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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-51


メイシーは、殿下と会議室の前で別れた後、ノアと二人で殿下の執務室まで歩いていた。



「会議室から執務室までほんの少しの距離なのに、殿下ったら護衛を付けるだなんて、大げさよね?」


メイシーはドアの前で別れ際に行われた、先程の押し問答を思い出してため息をついた。


(「また後で」といった直後に、まさかあんなに、何度もお願いされるなんて)



「何も大げさではないかと。お嬢様には常に護衛が必要です。以前ラグナーラ様との登城の際に不埒な輩に絡まれたことは、本当に痛恨の極みでした。

お嬢様にとっては、護衛などただの飾りでしかありませんが…。それでも、お嬢様が守られるべきお方なのだと周囲に示すことが重要なのです」



ノアは周囲を警戒しつつ、メイシーのすぐ後ろを歩いた。



「自慢じゃないけど、私が魔力を放てば、大抵の犯罪者は近寄れないだろうと、お父様やドメル先生にも言われたことがあるのよ。こんな僅かな距離に護衛なんて要らないでしょうに」



メイシーが何度も護衛は必要ないと言ったおかげで、殿下は護衛をつけるのを諦めたのだが、今、メイシーの視界に入らない場所に、騎士たちが大勢配置されている。


王宮を歩き回る貴族たちが、メイシーの通り道に入らないように、騎士が交通整理をしてくれているらしいのだ。



「……何だか見えないところから見守られている感じが、逆に怖いわ」


「気色悪いだけで実害はないでしょうから、まぁ放っておきましょう」


メイシーは周囲から感じる視線にブルリと身を震わせると、ノアの手を取って殿下の執務室へと急いだ。






ノアは殿下から預かっていた執務室の鍵を開けて、部屋の中を検めてからメイシーを入室させてくれた。


殿下の執務机から少し離れたところに、メイシーのための机が用意され、その側には、実験室で量産しているポラロイドカメラの作りかけのものが何箱か、木箱に入れられて積まれていた。


「ハイド先生に込めていただいた闇の魔力の部品をカメラに入れていくわ。それならこの部屋でもできるし」



メイシーは、ノアと一緒に座り、二人でカメラに感光紙や部品を入れて固定する作業を続けた。


「こんなにたくさん作って、どうなさるのですか?」


「ふふ。これはね、お祭りの売り物にするの。貴族には本体が売れるでしょうし、市民たちには撮った写真をバラ売りするのよ」


メイシーは、にこにこしてノアに説明した。



「平民街に学校が二つもできたでしょ。その運営費を、しばらくは私が稼ぎたいと思っているの」


「国庫から負担するのではないのですか?」


「うーん、そうすると、もし不測の事態になれば、平民用の教育費なんて、真っ先に削られると思うのよね」



メイシーは、現状の物価高がどこまで続くのか、それが国庫にどこまで影響するかを心配していること、さらに、貴族派は事実上無くなっているものの、平民を貴族の格下だとする貴族の考えは依然として残っており、学校の費用を今の貴族中心の国の財布任せにすることは、結局は平民にとって危険なのではないかと考えていることを話した。



「お嬢様…。ご意見を伺い、確かに教育費は国に負担させずに平民が自前で賄えるのが一番だと感じました」


「きっと今の流れで言えば、国庫負担も可能だと思うの。でも悲しいけど、先のことを考えれば、平民に稼ぐ力を付けて貴族に対抗できる力を付けてもらわないと。

教育は長い時間をかけて行うものだから、いつまた意見を翻すかも分からない貴族に資金源を任せるのは不安なのよ」


メイシーは手先を動かしながら、ノアと話をして、学校運営について考えた。



「在校生にすぐに稼いでもらうなら、今のこの作業のような内職をしてもらうことになるから、学校で読み書き計算を学び、家では家の仕事もやり、さらにどこかの時間で内職も、となると、ちょっと子どもには大変だと思うのよね…。就職した卒業生が還元してくれると早いのだけれど、せっかくの稼ぎが減るって、嫌がられるかなぁ」


メイシーは考えながら、ブツブツとああでもない、こうでもないと一人で意見を呟いた。


するとノアが、メイシーに提案をした。



「では、学校を優秀な成績で出た者は、お嬢様の事業の職場に就職が確約されるとすればいかがでしょう?

お嬢様が給金を管理する事業なら、毎月給金から定額を引き、学校運営費用に充てることも容易です」


「ふむふむ……学生のうちから、真面目に長く働いてくれそうな子を選ぶということね。

まぁその子の意見もあるから、必ずうちの事業に関わってくれるとは限らないけど…」


「いいえ、お嬢様。今やマクレーガン侯爵家の事業に関わりたい、侯爵家の仕事が欲しいという者は多数です。

それはお嬢様のご指示で、給金を他に比べて多めに出しているという理由に加え、侯爵家の事業が将来性のある安定的な職場だと受け止められているからです。平民も、侯爵家の傘下で働きたいと思っている者は本当に多いです。

ですので優秀者は侯爵家の事業に関われるとなれば、絶対に全員がそれを目指します。

今は、お嬢様の考えを芯から理解して、自分で創意工夫をこらす…、考えて仕事ができる者は、まだ少ないのが実情です。教育でその面を磨けるとなれば、長い目で見ると侯爵家にとっても恩恵はあるかと」


「貴重な意見ありがとう。そうね…これから国外にも販路を広げる、なんて大きく考えるなら、まず良い働き手が増えないと難しいわね。

やっぱり学校は侯爵家が運営して、5年後…10年後くらいに、ようやく卒業生から還元がある、程度に考えておくべきね。そしてそれを目指すには、我が家がもっと体力をつける必要があるわ」



メイシーはうーん、とまた考え込んだ。


(私が王妃として侯爵家を出ていっても、今度生まれる子が私が考えた方針を目指して事業の運営をしてくれるかしら。教育は時間をかけて行うべき事業だから、私が王家に嫁いでも、関われると良いのだけれど)



色々考えているうちに、部屋をノックする音が響いた。


「どうぞ」



メイシーが中から返事をすると、殿下がグレン様や騎士数名を連れて部屋に入ってきた。



「お邪魔しております、殿下」


メイシーは立ち上がってお辞儀をした。



「ああ。少し話し合いをするが気にしないでくれ」


「あら?」


騎士の集団の先頭には見知った顔があった。



「これはマクレーガン侯爵令嬢。祝勝会ぶりでございますな」


「タイラー総団長!お久しぶりです」



メイシーは、入ってきたタイラー騎士団総団長にカーテシーをした。

タイラー総団長は地方の魔獣討伐遠征から帰ってきたところのようで、少し疲れた表情をしていた。

メイシーはその様子が気になり、声をかけた。


「あの、差し出がましいですが、お疲れのようですので、総団長に光の魔術を行使してもよろしいでしょうか?」


「メイシー。タイラーは私が聞くといつも『筋肉を鍛えているので魔術は使わないでくれ』と言って断るのだ」


「まぁ」


メイシーは殿下の言葉に目を丸くした。

しかし少し考えて、タイラー総団長に向き直って微笑んだ。



「タイラー総団長に癒しを」


「おお?これはこれは……」


少々困惑気味のタイラー総団長に、メイシーはお辞儀をして説明した。



「筋肉は確かに負荷と回復により強くなると聞いたことがございますが、今の総団長の状態はただの疲労です。周りが心配するほどの疲れた表情は、総団長にはふさわしくないと思います。

いつもは殿下に気を遣われているのでしょうが、私には不要です。

ですので僭越ながら光の魔術を行使いたしましょう。……たっぷりと!」


メイシーはいたずらっぽく微笑み、さらにタイラー総団長にまばゆいほどの光の粒を振りかけた。


その様子に、殿下や他の騎士たちも、一斉に笑い出した。


「なんだこの光の量は!」


「くく、さすがマクレーガン侯爵令嬢。光の女神の名は伊達ではございませんね!」


「はっはっは!ありがとうございます。貴女様のおかげで元気になりました。このあとの騎士団の訓練にも全力で臨めます」



キラキラに包まれて楽しそうに笑っているタイラー総団長が、にこにこしながらメイシーに騎士の礼のポーズを取ってそう言うと、後ろの騎士数名が表情を引きつらせた。


「お役に立てて嬉しいですわ。皆様にも癒しを。お仕事頑張ってくださいませ」



メイシーがタイラー総団長の後ろの騎士たちにも光の魔術を行使すると、騎士たちはメイシーに騎士の礼のポーズをとった後、メイシーをうっとりと見つめた。



「メイシー。其方は少々魔術を行使しすぎだ。私の前では騎士にいちいち癒しを与える必要はない」


殿下は騎士を一瞥すると、不服そうにメイシーにそう言った。



「あら…失礼いたしました。殿下や総団長が、騎士の皆様の状態を一番ご存知ですものね。以後気をつけます」


メイシーはハッとして殿下に向き直り、ペコリと頭を下げた。


タイラー総団長の後ろの騎士たちは、殿下の冷たい視線にぶるりと身震いをした。



そんな騎士団の皆様の隣で、白いマントをつけている騎士が、先程からくすくすと笑っていた。


(この方は近衛騎士団の方かしら?)


メイシーが不思議そうに見つめていると、殿下が彼を紹介してくれた。



「パルナス近衛騎士団長だ。パルナスは普段は陛下の護衛任務にあたっているが、王都の治安維持に協力を頼もうと思ってな」


殿下がそう言うと、パルナス近衛騎士団長はスッと礼のポーズをとり、メイシーに挨拶をしてくれた。


白銀の長い髪がサラリと流れ、まるで物語にでも出てきそうな美形の騎士だ。



「パルナスです。どうぞ以後お見知りおきを」


「メイシー・マクレーガンです。ご挨拶ありがとうございます」




パルナス近衛騎士団長は、青銀の瞳をメイシーに向けると、にこやかに話しかけてきた。


「マクレーガン侯爵令嬢、王都の警らのためにテレビとビデオという魔術具をご提供くださったそうですね。何でも陛下も絶賛された魔術具だとか。実は私はまだきちんと目にしたことがないので、拝見するのをとても楽しみにしております」


「平常時は使わないと思いますが、事件が起きた時に見返すと、解決がスムーズかと思います。

今は人の流入が多いので、トラブルが増えるかもしれません。このような時には、役に立つかと。

何か他にもご協力できそうなことがあれば、お声がけください」


メイシーはそう言うと、殿下に向き直った。



「あの…よろしければ外に出ましょうか?私が居れば話し合いづらいのでは?」


「いや、其方はここに居て欲しい。ついでに何か意見があれば、聞かせてくれ」



殿下たちは机の上に新しい王都の地図を広げると、祭りまでの人や物の流入を、わかる範囲で書き出し、王都の護りについて議論し始めた。


王都には、今、昨年同時期の倍ほどの人が留まっているらしい。


その大半は観光目的だろうと思われたが、商売を目的に王都に定住し始めている者も、かなり増えているのだとか。


(商売をする人は、家族とは離れて暮らしているのかしら。もし子どもがいる家庭なら、学校で預かれないかしら)


メイシーは、殿下たちの話を聞きながら、今の王都の人口とその比率を大まかにノートに書き出して、子供の人数を把握した。


(学校には先生が必要よね。最初は私が子供たちに教えて、少しずつ先生を募集しようかなぁ)


学校の運営でお金がかかるのは、まず授業をする先生や調理師、施設管理者のための人件費だ。

他には給食費、備品代。


(最初は私が稼いだお金の範囲内で、私が先生として、1年継続できる程度の少人数から始めようかしら。お祭りでどれだけカメラが売れるかなぁ。本体は少し高価格設定にするつもりだから、そんなに沢山は売れないかしら)


メイシーは、山のようにカメラを製作しているが、急に不安になってきた。


(魔石キックボードも商品にしようかしら。それでも売れなかったら、テレビやビデオを、馬車のお得意様に案内して売っていけないかなぁ。お祭りなら私一人で作っても良いけど、お得意様向けに量産するには人手がいるから、計算して、利益を教育費に充てられるようにしなきゃいけないわ)


メイシーは、考えることが多くて、頭が一杯になってきたのだった。



お待たせいたしました。

また引き続きよろしくお願いします!

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