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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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九十三話 士気を上げる演出

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 東正鎮守府への先触れの役目を終えると報告の為に夜のうちに父上たちの下へと戻った。

 翌朝になり鎮守府を目指して出発する。

 前村長宅には食材費諸々、感謝の気持ちとして僅かだが対価に見合う分の金子を残しておいた。

 多過ぎて争いの火種になっても困るからな。


 山を越えて右手側、鎮守府よりもさらに奥のほうには雪を被った大きな山が見える。

 あれは霊峰と名高いフシ山だ。

 昨日は暗くて見えなかったフシ山の優美さに感嘆していると、背後のサダ姉は左手側を向いていることに気付いた。

 俺も左に顔を向けるとそこには朝日に照らされたスワ湖が見える。


「湖面がキラキラしていて綺麗......」

「そうですね。ニオノ海でも朝焼けが映える光景は美しいとサイカが言ってましたよ」

「そうなのね? この前は既に日が昇っていたから雄大な事しか分からなかったわ」

「じゃあ今度朝焼けを見に行きましょうか」

「え!?」

「あ、もちろん家族みんなで一緒にですよ?」


 姉弟とはいえ結婚出来る年齢の女性が男と二人で出掛けるなんてサダ姉に瑕疵が付きかねない。

 キチンと家族全員という言葉で補足しておいた。


「はぁ......。そうね。みんなで見に行きましょう。その為にもこの戦いでちゃんと生き残らないとね!」

「もちろん! 誰一人欠けさせません!」


 この戦いで絶対生き残ると信じ、俺たち二人は笑い合う。


「二人ともお喋りはそこまでだ。鎮守府が見えてきたぞ。サダ手筈通りに頼むぞ」

「はい。≪いと高き天より落つる雷よ 我が声に応え豊かな稲魂を授け給え≫ -大雷玉(ダイライギョク)-」


 サダ姉が意識を集中して詠唱し、俺たちの真後ろに大きな雷の玉を作り上げた。


「おぉ!!!!」

「援軍だ! 皇京から”雷光”のヨリツ様がお越しくださったぞ!」

「天馬だ! 主上は我らを見捨ててはおられないのだ!」

「なんという魔力だ。あれがトール家......」


 朝日に照らされる二頭の天馬と一頭の窮奇(キュウキ)

 父上は紫電に身を包み、キント兄は赤い雷、エタケは黄色の雷を纏っている。

 サダ姉と俺の後には大きな雷の玉が浮かんでおり、地上の者からすれば神話の一幕の様に見えているかもしれない。


 そのまま門の手前で地上に降り立つと周囲で感嘆の声が上がる。

 開け放たれた門から中に入るとそれぞれ発動していた魔法を消し去り、父上が一歩前に出た。


「兵部権大輔ヨリツ・トール。主上の命により東正鎮守府への援軍として馳せ参じた! 鎮守府の勇士たちよ! よくぞ今まで守り抜いた! 安心せよ! 我らトール家が必ずや逆徒マサード共を討ち滅ぼしてくれようぞ!!」


「「「おぉおおおおおおおお!!!!」」」と周囲から爆発したかの様な大歓声が上がった。

 やはり父上の将器は凄まじい。

 連敗していた軍でこれだけの士気の爆発を起こせる武将は古今東西にも中々居ない事だろう。


 俺たちは割れんばかりの歓声を一身に受けながら正殿へと入って行った。


「ふぅ。魔法を維持し続けるって疲れるわね」

「お疲れ様。凄くカッコよかったよ」

「......ありがと」


 サダ姉が疲れた様子で小さく一息ついたので俺も小さな声で労った。


「すごい歓声だったな!」

「父上の将才はあれほどのものなのですね……」


 興奮冷めやらぬキント兄と対照的にエタケは少し青くなっていた。

 いつぞや一番強い人に教わりたいからと父上の鍛錬を断ったことを思い出しているのだろう。

 実際に個人の実力としてはムラマル殿の方が上かもしれない。

 しかし戦は個の力だけが全てでは無いのだ。

 

 これから対峙するマサード軍もバンドーの虎マサード・イラという個だけでなく群としても強いのだろう。

 その群を成す部分が個の力に依存したものなのかを確かめる事が出来ればこちらにもまだ勝機はある。


 正殿の奥に着くとミチナ様が鎮座していた。

 昨夜と違って大鎧に身を包んでいる。

 その両脇にはヤスマ殿をはじめとしたテミス家の面々が並んでいた。

 リノブ嬢、レヒラ嬢、ネヨリ嬢の三姉妹は負傷しているようで腕や足などに包帯が見える。

 これまでの二戦で負った怪我だろう。

 痛ましいが命に別条があるようなものではないだけ良かったと安堵するべきなのだろうか。


「ミチナ様、ヨリツ・トール及びキント、サダ、ツナ、エタケの五名、主上の命により参上致しました。これより我がトール家は東正鎮守府の旗下に加わります」

「うむ。よくぞ来たトール家の面々よ! さきほどの参陣の演出も見事だ! アタシも心躍ったぞ! これから暫くの間よろしく頼む」


 ミチナ様がニカッと笑いながら膝をついている父上に近寄ると両手を取って起こした。


「こんな窮地に駆けつけてくれたお前たちは武の御三家という括りだけではなく真の盟友だ! 公の場でも礼儀など気にせず自由に振る舞ってくれ! ははははは!」

「勿体ないお言葉です。では、遠慮なく話させていただきます」


 父上がミチナ様の手を取ったまま頷くと二人は離れてお互いの席へと戻った。

 そして座ったミチナ様の次の一言に場の誰もが言葉を失った。


「さて、早速だが今日これからマサード軍を攻めるぞ」



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