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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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九十五話 鉄の鎧

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「チッ! あれでも生きてるのかよ......」

「え?」


 吹き飛ばされた敵陣跡を見てミチナ様が舌打ちをした。

 俺は雷神眼で確認するとそこには黒鉄の大鎧に身を包んだ一人の男が立っていた。

 あの大技を受けて生き延びるなんて、間違いなく彼こそがバンドーの虎マサード・イラだ。

 300mは離れている筈なのに目が合ったような気がして俺は身震いをした。

 九曜紋が輝く黒鉄の鎧や肌に細かな傷はあるが、これといって目立った外傷はない。


 だが、よく見れば両足が地面に刺さっているのか足首が見えない。

 あの竜巻に耐えるため、咄嗟に土の中に足を埋めたのか?

 そう思って彼の足元の地面を見ていると段々と土が消えていき、埋まっていた数百名の兵士や馬が現れた。


「見て! 土の中から兵が!」

「チクショウ! 本気を出したってのにやつの本隊は無事かよ!」

「あの一瞬で自分以外の兵を土の下へ逃がしたのか! なんて瞬発力と判断力だ!」


 マサードの能力に驚きつつも俺は冷静に思考を巡らせる。

 周囲の仲間は土中に潜ませたのに自分は足だけ埋めた理由はなんだ?

 自分には脅威になり得ないという余裕の表れ?

 それとも何か他に理由が?


 分からない。

 まだまだ能力の解明には至っていない。


 そうこうしているうちに体勢を立て直した敵が声をあげながら走り寄って来た。

 マサードも愛馬であろう黒鉄に覆われた馬に跨って此方へと太刀の切先を向けて指示を出している。


「サダ姉! 貫通力を持たせた雷の槍を一番近い兵に放って!」

「わかったわ! -螺旋雷槍(ラセンライソウ)-」

「ほう?」


 サダ姉が雷の槍の穂先を螺旋状にした魔法を100m程まで迫った地上の敵へと投げつける。

 この形状はサイカの螺旋鏃(らせんやじり)から着想を得ているのだろう。

 迫る雷の槍をマサードと同じ黒鉄の鎧に身を包んだ兵士は自信があるのかニヤリと笑ってわざと胴丸で受けた。

 

「がぁあああ!!?」

「あれで貫けないなんて!!」


 サダ姉が叫んだ通り、雷の槍は黒鉄の鎧を貫く事は無かったが、その電撃が鎧を通して身体中に駆け巡ったのが見て取れた。

 正面から受け止めて俺たちに自慢の防御力を見せ付けたかったのだろうが愚策だったな。

 電気が通ったということは黒鉄の鎧は土そのものという訳ではないらしい。

 土魔法が雷を通さない可能性を警戒していたが黒鉄の鎧を過信している相手にはトール家の相性は寧ろ良いと言えそうだ。


「ミチナ様! 矢で牽制を! 黒鉄鎧の無い所を狙えば刺さるのでしょう? コゲツ、今の男を連れて行くから咥えてくれ、サダ姉は雷玉を周囲に浮かべて援護を!」

「人使いが荒いな? まあいい! 面白いものが見れたからな!」

「ガァ!」

「しょうがないわね!」


 サダ姉とミチナ様が援護する中で、コゲツが先ほどの男を咥えたので一気にその場から離脱する。

 その前に鉄棍に電気を流して鎧に当ててみると思った通りの反応があった。 


「無事に鎧を鹵獲出来たことですし、一先ず今回の作戦は成功ですね。これで相手の鎧がずっと硬さを保ち続けるのか数刻ごとに矢でも放って確かめましょう」

「そうだな。雷が効いたのは良い収穫だった。だがアイツらが次からは対応策を考える可能性も考慮しておけよ?」

「勿論です。雷から身を守る為に取れる手は常に想定していますので!」


 今回は相手の目の前で雷魔法も使ったし、堂々と連れ去ったからな。

 これから鎧の秘密を暴きますと宣言したようなものだ。

 ミチナ様の指摘は尤もだろう。


 だが、俺は幼い頃から爺ちゃんという恐ろしく強い雷魔法の使い手が修行相手だったのだ。

 前世知識を含めると雷の対策案を練る事については右に出る者は居ないだろう。


 ミチナ殿やサダ姉とマサードの動きについて議論しながら、俺たちはまた一時間掛けて鎮守府へと帰還した。


 帰還してすぐに感電していた男から鎧を引き剥がす。


「うっ......」


 お? まだ息があるようだ。

 すぐにミチナ様が手当と拘束を指示していた。

 

 男が生きていたのは幸運だ。

 もう一つの可能性を探れる良い機会かもしれない。

 今やるべきは鎧の検証だな。


 鎧の構造は紐や革部分以外は全てが黒鉄で出来ている。

 肌に触れる部分も黒鉄だったので雷が通ったようだ。

 黒鉄の硬度はかなりのもので試しにミチナ様が矢を射ったところ軽く凹み傷がついただけだった。

 今は奇襲から4時間経過したくらいだろうか。

 あの土の下から現れたときに付与したのか、俺たちが到着するまでの間で付与したのかは分からないが4~6時間は維持されているようだ。


 そうして1時間おきに矢を撃っていると、日が沈む頃、遂に矢が黒鉄を貫いた。

 今は奇襲に出撃してから8時間は経過しているので17時くらいか。

 もしかしたら師走に行動を起こしたのには日照時間の短さも関係あるのかもしれないな。

 この世界では基本的に戦を行うのは日が出ている間だけだ。

 付与魔法で鎧の硬度を維持出来るのが8時間程度とすれば、日照時間の短いこの季節を選んだことも頷ける。


 しかし懸念もある。

 ミチナ様の魔法によって千数百になったことで一人当たりに掛ける付与が強化される可能性だ。

 二千居た兵を数百人も減らせたことは大きいが、バンドー8国にはまだ一万以上の戦力が残されているから補充してくる可能性もある。

 補充兵を合わせてまた二千人になるのであればマサードの付与出来る最大数もそうなのだろうと推定出来るが、それ以上を連れて来た場合はまた鎧を鹵獲する必要があるな。


 どちらにしろこの鎧から読み取れる情報はもう無いだろう。

 稼働時間に限界があると分かっただけでも重畳だ。


「随分と熱心に鎧と見合っていたな。何か分かったのか?」

「ええ、父上。実は......」


 俺は鹵獲した鎧から読み取れた情報と推測を父上に話した。

 後はミチナ様に俺が何かしら隠していることがあると疑われていることも。


「なるほど。そうであったか。では此度の戦は必ず勝たねばならんな」

「ご迷惑お掛けして申し訳ありません」

「ふっ。なにも気にするな。我らは最初から勝つ為に来ていたのだからな」


 父上の言葉に感謝していると捕虜が目を覚ましたとの情報が入って来た。



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