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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-47


ハイド先生とドメル先生との約束の日、メイシーが学園へやって来ると、先生も騎士たちも、全員がもう第1研究棟の前に到着していた。

メイシーが、先生方に申し訳ない気持ちで馬車を降りると、騎士たちがそわそわとメイシーを見つめて口を開いた。



「今日も素敵です、女神様」


「一緒に絵姿に収まるなんて…!」


メイシーは、騎士たちの言葉が聞こえて、何と返事をしたらよいかと恥ずかしくなった。


すると、スタンリー署長が前へ進み出て、メイシーに話しかけた。



「おはようございます、メイシー嬢。顔は狙わないルールでトーナメント戦を行い、本日の撮影のメンバーを決めました」



何でも、ハイド先生に「全員一緒には撮影できない。20人くらいにしろ」と言われて、かなり熾烈な争いになったとのことだ。


メイシーは署長の言葉に若干表情が引きつりつつも、わくわく楽しみに待っていた様子の騎士たちの後ろに、ふさふさの尻尾がブンブン振られているように見えて、ちょっと笑ってしまった。



「みなさま、おはようございます。今日はお天気も晴れていてよかったです。平民街からわざわざお越しいただいてすみません」


「全く問題ございません。女神の絵姿を得られるなら、火の中でも水の中でも!」


スタンリー署長が眼鏡を指で触りながら、きりりとした表情で答えると、騎士たちもうんうんと頷いて同意していた。



「ですから女神では…」


「メイシー・マクレーガン。さっさと終わらせよう。私はこれが終われば、東側の取り壊しと撤去作業だ。正直時間はいくらあっても足りない。殿下が作業の指揮をとっておられるので、私が長い時間抜けるのは、立場的に非常にまずい……」



ドメル先生は、眉間にシワを寄せてメイシーに写真を促した。


ハイド先生は、前と同じような雰囲気の土の魔術の箱を何個も抱え込んでいる。



「場所は、第1研究棟の前でよろしいですか?」


「女神様のお好きな場所で!」


セオ様が元気よく答えてくれた。


「では、あちらのベンチのある場所で。前も先生方とあそこで撮影しました」



メイシーは、毎年ここで楽しい写真が撮れたらいいなと、何となくそう思った。


ハイド先生は無言で場所を移動して、前回の時のように、土の魔術で机を作り、ピンホールカメラを置いた。


ベンチにドメル先生とメイシーが座り、周りに騎士たちが嬉しそうに並んだ。



「ハイド先生も来てください!」


「いや、オレは……」


「いい記念だ。マージーもここに。ほら」



ドメル先生は、メイシーとの間にスペースを作り、ベンチの真ん中に座るように促した。


ハイド先生は(表情は見えないけれど)嫌そうにしているのは何となく分かった。


(ハイド先生が嫌そうにしているところを無理やり輪の中に引っ張るのって、なぜかちょっと面白いのよね……)


メイシーはニマニマして先生に手を振った。



「ハイド先生!王様席ですよ!」


「……やめろ。君は本当に、始末に終えない冗談を言う」


「あれだけ箱があるということは、自分の分もあるんだろう?意地を張らずに、マージーも入ればいいじゃないか」



ハイド先生はため息をついて、色々と諦めた雰囲気で真ん中のスペースに座った。



「さっさと撮るぞ」


ハイド先生がそう言って、皆に撮影のタイミングを伝えた。



「オレが土の魔術で箱に小さな穴を開ける。しばらく動かずにいるように」


メイシーは、その言葉に添えて、合図のことも伝えた。



「皆様、私が『はい、チーズ!』と言ってからハイド先生が穴を開けてくださるので、その時にポーズを取って動かないようにしてくださいませ」


「チーズ…?」


「チーズでポーズ…?」


ハイド先生は「またか」と言って苦笑いした。

騎士たちは不思議そうな顔をしていたのが、徐々に笑いだして、それぞれ決めポーズを取り始めた。



「いきますよ!……はい、チーズ!!」


ハイド先生が土の魔術で穴を開けて、時間を置いて穴を閉じた。



「動いていいぞ」


ハイド先生がそう言って立ち上がると、騎士たちは一斉にホッとしたような声を上げた。



「はぁーー!笑いそうになって危なかった!」


「はっはっは!お前のポーズ、何だあれは」



騎士たちはわいわい楽しそうに写真後のリラックスした表情を見せた。


その後何枚か同じように写真を撮って、完成品はハイド先生の現像のあとでまた騎士が取りに来る、という約束になった。



「マージー教授、ありがとうございました」


スタンリー署長がハイド先生に深々と礼をして、騎士たち一同もそれにならって「ありがとうございました!」とお辞儀をした。


(野球部の試合の後みたい…)



メイシーは騎士たちがとても嬉しそうににこにこしている様子に、こちらまで元気をもらったような気持ちになった。


第1研究棟の前で皆と別れた後、メイシーは手紙で伝えたように、ハイド先生に闇の魔術を込めてもらう部分をお願いすることにした。



「写真は闇の魔術が無いと完成しないので、とても助かります。ありがとうございます」


「いいさ。役に立つことの少ない魔術だから、最近闇の魔術をよく行使するのが不思議な気分だ」


先生はそう言って笑うと、カメラを持ってメイシーの実験室まで移動した。


ハイド先生は、実験室の隣の物置部屋で先に現像をしてくると言って、しばらく部屋に閉じこもりに行った。


メイシーは、ポラロイドカメラをひたすら量産し、とくにクラーケンの袋をできる限り準備して、闇の魔術を先生にたくさん込めてもらおうと張り切った。


メイシーが集中して作業していると、後ろからハイド先生の声が聞こえ、肩を叩かれた。



「おい」


「え?はい!」



ハイド先生はフードを取っており、呆れたような表情でメイシーを見た。


「声をかけても全く反応しないなど、後ろから誰かに襲われでもしたらどうするんだ」


「学園内でですか?そんなことあるでしょうか?それにいつもは鍵をかけております。今は先生のために開けておりました」


「……今後も気をつけるように」



ハイド先生は微妙な表情で答えると、ポラロイドカメラを手にとって、メイシーに問いかけた。



「どこに闇の魔術を?」


「はい、こちらのクラーケンの袋の中にです。闇の魔術の煙をここに閉じ込めたいのです」


メイシーがカメラをパカッと開けて、中から小さな袋を取り出した。


「この袋を1回ずつ破って、この感光紙が袋の中身を浴びながら出てくるのです」


「ほお…。君は本当に発想力がすごいな。こんな機構、他に誰が思いつくんだ」


(それはポラロイド社の賢い人が作りました…)


メイシーは心のなかでそう答えながら、にこっと笑ってごまかした。


ハイド先生は感心しながら袋の中に闇の魔術を込めてくれた。

ただし、ひたすら大量に袋があったので、大半は持って帰って隙間時間で作業してくださることになった。



「では、これを試しにカメラにセットしまして…」


メイシーはごそごそと袋と感光紙の位置を調整し、完成させた。

そして自撮りのようにカメラを二人に向けた。



「いきますよ!はい、チーズ!」


「おい、」



ジー……ゴゴゴゴ……



メイシーは出てきた写真の紙を食い入るように見つめた。


(出るかしら?ちゃんと写るのかな?)


メイシーは祈るように、出てきた白い紙を見つめた。


紙にはぼんやりと何かが浮かんできて、ゆっくりと陰影をはっきりさせ始めた。



「……!先生!できましたよ!」


「これは……」


出てきた写真には、メイシーとハイド先生が二人で仲良く写っている様子が浮かび上がった。



「やりました、先生!これで、毎度わざわざ先生に現像をお願いしなくても、事前に詰めておいていただければ、その場で写真を確認できます!」


「それは素晴らしい。だがこの写真は没収だ」


ハイド先生は、眉間にシワを寄せてメイシーから写真を取り上げた。


「えっ、そんな!ではもう一枚撮ってくださいませ。私も先生との記念写真が欲しいです」


「……」


先生は、撮った写真をじっと見たあとメイシーを見て、ため息をついた。


「本当に撮るのか?」


「はい!」


そして先程と同じように、メイシーはにこにこしてポーズをとった。


「先生、もう少しにこやかにお願いできますか?チーズですよ、チーズ。ワインでもパンでもお肉でもないのです」


「ふ!だから、チーズは一体何なんだ」


「はい、チーズ!」


ハイド先生が吹き出して笑ったところを狙って、メイシーは土の魔術を行使した。


「君は強引すぎないか」


「すみません。マクレーガン家の人間は皆遠慮という言葉を知りませんので」


メイシーは、現像される写真を楽しみに待ちながら、あとで殿下やノアや、お父様やお母様とも写真を撮ろうと、ワクワクしながら想像した。


そんな上機嫌なメイシーに、ハイド先生は呟いた。



「君は本当に、男心が分からん人だな」


「え?」



メイシーは、その言葉にハッとして、もしかしたらまた殿下が不機嫌になるかも…という考えが頭をよぎった。


(またヤキモチを妬いてしまうかしら…。でも試し撮りだし…。製作者二人の記念写真だし…。)


メイシーはムムム…と考え込んで、ハイド先生に振り向いた。



「先生、殿下には秘密にしておいてください!先に殿下と写真を撮ったことにして、先生とは後から撮ったことにしていただければ、そこまで大変なことにはならないかと」


「……君がやりたいようにやれば良い」



ハイド先生はそう言って、没収した写真をじっと見た。



「……実は少し前から、棟官の任を離れることを考えていてな」


「え?」


「これは君からの餞別として、ありがたくもらっていくことにする」



ハイド先生は、ちょっと微笑んで、写真を胸ポケットにしまい込んだ。

メイシーは目を丸くして、ハイド先生の顔を見つめて、先生の言葉を繰り返した。



「……任を離れる?」


「ああ。以前から学園長や研修生には、オレは行きたい調査があれば、基本的にはそちらに主軸を置いているので、授業や実験も予定通りには進まないだろうとは伝えているんだ。

期中ではあるが、次は諸国を回ることを考えていて、もう教授としての責務を果たせそうにないので、離れようかと。復興にも目処がついたし、ちょうど良い頃合いな気がしてな」


「先生を、やめるということですか…?」


メイシーは、目を丸くしてハイド先生を見つめた。

ハイド先生は、長いため息をついてメイシーから目をそらした。



「もともとオレは古王国の遺跡を探していた。この学園なら情報が集まるかと思って任を受けたのだが、君たちと行った遺跡のおかげで、当初の目的はだいぶ達成した」


「……そんな」


「学園長や他の棟官には、すでに言ってある。だからドメルは、オレに写真に入るよう言ったのかもな」



メイシーは、突然の話に頭がついていかず、急に心にぽっかり穴が空いたような気持ちになった。


ハイド先生はメイシーとは目を合わさず、扉の方に向かおうとした。



「さてと、君はまだ実験室に居るのか?オレはそろそろ行くとしよう」


「……先生」


「騎士たちには、君から写真を渡してもらえると助かる」




そう言って、ハイド先生は実験室から出て行った。



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