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これはたしなみの範疇です!  作者: ptw
第ニ章

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たしなみ2-46


メイシーは、土の魔術を行使して、約40メートルほど穴を掘り進めた。


(さて、土の魔術が届く範囲でないと、掘り進められないわね。私の魔力では、おそらくあと100メートル掘れるかどうか。そこまで掘って何も出なければ、その先は魔術具を作るしかないけど……)


メイシーは、あれこれ考えながら掘り進めるうち、地盤の感触が違う箇所に到達した。

硬い岩盤を抜けて、水か粘土のような感触に変わったのだ。



ーーーゴボッ ゴボゴボッ



「あら?変な音がするわね」


メイシーは、手元の感触の変化から、水が噴き出すのに備えてパッと後ろに下がった。



ーーーーブシャァァァ!!!


メイシーが離れた直後、穴からは水が噴き出し、瞬く間に周囲は水浸しになった。



「わぁ!水が出た!」


「すごいですね。この何もない荒れた平原に水があったのですか」


セオ様とマドックス様の驚いた声が聞こえた。


「岩盤の下に、地下水が通っていたようです。100メートルほど下でしょうか…。少し深いからか、自然には出てこなかったようですね」


メイシーは、濡れないように風の魔術で体を覆い、水が噴き出す穴に近づいた。


土の柱を風の魔術で浮かせてどかせると、水の成分を調べるため、その場で作った土の魔術の結晶の試験管に何本分か水を取り、持ち帰ることにした。


メイシーは少し考えて、噴き出ている水を流すため、その場でさらに東向きに穴を掘り進めて水路を作ることにした。


水が流れると作業しづらいので、公衆浴場まで穴が貫通するまでは水をせき止めておく。

穴の周りには一時的に土の魔術で丸い水受けを立てたので、一見するとそこだけ広場の噴水のように見えた。


引っ張れる取っ手のついた分厚い止水板を魔術で作り、水路との間に立てて、メイシーは騎士達に話しかけた。



「残念ながらお湯ではありませんが、ひとまず水を確保できそうです。見た感じ透明な水ですし、公衆浴場まで水路を作って流してみたいと思います。

すみませんが、どなたかここで水源を見ていてもらえますか?王都から指輪で合図をしたら、このせき止めてある止水板を上げて、中の水路に水を流してほしいのです」



メイシーの提案に、マドックス様がこの場に残ることになった。


メイシーは地面に手をかざしながら、ゆっくり歩いて、地表より数メートルほど下に穴を開けて進んだ。


公衆浴場まで、メイシーは魔術を行使したままゆっくりと進み、セオ様とアーチー様がメイシーに付いて移動してくれた。

ノアには馬車に乗っているように伝えたのだが、メイシーに日傘をさすと言って、ずっとメイシーの後ろに立って歩いてくれた。



公衆浴場は、また水遊び場として開放されていたが、セオ様たちが中に居た市民に一度外に出るように伝えてくれたので、メイシーはそのまま水道管を浴場まで繋げることにした。



(お風呂にするためには一度タンクに水を入れて、火の魔術の魔石で温めないといけないわね。それに浄化のために光の魔術の魔石も使いたいし)



メイシーは、土の魔術を使って、公衆浴場の西側の外に大きな貯水用の箱を建てた。

そして平原から引いてきた水路から水道管をつなげて、箱に水が貯まるようにした。


箱から浴槽まで水道管を繋げて、水の用意はできた。


メイシーは、口元に思念の指輪を近づけてマドックス様に連絡を取った。


「マドックス様、メイシーです。止水板を上げていただけますか?」


メイシーの作業を見ていたセオ様とアーチー様が、興奮気味に話しかけてきた。


「こんなにあっという間に、深い井戸を掘って、しかもそれをここまで繋げたのですか?土の魔術で?」


アーチー様は目を丸くしている。


「本当に、すごすぎます!」


セオ様も、何やら感動した様子で目をキラキラさせている。



「はい。魔術って本当に便利ですよね。何でもできます」


メイシーはセオ様とアーチー様ににこりと笑いかけ、タンクに水が貯まるのを待った。



「…これほど魔力が高く、さらには色々な知識があり、発想を生み、貴族にでも平民にでも分け隔てなくその力を使い、実際に魔術でひらめきを実現してしまおうとする方が居ることが奇跡なのですが…」


アーチー様はまるで本物の女神でも見るかのように、崇拝するようにメイシーを見つめた。


「女神様は全くご自分の素晴らしさにお気づきでないので、俺たちが周りの者によく周知しておきますね!」



隣でセオ様はそう言って、思念の指輪で誰かに連絡を取り、ぶつぶつと話し始めた。


ノアも何やら手元のメモにカリカリと何かを書きつけている。


メイシーは、皆の様子に構う暇もなく、水がタンクに入る『ゴボッ!』という音に耳を澄ませていた。


「よかった!ちゃんと水がここまで来たみたい。あとは水槽の中に魔石を取り付ければきれいなお湯が使えるわ!」


メイシーは満足げに微笑むと、両手を上げて騎士達に振り返った。


「いえーい!ハイターッチ!!」


「えっ」


「さあさあ、両手をこうして上げてくださいませ」


メイシーは困惑する二人に同じポーズを取るように言って、手を上げた二人にパン!とタッチをして回った。


ノアは慣れた様子で両手を上げて待機してくれていたので、メイシーはパン!パン!パン!と3人に続けざまにハイタッチして、達成感に浸った。


「わーい!これでスーパー銭湯の出来上がりよ!魔石を取り付けたら、これからは入湯料を取ってガンガン運営費を稼がなきゃね!」


メイシーはメラッと商魂を燃やして、銭湯の継続に意欲を表した。


「お嬢様、さすがです」


ノアは拍手をしてメイシーを労ってくれた。

ふと横を見ると、セオ様とアーチー様は顔を赤くして照れていた。

メイシーはその様子にハッとして、ノアに尋ねた。


「……もしかして、ハイタッチはいけないことだったの?」


「駄目ではございませんが、この二人には刺激が強かったようですね」


「…!ご、ごめんなさい、セオ様、アーチー様」


メイシーが謝ると、セオ様は照れながら微笑んで、口を開いた。



「……メイシー嬢の護衛をするために、これからも絶対にトーナメントに勝ち残ります!」


すると隣のアーチー様も、真剣な表情で、うんうんと頷いた。





その後、馬でやって来たマドックス様を含めて、三人の騎士は、またメイシーを王都の侯爵邸まで護衛してくれた。









メイシーは、侯爵邸に帰ると、お母様のお部屋に直行した。


「お母様っ!」


「メイシー。おかえりなさい」


メイシーはお母様のところへ行き、今日も光の魔術を行使した。

お母様は、往診の時に比べれば、体調は少し良くなっており、今はソファに座っていた。


「メイシーの光の魔術のおかげね」


「それは良かったです!赤ちゃん、お母様と一緒に頑張ってるのね!偉いね〜!」


メイシーはお母様のお腹をなでなでして笑顔になった。

お母様はメイシーの頭をなでながら、口を開いた。


「王都の復興はだいぶ進んできたのね。レナルドが、殿下や学園の教授方の力で西側の再建を全て終えたと言っていたわ。それを見た東側の住民が、羨ましいから自分たちのエリアも建て直してほしいと陳情しているそうよ」


「まあ!そうですか。そうできれば平民街はとても綺麗になりますね」


「メイシーはきっとそう言うだろうからと、レナルドが東側の再建も計画しているみたいよ」


「嬉しいです!」


メイシーはにこにこしてまたお母様のお腹に顔を近づけた。



「聞いた?あなたが生まれる頃には、王都はとてもきれいよ!一緒に広場に行ったりお店に行ったりしましょうね!お姉様は楽しみにしているわよ!」


「ふふ、もう、本当に気が早いんだから」


メイシーとお母様は、二人で笑い合った。







お母様の部屋を出ると、メイシーは離れの実験室へと向かった。


(不思議だわ。春までは、あの実験室と我が家が、私の世界の大半だったのに)


学園に行き、北東の森に行ったり、遺跡に行ったりと、メイシーの世界はこの半年ほどでずいぶん広がった気がする。



メイシーは、実験室に入り、ノアに持ってきてもらったテレビと風の魔術の結晶を使って、ちゃんと音声の入るビデオ作りに取り組んだ。


数日間調整をして、ビデオを撮る時に声を届けるイメージを強めることで何とか一定して声が入るようにすることができた。


(思念の指輪のように、この魔術具はそういう使い方をするものなのだ、と理解が広まれば、ビデオも普及するのかも)



メイシーは、思念の指輪がどのように使われ始めたのか、今度調べてみようと思い至った。


(ちゃんと音声も閉じ込められるようになったし、あとはこの風の魔術の結晶が、長期間消えずに保存できそうなら、陛下や殿下に献上できるかな。その証明には、時間がかかるわね…)


しかしメイシーは、問題を一つクリアして、満足した。








平民街の瓦は、王都へ続々と届けられた。

到着したものから順に、職人が屋根に取り付けていってくれた。

市民が自分の手で行うのは、危険だし、瓦にも置き方があるらしく、職人のほうが良いだろうと、モーリシャス先生が提案してくれたのだ。


メイシーは、朝、公衆浴場に魔石を取り付けに行く時に、ついでにノアと共に歩いて平民街の屋根を見に行った。



「うわぁ!可愛い…!まだこの区画だけだけど、もう可愛いわ!!」


「本当ですね。煉瓦の色で、こんなに華やかになるのですね」


ノアもメイシーの言葉に同意して、感心した様子で赤い屋根を見つめた。


周りで屋根を見上げる市民たちも、皆表情が明るく、新しい王都の街並みに、誰もが期待している様子だった。


メイシーは、市民たちの後ろからその様子を眺めて、心が弾んだ。



(西側に加えて東側も、平民街の全部がこの華やかな赤い屋根になるのが、本当に楽しみ!)


メイシーがウキウキしていると、手紙の魔術の気配がした。



(誰かしら?)



メイシーが手を伸ばすと、一羽の小鳥がパタパタとメイシーの手に乗り、手紙に姿を変えた。



「最近土の魔術であちこち平民街を造成したり、市民の要望でさらに手を加えたりしていたので、すっかり返事が遅くなった。

君が言っていたポラロイドカメラという魔術具に協力しよう。

君の実験室に行くので、日時を決めてしまいたい。

東側の取り壊しには風の魔術の連中が出向くようなので、明日から数日は時間が取れそうだ。

ドメルは土も風も使えるので、休む暇が無いと言っていた。

彼の場合は休むというより、鍛錬に行く時間が取れないことを嘆いている様子だが。


ところで、騎士たちに会うたびに、君との写真を撮ってくれとせがまれるのだが、なぜオレがあんなに恨みがましい目で睨まれるんだ。

悪いが、さっさと願いを叶えてやって、ぶつくさ言われるのを黙らせたい。



ハイド」




(ハイド先生、なんだか巻き込んでしまってすみません…!)


メイシーは手紙を見て、あの時の話を騎士の方々がしっかり覚えていたことで、ハイド先生の方に圧力がかかってしまったことに、申し訳ない気持ちになった。



「ノア。これは急がないといけないわ。騎士の方々が、ハイド先生に写真を撮って欲しいと不満をぶつけているらしくて。カメラを持って、すぐに集合写真を撮りに行かないと…!」


ノアは目を丸くして、すぐにくすくすと笑い始めた。


「なんだか平和なお願いで、少し和みました」


「ええ、本当に。いつもこうならいいのにね。こういうお願いなら、私も魔術具を作るのが、いっそう楽しくなるわ」



ノアとメイシーは、笑いながら馬車に乗り込んだ。

馬車の中で、メイシーはハイド先生に手紙を書いた。


(明日は一日、ポラロイドカメラを作れるだけ作り、ハイド先生に闇の魔術を込めてもらえば完成するところまでは仕上げておこう)



「明日と明後日は、学園に行くわ。明日はできるだけ作業したいから、明日の夜は寮に泊まろうかしら」


「かしこまりました」


(お母様には、朝魔術を行使して、翌日の夜に魔術を行使すれば、ちょっと時間が開くくらいでなんとかなるはず)



メイシーは、殿下にも手紙を書き、そして集合写真の発起人でもあるドメル先生にも手紙を送った。



ドメル先生は、約束は守るということで、明後日の集合写真の時間には学園まで来てくれることになった。


殿下は、残念ながら公務でスケジュールが埋まっており、集合写真には来られないとの返事だった。


ただ、殿下の返事の後半にはこんな記載があった。




「写真という魔術具ができたことは初めて知ったぞ。

絵よりも正確に、紙に景色を写し取る?

なぜ完成後すぐに私に知らせてくれなかった?

私だって、メイシーの写真が欲しい。

この際騎士たちの後でもいいから、別の日に私とも写真を撮ってくれ。

それに、私の居ない間に、すっかり奴らと親交を深めたようで、不本意だ。

其方は私と親交を深めるべきだろう?



ジョイス」




メイシーは、殿下の手紙に顔を赤らめた。


(殿下って、どうしていつもこうなのかしら。騎士の皆様にはもう家庭があったり、素敵なお相手が居るに決まっているのに。私のことは何かこう…魔力の高さが珍しくて面白がって見ているだけで、多分動物園のパンダみたいなものなのよ。

殿下の心配性は、ちょっと度を超えているわ。こんなに不安がるのって、私のせい?それとも殿下のもともとの性格?……どちらにせよ、殿下には、もう少しゆったりと、安心して過ごして欲しいものね……)


メイシーは、ため息をついて殿下の手紙を折りたたんだ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] お母さまのお腹をメイシーちゃんが撫でていて、そのメイシーちゃんの頭をお母さまが撫でていて、とても平和でほのぼのする光景で和みました。 そして殿下の独占欲が相変わらずで微笑ましかったです(…
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