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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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九十話 野薔薇の棘

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 翌早朝、俺たちは支度を整えてミノ(のかみ)ロニワ殿に礼を伝えるとすぐにシナノへ向けて出発した。


「やはりミノからの援軍は期待できませんでしたか」

「うむ。戦への備えはしておくが兵力が心許ないので出陣は後発隊が来てからでないと動けぬと言われた」


 その返事は予想通りだった。

 皇京からは先遣隊とはいえまだ五人しか向かっていない状況でミノ国の兵を送れば、下手をすると真っ先に前線に配置されて多大な被害を被る可能性もある。

 国守がヒノ国全体よりも自国領内を治めることに重きを置くのは当然と言えば当然なのだ。


「だが、ツナの考えた周辺各地へのマサード討滅の詔を届けるという策には乗ってくれた。昨夜のうちに各地へ詔の写しを持たせた早馬を出したようだ。これで我らが向かわずともバンドー諸国内や隣接する各国でマサード討伐への気運が上がるやもしれん」


 それは一安心だ。

 この策を朝議の場で爺ちゃんではなく中立的な貴族に提案させたのが功を奏したようだ。

 中立的と言ってもクジョウ家とは遠縁の方なのでこちら寄りではあるらしいが。


 ちなみに天馬を貸与するという案が大臣たちから出たのには騎獣を管理しているミナ・クジョウ殿が一枚嚙んでいる。

 白角馬の世話をする後継者は育ったが、代わりに天馬を世話する人員が減ったそうだ。

 荘園から天馬の扱いに慣れた者を連れてくるまでの間は世話係が足りなくなるということで、持て余してしまうくらいなら偶には長距離を走らせるのが天馬のためにも良いと、それとなく大臣たち側に情報を流したらしい。

 ミナ殿としては単純に年若い俺たちの負担軽減と移動速度を上げる為の提案だったと聞いている。


 昨夜この話を父上から聞かされた俺は上げた大臣たちの評価を再考する。

 よくよく思い返すと大臣たちはミナ殿に踊らされているだけの気がしてきた......。

 ミナ殿の息子であるナガ殿が暗殺された事件の黒幕は分からず仕舞いだったからな。

 一枚岩ではないとはいえこの国の頂点を牛耳るジワラ家には疑いの目を持っているのだろう。

 ミナ殿が今も虎視眈々と復讐を考えているのだとしたらと想像し背筋に寒気が走る。

 本当に味方で良かった......。


 俺が一人で色々と想像しているうちに本日最初の休憩に入った。

 なるべく開けた森の中に降下し、俺たち兄姉弟妹が二人ずつ順に周囲を哨戒する。

 最初の哨戒はエタケが相方だ。

 どちらも身体強化魔法が使えるので軽く強化して走りながら哨戒していく。


 ふと、先行しているエタケが立ち止まった。


「エタケ、何かあったの?」

「兄様、白いお花がたくさん咲いています! これは野薔薇ですよね?」


 エタケの立ち止まった場所の眼前には蔓性の低木が幾つかの塊で群生しており、たくさんの白く可憐な花を咲かせている。

 まるで森の中に白い花束が並んでいるかのようだ。

 その花は茎に棘を持っておりエタケの言った通り野薔薇、野茨で間違いないだろう。

 師走のこの時期にこれだけ咲き誇っているのは珍しい。


「そうだね。野薔薇で間違いないと思うよ。季節外れに咲いているってことはこの辺りは比較的暖かいのかな。棘があるから無闇に触っちゃ危ないよ」

「はい! 兄様がくれたお花の本で覚えました! 兵部の演習に参加した時に皇京の外で見たことはありましたが、こんなにたくさん咲いているのは初めて見ました!」


 咲き誇るたくさんの野薔薇を前にしてエタケが年頃の女の子らしく笑顔を見せながら楽しそうにピョンピョンと跳ねて喜んでいる。

 そんなエタケを見ていると自然と俺の顔も緩んでいた。


「でもどうして野薔薇には棘があるのですか? 棘が無ければ摘んで花冠が作れるのに......」


 エタケが唇を尖らせて少し拗ねながら質問をしてきた。

 普段あまり見せない拗ねた表情もまた可愛らしく思えてしまいついつい笑みが零れる。


「うーん。動物に食べられないようにとか聞いたことがあるけど、一番の捕食者である虫たちには効果が無いんだよねぇ。後はよく見ればわかると思うんだけど、薔薇の棘は下向きに生えているから、鍵爪の様に他の植物に絡まりやすくなっていて茎が折れ難くするためとかかな」

「なるほど! 身を守ったり引っ掛ける為ですか!」

「まあ、そうなんじゃないかと思われているだけで本当の所は野薔薇が直接答えてくれるまで分からないけどね」


 エタケの質問に何となくこんな理由だったような? と思い出しながら答える。

 曖昧な知識の為、ちゃんとしたことは分からないとだけ付け加えておいた。

 我ながら苦しい言い分である。


 俺の答えから何かを思いついたのかエタケは自分の右掌をじっと見ている。


「何をしているんだい?」

「いえ、身体に纏う雷を全体ではなく茨の様に所々にすれば使用する命素量を減らせないかと思ったのです。ですがこっちの方が棘を形作るのが大変で余計に使ってしまいますね」


 エタケがやっていたのは新たな魔法の生成だった。

 発想力は面白いな。

 あ、俺も魔石を使って雷の紐を作る時に茨の様にも出来るかもしれない?

 でも雷の紐自体が触れれば軽く痛みがあるようなものだから棘を付ける意味がないよな......。


 新たな魔法が生まれるきっかけになりそうだったのだが、もう一歩何かが足りなさそうだ。

 二人でう~んと唸りながら、残りの哨戒を終わらせて父上たちの下へと戻った。



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