りていった。


踊り場からは、すでにお父様やお母様の姿が確認できた。



「……!!!」


「……まあ!メイシー、美しいわ!!」


お父様は驚いて声を失い、お母様は、喜色満面の笑みを浮かべて、メイシーが階段を降り終えるのを、今か今かと待っている。


メイシーが二人のもとにたどり着くと、お母様は軽くハグをしてくれた。

お父様は、何やらウルウルした瞳でメイシーを見つめている。



「いつの間にか、こんなに素敵な淑女になっていたのだな……」


「お父様やお母様にとって、自慢の娘になれたら良いのですが……」


「なっているとも!十分だ!!」


お父様も、そう言って軽くハグをしてくれた。メイシーは、二人の手を取り、ニコニコしながら馬車へ向かったのだった。




祝勝会は夕刻からの開始で、暗くなるとホールでのダンスパーティーに切り替わる。


功労者として招かれているメイシー達は、他の列席者とは別に、控室が用意され、事前にそちらへ入るようにと通達を受けていた。


メイシーにも、両親とは別に一部屋用意されているようだった。


馬車が王宮に到着すると、まだ他の列席者の姿もなく、スムーズに馬車を止められた。


馬車からはお父様が先に出て、お母様やメイシーが降りる時に手を取ってエスコートしてくれた。

メイシーが馬車から降りた瞬間、控室までの案内役を務める従者が、驚いたように固まった。



「?」


疑問に思いながらも、メイシーがニコリと微笑むと、従者は「失礼しました」と言って、何やら顔を赤らめ、踵を返して先頭を歩き出した。


王宮に入ると、控室までの道中に何人かの貴族が居たのだが、メイシーと両親が連れ立って歩く姿に、驚いたような表情をしていた。



(声をかけられなくてよかったわ。お父様が居るからかしら?)


メイシー達は、無事に控室に到着し、功労者として招かれている面々は、それぞれが控室で式次第の確認を行う段取りとなっていた。


メイシーは、早々に確認を終え、控室で一人の時間を過ごすことになった。


すると、コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。


外からは「メイシー、ラグナーラよ」と言う声が聞こえた。



「ラグナーラお姉様!」


扉を開けると、お姉様が、海のような青と白のグラデーションの素敵なマーメイドラインのドレスを着て佇んでいるのが目に飛び込んできた。



「なんて美しいの!メイシー!」


「お綺麗です、お姉様……!」


お互いがお互いの装いを褒め合い、この場で会えたことを喜びあった。


各部屋の入口には、衛兵が配備されているのだが、何となく、衛兵がラグナーラお姉様を見ているような気がした。


(これだけのお美しさだもの……。見たくもなるわね)


メイシーは、ラグナーラお姉様を室内に招き入れると、呼び鈴を鳴らして王宮の侍女を呼び、お茶を用意してもらうことにした。



「……貴女のそのドレス、殿下が?」


開口一番に、ラグナーラお姉様が、そう尋ねた。



「はい……。あの、やっぱりやり過ぎですよね?このお色では、なんというか……」


(何か激しく勘違いしてしまいそうになるんだけど……)


メイシーが少し頬を染めて返答すると、ラグナーラお姉様は、ふふふ、と微笑みながら口を開いた。



「今日初めて貴女を見る貴族たちにとっては、分かりやすいアピールよね……。とうとうライオンが仔ウサギを手中に収めるのね……」


ラグナーラお姉様は、何やら感慨深げにメイシーを見つめた。



「あの……。お姉様の比喩表現は、私には高等すぎて理解できませんが……。前半だけ、分かりました。殿下が、私を、その……ご自身の瞳の色のドレスを纏わせて、私のことを自分の身内なのだとアピールなさる、ということですよね」


「オブラートに包めば、そう解釈できるかしら……」


「包まなければ?」


「自分の女に手を出すな、と」


「……!!!」


メイシーは、ボンッと顔を真っ赤にして、思いっきり顔をソファに埋めたくなった。


しかしその行動のせいで、朝からのノアの努力が水の泡になると思い、寸前でとどまり、代わりに両手でパタパタと自分の顔を仰いだ。



「ねぇ、メイシー。私の話も聞いてもらっても?」


「もちろんです!お姉様」


「今日はホールの階上から、功労者が一人ずつ名を呼ばれて降りてきて、皆の間を歩き、陛下の御下(みもと)で功績を称えられるけれど……。エスコート役を、ヨゼフ様にお願いしてみたの」


「まぁ!」


「……でも断られたわ」


「ええ!?」


「『同情してそんな冗談を言わなくてもいいよ』なんて言うのよ」


「なんと……!!」


「食い下がろうかとも思ったけれど、私ったらダメね。人様の恋愛模様ならゴマンと見聞きしてきたけれど、自分のことになると、途端に臆病になるのだもの……」


「お姉様……」


ラグナーラお姉様が、長い睫毛を伏せてアンニュイな表情になった。



「お姉様、あの……私が言うのも変ですが……。ヨゼフ様は傷心です。そこをラグナーラお姉様のような、お美しい、知識も教養もある、大変素敵な女性に声をかけられれば、コロッといってしまっても可笑しくないかと!!」


「まぁ、ふふ。励ましてくれてありがとう。断られたことをあまり変に捉えずに、私は毅然としていようと思うわ」


「それが良いかと。ヨゼフ様は、グイグイと押されるよりも、ゆっくり関係性を築くのを好まれるように思いますし」


「そうねぇ……。ただ、ゆっくりしているうちに、周りに変な虫が付かないように、見て回らなければとは思うけれど。本人には性急さを感じさせず、かつ周囲はいつの間にかしっかりと外堀を埋める作戦で行こうかしら」


(流石ラグナーラお姉様だわ……!!)


メイシーは、ラグナーラお姉様のたくましさに、心のなかで拍手を送った。


ラグナーラお姉様は、これから式次第の確認のために、打ち合わせに入られるとのことで、ここで退室されていった。



(では、私もお父様やお母様のお部屋に行かせていただこうかしら。でもお父様たちのところには、お仕事のこととか、色々な人が出入りしてそう。それならこの部屋で本を読んで過ごすという手もあるわね……)


メイシーは、控室内の本棚の前に立ち、面白そうな本がないか、物色を始めた。



コンコン



そこに、だれかが扉をノックする音がした。



扉に近づき「どなたでしょう?」と尋ねると、一言、返事が返ってきた。



「私だ」



「……!!」



メイシーは、聞き違えるはずもない、そのよく通る声を耳にして、ハッとして自分の格好に目をやり、どこもおかしくないだろうかと見回した。



「どうぞ……」


そう言うと、外の衛兵が扉を開けてくれた。



「…………!!!」


「……!」


殿下は、黒い軍服に身を包んでいた。

青い飾帯を付け、太い金の飾緒を肩から胸元にかけて下げ、胸元にはメダルや豪奢なバッジが並んでいた。



(……分かってはいるけれど、この方は王子様なのね……)


メイシーが殿下の凛々しい姿に見惚れていると、殿下の方は微動だにせず、メイシーをじっと見つめていることに気がついた。



「あ、あの……殿下……。よろしければ中へどうぞ……」


メイシーは、ドキドキしながらそう伝えたが、殿下はそのままメイシーを見つめ続けている。



「……其方は、私をどうしたいのだ?そのような美しい姿で、二人きりになろうと誘うなど……」


「そ、そんな……。殿下が訪ねてくださったので、おくつろぎいただこうと思っただけですわ」


「………なんてことだ」


そう言って室内に踏み込み、後ろ手で素早く扉を閉めた殿下は、メイシーに歩み寄ると、グッと腰を引き寄せ、メイシーの顔に、その美しいお顔を寄せてきた。



(……!!)


思わず目を閉じたメイシーだが、予想に反して、唇は一向に塞がれる気配はなく、恐る恐る目を開けると、殿下がコツンと鼻と鼻を合わせて、メイシーの目を覗き込んできた。



「……早く成長してくれないと、私の身が保たない」


殿下は心底残念そうにそう言うと、顔を離した。


「も……申し訳ございません」


「其方は私の苦労を本当に理解しているのか?」


「え、えっと……?」


殿下はムスッとしてメイシーを見て、メイシーの左手を取り、ゆっくりと口元に近づけ、指先にキスをした。


メイシーの胸は、ドキドキと早鐘を打った。

メイシーが頬を赤らめる様子を見て、少し溜飲が下がった殿下は、砂時計に目をやり、メイシーに声をかけた。



「………さて、準備は良いか?予定通り、会場に向かうとしよう」


殿下はそう言って微笑み、エスコートのために、メイシーの方へ腕を差し出した。


メイシーは、殿下に少し不安げに寄り添ってこう言った。



「……大丈夫です。でも、うまくいくでしょうか?」


「私は楽しみで仕方がない」


殿下はそう言うと、メイシーを伴って部屋をあとにした。



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