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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-49


メイシーはこの日、貴族街の中央警ら署に足を運んでいた。

ハイド先生へのお餞別になる魔術具を製作するのに、騎士の方の協力が必要だったからだ。

殿下にも伝えるべきなのだが、製作時間の関係で、騎士たちに先に話をすることにした。

スタンリー署長は恭しく礼をしてメイシーに向き合うと、口を開いた。



「ご機嫌麗しゅう、女神。今日は何をお手伝いすればよろしいでしょうか?」


メイシーは騎士たちを見回して説明した。



「騎士の皆様方には、試し乗りやハイド先生のお見送り当日のお手伝いをお願いしたくて。私の体型では、成人男性を支えられるのか分かりませんので」


「試し乗り?何か、乗り物を製作なさるのですか?」


スタンリー署長が不思議そうにメイシーに質問した。



「はい。名付けて、『魔石キックボード』です!」


「「「魔石キックボード?」」」


(ハイド先生に贈るのに、できればバイクが格好良くて素敵だと思ったけど、残念ながら時間が足りないから…。キックボードなら、ちょっとした走行に役立つだろうし、持ち運びも簡単そうだから、なかなかいいアイデアだと思うのよね)



メイシーは、自分の思いつきに大いに満足して、むふん、と胸を張って材料を示した。



「鉄の職人さんに、色々な太さや長さの鉄パイプやボード部分を超特急でお願いしたものがこちらにあります。これを、土の魔術で繋ぐか火の魔術で溶接するか、そのあたりも作りながら調整します。

ハイド先生と同じくらいの身長の方が試し乗りをしていただけると助かるのですが、どなたか…」


「はいはい!俺、マージー教授と多分身長同じくらいです!写真の時にお話して、肩の位置が同じくらいでした!」


マドックス様が、水色の長い髪を揺らして、元気に挙手して答えてくれた。



「お前…ちょっとタッパがあるからって生意気な…」


「俺ももうちょっと背があればなぁ!」


ジャックロン様がマドックス様の肩をバシバシ叩き、セオ様が恨めしそうにマドックス様の水色の長い髪を引っ張った。



「いててて!お前ら、やめろよ」


騎士の皆さんが、ジリジリとマドックス様を囲み始めた。

メイシーは不穏な空気を感じて、声を上げた。



「あの!先生の分を作り終えたら、皆様の分もまたお作りします。ですので喧嘩はやめてくださいませ」


「女神様……!」


「俺たち、喧嘩などしません!なっ?」


「「しません!」」


騎士たちは皆いい笑顔できちんと一列に並び、マドックス様から離れた。

メイシーは騎士たちのやり取りにくすくすと笑うと、マドックス様以外の騎士たちに、もう一つお願いをした。



「もし騎士団で大砲をお持ちでしたら、借りられるだけお借りしたいです。それから、西の平原の地面に穴を開けたいのですが…」


「……それは温泉の穴ですか?この前掘ったような?」


アーチー様がメイシーに質問した。


「温泉の穴とは違います。サイズは直径30センチほど、深さ3メートルくらいの穴を、10メートル間隔程度で掘れるだけ掘っていただきたくて」


「何に使うんですか?」


ジャックロン様が不思議そうにメイシーに聞いた。



「それは、当日までのお楽しみです!」



メイシーはニコニコしながら騎士たちに答えた。


そして、お見送り当日も、風の魔術と火の魔術を使える騎士たちに、お手伝いをお願いしたいと伝えた。



(ハイド先生、見ててくださいよ。びっくりするような送別会にしますから!!)


メイシーは、一人メラメラとしたオーラを立ち上らせて、騎士たちに「熱い!」と驚かれた。








そして、とうとうハイド先生から、出発の日を告げる手紙が届いた。


(本当に出て行かれるのね……)


メイシーは、ハイド先生のことを殿下に話すことにした。



「ハイド先生が棟官の任を離れることになりました」


「明日は先生のお見送りに行きます」


「先生方をお誘いして皆で行ってきます」



メイシーが思念の指輪でそのように殿下に伝えると、殿下からは一言、返事が返ってきた。



「止めたとしても其方は行くのだろう?」


メイシーはこの言葉に、悩みながら返事をした。


「ハイド先生にはとてもお世話になりました」


「会ってお礼を伝えたいです」


すると、殿下からは返事はなかった。


(……怒ってる。絶対に怒ってる)


そこで、メイシーはさらに言葉を送ることにした。



「殿下の思うようなことは何もありませんので」


しかし殿下からは結局、返事は返ってこなかった。







ハイド先生が出発する日。


先生とは王都の南にある墓地で待ち合わせた。

猫のカメラに映っていた、あの墓地だ。

薄暗い中、先生は、もうご家族の墓前に立っていた。


メイシーは、一緒に送別会をしませんか、と声をかけた先生方と共に、ハイド先生のもとへ近づいた。



「……全く。オレはご大層に見送られるのは御免だと言ったはずだが?」


「何をまた、水くさいことを」


近づきながら、ドメル先生がハイド先生に返事をした。



「闇の魔術の使い手じゃからといって、こんなときにまで身を隠すのはどうなんじゃ?ほれ、餞別じゃ」


オーディン先生はそう言って、ハイド先生にポンと本を投げた。

ハイド先生はバッと手を挙げてそれを受け取ると、表紙を見てタイトルを読み上げた。



「『伝わるかな?鈍感なあの子に届け!風の魔術』……?ふん、何のつもりだオーディン翁」


「ほっほっ!残念じゃの。お主にも風の魔術が使えれば、もっと楽しめたかもしれん」


「……」


「気をつけろマージー。オーディンは自分の魔術で色々なものを覗き見しているからな」


ドメル先生がオーディン翁を横目で見た。

ハイド先生は本を隣に立つメイシーに渡すと、「荷物は極力持ち出さないと決めている」と言ってため息をついた。



「ユユもハイドに!ちょっとかがんで?」


ユユメール先生はハイド先生に腰を落とすようにお願いしたが、ユユメール先生が手に持つもふもふを見て、ハイド先生はフードの中から不機嫌そうな雰囲気を醸し出した。



「なんだそれは?」


「ユユとお揃いの帽子」


「いらん。不要な物を渡すのはよせ」


ユユメール先生はきょとんとした。

そして後ろに居るバーサ先生を見上げた。

バーサ先生も、ピンクのリボンが付いた可愛いラッピングの何かを持っている。



「わたしとお揃いのパンツ……」


「もっといらん!酒臭いぞ、バーサ」


「ひどぉい。けっこう好評なのよ〜?ね、オーディン」


「儂に振るのはよしてくれ。ノーコメントじゃ」


「ミッティ〜!貴女の持ってるのはなぁに?」


バーサ先生は、少しふらつきながらミッティ先生に抱きついた。



「アタシのはとっておき!サラマンダーの心臓」


ミッティ先生は笑顔でそう言って、むわっと生臭い匂いのする革の袋を持ち上げた。



「あ、被った。俺からはキマイラの心臓」


同じくヒューバート先生も、むわっと匂う革袋を持っていた。



「おれからは帝国各地の土だ。性質が違って面白いぞ」


モーリシャス先生は、ずっしりとした布袋をいくつも抱えている。



「わたくしからはココリョナの鱗粉を。撒けば一時(ひととき)、楽しい夢を見られるわ。逃げたいくらい辛い時に使って」


メイシーが見上げると、ハイド先生がフードを被っていても雰囲気に出るほど嫌な顔をしていた。



「誰の餞別もいらん」


ハイド先生はかなり迷惑げにそう言って、メイシーに文句をつけた。



「だから、オレは言ったんだ……」


「あの、先生!私からも先生にお餞別です。この『魔石キックボード』です」


「「「魔石キックボード?」」」


メイシーがハイド先生に怒られる前にサッと自分の足元の布袋を指差すと、先生方は皆メイシーの持ち物に興味を持った。


メイシーは、横に置いていた布袋から、折りたたまれたキックボードを取り出して、ハンドルを起こして固定した。



「これにこのように立って乗りまして、動かしたい時は風の魔術の魔石を動力として使います」


メイシーが魔石を使うと、キックボードはスッと移動した。



「なんじゃこれは!」

「かっこいい!」

「アタシも!アタシも乗る!!」


キックボードは瞬く間に先生方に取り囲まれ、メイシーから取り上げられてしまった。



「ヒャフー!」


ミッティ先生が一番にキックボードに乗り、墓地から出ていこうとした。


「ユユも!ユユも!!」


ユユメール先生はそれを追いかけて行き、ヒューバート先生の手を引いて墓地から離れた。

オーディン翁は「ジジィに譲らんかい、お前たち」と言って、歩いてそのあとを追いかけた。



「すごいな。あれはかなり重宝しそうだ。折りたたんで持ち歩けるのがいいな」


「喜んでいただけて、よかったです!」


メイシーは、にこりと微笑んでハイド先生を見つめた。

ドメル先生は、モーリシャス先生とフルルーナ先生、そして千鳥足のバーサ先生に「マージーが持ち去る前に私達もあれに乗っておこう」と声をかけて、一緒に歩いて行ってしまった。


「マージー。気に入ったなら、さっさと回収したほうがいい。手遅れになる前にな」


ドメル先生はそう言って手を振って離れていった。



「……やれやれ。うちの学園はいつからこんなに騒がしい棟官だらけになったんだ」


「先生たち、本当は寂しいけど、ハイド先生にそんな顔を見せたくないのですよ」


「どうだかな。オレにはただ楽しんでいるようにしか見えん」



メイシーは先生方が遊ぶ様子を見ながら、にこにこと微笑んだ。

そして先生が一人で見つめていた墓石の方へと振り返った。新しいお花が捧げられているそのお墓には、先生の家族の名前が書かれている。

メイシーはお墓の前にしゃがむと、手を合わせてこう言った。



「ハイド先生を育んでくださってありがとうございました。私、先生にお会いできて、たくさん学ばせていただきました」


メイシーが手をおろしながらゆっくりと目を開け、お墓からハイド先生に視線を移すと、先生はフードを取り、困ったような顔をして笑った。



「君に会って、オレの中でマージー家の男に関して新しい解釈を得られた」


「?」


「一家で揃って影に潜むように閉じこもっていたのは、古王国の血筋だとか闇の魔術に対する奇異の目から逃れるため…というのは建前で、本当は妻を人前に出したくないという当主の執着だったのではないかと」


「まぁ。先生のご両親は、仲が良かったのですね」


(我が家のお父様とお母様の仲の良さに通じる何かがあったということかしら)


メイシーは、ふむふむと頷いた。



「……実際にそんな素振りを見たことはない。オレの記憶には残っていない」


「では、日記などで?」


メイシーがそう聞くと、ハイド先生は優しく微笑んでメイシーを見つめた。



「オレがその血筋だからかな。何となく、そう思った」


メイシーは、ふうん、と思い、もしかするとハイド先生には想う人がいるのかもしれないと感じた。


ハイド先生は、ゴソゴソとポケットに手を入れて、何かを差し出してきた。



「君に預けたい」


「……これは?」


思わず両手を差し出すと、手のひらにずしりと金属の感触があり、一本の大きな鍵が、メイシーの手中に収められた。



「うちの屋敷の鍵だ。中の素材は好きに使っていいし、文献も君に預ける。ほとんど歴史書関係だから、君の趣味に合うかは分からんが」


「えっ!?よろしいのですか?」


「ああ。いつ戻るか、このまま戻らないかもしれないからな。屋敷の保存というか、保存するかどうかも含めて、中の物を信頼できそうな仲間に託しておこうかと。ドメルと相談してくれてもいい」


「先生……」



メイシーは「もう戻らない」という先生の言葉に、何だかとても悲しくなり、眉を下げた。



「……あの遺跡のおかげで、自分の知りたいことはかなり満たされた。次は世界の遺跡を見て回って、古い魔術に関する見聞をさらに広めたい。

君は帝国をより良い国にするんだろう?オレはその様子をどこかで見ていることにするよ」


「……たまには帝国にもいらしてください。だって、あの遺跡は、先生が守るのでしょう?それに私、キックボードのように、先生が思わず欲しくなるような魔術具を作ってお待ちしておりますから」


「ふ。それは(あらが)いがたいな」


ハイド先生は優しく微笑むと、メイシーの肩をポンと叩き、泣くまいと口を尖らせて涙をこらえているメイシーにこう言った。



「君は何事も張り切りすぎないように。あとは抱え込みすぎるクセは自覚しておいて」


「う……。は、はい。」


「それから、王妃になれば色々な思惑があって難しいのかもしれないが……。それでも自分の幸せを優先してくれ。大変なことからは逃げたっていい」


「せ……先生……」


メイシーは先生の言葉に、こらえきれずにボロボロと涙をこぼしてしまった。

ハイド先生は、優しく微笑むと、眉を下げた。

そして、顔を隠すようにフードを被ってしまった。



「たまには手紙を書こう。君も返事をくれると嬉しい」


「も、もちろんです…!」


メイシーがハンカチを取り出して顔を拭いていると、ユユメール先生やミッティ先生、ヒューバート先生らがキックボードを片手に戻ってきた。



「あ!メイシー・マクレーガン泣いてる」


「あーあ、泣かせた」


ユユメール先生とミッティ先生はそう言ってハイド先生の周りを「泣〜かせた!泣〜かせた!」と言って回り始めた。



「や、やめてください!私が勝手に泣いただけです!先生は悪くないのです」


「どうだか。マージーは分かってて泣かせたんじゃないのか?」


ヒューバート先生は、にやりと笑ってハイド先生を見て、キックボードを折りたたんで先生にズイッと差し出した。



「これだから。……オレはもう行くぞ」


ハイド先生が先生方の絡みにうんざりした様子でここから去ろうとするのを、メイシーが引き止めた。


「あ、待って先生!思念の指輪を繋げていただいても?」


「……?」


「指輪を出してください!」



離れた距離では指輪は使えないので、ハイド先生はメイシーの発言に、不思議そうに首を傾げたが、メイシーが指輪をつけた手をずいっと持ち上げて押し出したので、先生も指輪を近づけてくれた。



「これでいいのか?」


「はい。私、お手紙をいただいてから一生懸命作ったものがあるのです。先生がここから少し離れたら、それを使うので、ぜひ感想を聞かせてください!」



ハイド先生はメイシーの言葉に不思議そうにしたが、メイシーたちに背を向けて、墓地を抜けて出た。

そして用意していた馬に乗って、ゆっくりと王都から離れて行った。

ドメル先生たちも、墓地の入口でハイド先生を見送っていた。


メイシーは、ドメル先生たちの方へ近寄って、先生方全員と、ハイド先生が道をゆっくりと去る姿を見つめていた。


そして、先生の姿が小さくなり見えなくなると、乗ってきた馬車に急いで駆け込んだ。馬車に載せた丸い玉を取り出すためだ。ノアは馬車で待機しており、メイシーに気がついて声をかけた。



「お嬢様、手伝います」


「お、重た…!」


メイシーとノアが何やらモタモタしていると、モーリシャス先生がやって来て、ひょいと重たい丸い玉を持ち上げた。


「これをどうするんだ?」


「モーリシャス先生、ありがとございます!これを地面に置いていただけますか?」


メイシーがそう言って馬車から離れた場所を示すと、モーリシャス先生は大きな丸い玉を移動させて、地面に置いた。

丸い玉の周りには、土の魔術で円筒形の柱を立て、メイシーは、魔術で導火線に火をつけてから、風の魔術で真っ直ぐ上空に押し上げた。



「先生方!離れて耳を塞いでいてください!急いで!」


メイシーは、耳を抑えながら走ってその場から離れた。

先生たちはメイシーと共に墓地から離れるようにして急いで距離を取った。




ーーーヒュルルルルル!!ドン!ドン!





かなり高くまで上がった後、まず、上空で大輪の花のような花火が打ち上がった。


その後、風と火の魔術の魔法石が上空で爆ぜて、無数の蛍のように空中を彷徨い、最後に蛍が「パン!パン!」と破裂しながら、色とりどりの光の流れ星のように光って、消えていった。


「うわ!」

「きっれーい!」

「何だこの桁外れの輝きは……」



ヒューバート先生やミッティ先生、そしてドメル先生の声が聞こえた。ユユメール先生や、バーサ先生たちも「わぁ!」と声を上げている。


メイシーの打ち上げを合図に、西の平原に待機していた騎士たちが、風の魔術と火の魔術で、それぞれ地面の筒や大砲から、メイシーと同じように花火を打ち上げてくれた。






ーーーヒュルルルルル!


ーーードン!ドン!パン!パン!!







「どうですか先生」


「奮発してたくさん魔法石を入れたのです」


「先生の新たな門出のお祝いです!」



メイシーが指輪に語りかけると、しばらく経ってからハイド先生から返事があった。




「や・め・ろっ!」


「馬が驚いて暴れ出した」




メイシーは、ハイド先生が慌てたように話すのを聞いて、あわあわしだした。




「そ、そんなつもりでは」


「すみません、ハイド先生」



メイシーがそう言うと、ハイド先生は笑いながら返事をした。




「はは!君は本当に、突拍子もない」


「世界一派手な門出だ」


「ありがとう」




ハイド先生とのやり取りは、そこで途切れ、メイシーの指輪がチカチカと光り出した。


でも、ハイド先生が指輪の圏外に行くまでは、メイシーはしばらくその場で、先生たちと一緒に、ハイド先生の無事を祈ることにした。





「どうかお元気で!」


「またお会いできるのを楽しみにしております」


「絶対に、戻ってきてくださいませ!」


メイシーの言葉に、もう返事は返ってこなかった。


先生は、遠くまで離れていってしまったようだった。



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