八十八話 出立、竜王との再会
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「では、行って参る」
「行ってきます。爺ちゃん、母様」
「うむ。東正鎮守府を、テミス家の者たちを頼む。皇京の守りはワシとルアキラ殿に任せておけば良い。安心して全力で戦ってくるんじゃ」
「ヨリツ様、ご武運を。戦場で子供たちのことを頼みます。キント、サダ、ツナ、エタケも立派にお役目を果たして必ず皆で無事に帰ってくるのですよ」
「「「「はい!」」」」
今日俺たちはシナノの東正鎮守府へ向けて出立する。
先日の話し合いから僅か2日で俺たちの出陣は決まったのだ。
だが、実情はかなり酷い。
それというのも今回はバンドー、セトウチ、イゼイで同時に戦が起きた為、戦の経験が乏しい大臣達が完全に麻痺してしまっているためだ。
こういう時には戦の経験が豊富な権参議である爺ちゃんの意見は重要なはずなのだが、手柄を立てさせたくない大臣達が色々と文句を付けたせいで先発として必要最低限の戦力を向かわせる案がなんとか通った形だ。
その結果バンドーには先発として俺を含むトール家の五人だけが送られることとなってしまった。
激戦必至な東正鎮守府の士気を上げるための先遣隊として少数精鋭を送り込むという名目である。
後発隊は五百名ほど用意するが出立には1週間は準備の時間を要するとのこと。
それを聞いた時に無茶苦茶にも程があると戦を知る役職持ちの貴族たちは憤慨したが、後発隊と一緒に1週間待ってから出立してはおそらくシナノ到着までに更なる時間が掛かることを鑑みると援軍が間に合わない可能性もあるため渋々了承したらしい。
救援の嘆願を受けておいて全く間に合いませんでしたでは全国に示しがつかないからだ。
さすがに反発が大きかった事を危惧したのか、大臣たちは帝のみが所有を許された天馬二頭を貸与するという譲歩をみせたため、俺たち先遣隊のシナノまでの移動時間がかなり短縮されることになった。
天馬とは翼の生えた馬の魔獣で前世の創作物なんかで言うところのペガサスである。
虎に翼が生えた窮奇のように大空を駆けることが出来るうえに持久力が高いので長距離を移動できる騎獣だ。
ただ、ユニコーンである角馬よりも性格は大人しいが繁殖力が低いため角馬よりも希少で帝しか所有を許されていない。
ヒノ国には全部で五頭しか存在しないそうだ。
とても助かることではあるのだが、正直に言えば少しでも傷が付いただけで問題になりそうな主上の天馬を貸し与えられるくらいなら爺ちゃんの参戦を認めてくれたほうが数倍良かった。
それに俺たちは五人居るというのに貸与される天馬は二頭だけというのもふざけている。
せめて三頭は居ないと全員が乗ることは出来ない。
仕方ないのでコゲツも連れて行くしかなくなった。
出来れば各地で何か不測の事態が起きた際にすぐに爺ちゃんが駆けつけられるよう皇京に残しておきたかったのだが、既に決定してある先遣隊の人数を減らすわけにもいかない。
クラマ山からオロシ達、大烏の力を借りられれば良かったのだが基本的にクラマは皇京に不干渉という姿勢だそうで、魔獣討伐ならまだしも反乱のような内輪の争いには手を貸さないのだそうだ。
キイチ師匠には謝られたが、俺も既に第二の家であるクラマがゴタゴタに巻き込まれるのは御免被るので何も気に病まないでほしいと伝えてある。
爺ちゃんと母様、侍女や従者たちに挨拶を済ませた俺たちはそれぞれ騎獣に騎乗した。
青毛と呼ばれる黒い天馬のヒテンには父上、葦毛と呼ばれる白灰色の天馬のヒユウにはエタケとキント兄、コゲツには俺とサダ姉が騎乗することとなった。
「いざ、出発!」
「「「「応!!」」」」
父上の掛け声と共に二頭の天馬、コゲツが天高くへと駆け上がる。
あっと言う間に皇京の結界を抜けてヒエイ山の辺りまでやって来た。
出陣に際して今回は全員が大鎧を身に纏っている。
父上はイゼイの時も身に着けていた紫、キント兄は赤、サダ姉は朱、俺は黄色、エタケは桃色が基調の大鎧だ。
俺とエタケは戦場で実際に戦う時は中に着込んだ軽装に変える予定ではあるが、シナノ到着の際に少しでも味方の士気が上がるようにと見栄えを重視したためである。
しかし、そのせいで騎獣たちには鎧分の重量負荷が掛かっている為、間に何度か休息を取る必要もあるが空を移動する時短があるので一刻を争う現状だからとあまり焦らなくてもいいだろう。
東正鎮守府までは陸路では一度も止まらずぶっ通しで移動したとしても4~5日は掛かるが、最短距離を突っ切る空の移動なら2日半ほどで辿り着くそうだ。
これが多数の兵を率いて兵糧を運んで等となっていれば辿り着くのは2週間近く掛かったことだろう。
準備を含めて辿り着くまでに2週間程度掛かったかもしれないと考えると、俺たち五人で空を駆け3日ならば圧倒的な早さではある。
シナノへは途中で鬼神魔王を名乗る魔族の大嶽丸たちが棲み処としているスズカ山の付近を抜ける必要があるが、陸より遥かに安全に通れるのは大きなメリットだろう。
というか東西の境になっているこんな交通の要衝付近を占拠され続けているのは大きな問題じゃないんだろうか?
大嶽丸たちが今回の反乱に呼応していないのは大きな救いだ。
あそこを塞がれていれば東正鎮守府は見捨てられていた可能性すらあった。
ニオノ海の一番対岸と近い所を横断している時、僅かに水面が光っていたことに気付く。
ニオノ海を統べる竜王のセンシャ様だろうか?
俺は父上たちに一声掛けて光った辺りに降下すると、先ほどの光は強さを増していつの間にか水面の上に人の姿をしたセンシャ様が立っていた。
「おや、ツナ殿ではありませんか。お元気になられたようでなによりです」
「センシャ様お久しぶりにございます! お陰様でこの通り元気になりました。その節は大変お世話になったと爺ちゃんから聞き及んでおります。命を救って頂きありがとうございました!」
「貴女がセンシャ様ですか。我が子の命を救って頂き感謝の念に堪えません」
「オレ様の弟を助けてくれて感謝してる、ます!」
「ツナを助けてくれてありがとうございます!」
「兄様の為に解毒薬を作って下さって感謝申し上げます」
俺がセンシャ様にお礼を伝えると一緒に降下してきた家族たちも口々に感謝を述べた。
キント兄は緊張なのか言葉を噛んでるし。
「ふふっ。妾は約束を守っただけのこと。お気になさらず。それよりも皆さまのそのお姿。何処かで何かあったのですね?」
センシャ様は事も無げに微笑むと、俺たちが大鎧に身を包んでいることを質問なさった。 その質問に対して父上が包み隠さず今回の同時多発的に起きた反乱について魔神の関与という推測も交えて簡潔に説明をすると、目を見開いて大層驚いている。
「なんと魔神が? 霊獣だった大蜈蚣のヒャクを妖魔へと変貌させた悪神の眷属やもしれませんね」
やはりその可能性が高いか。
以前爺ちゃんから神時代に居た魔神の話を聞いた時に、俺もヒャク様が語った悪神のことを思い出していた。
悪神自体が動けない理由があるのかは不明だが、今回の魔神がその悪神と繋がりがあるという推測は当たっていそうだ。
「やはり悪神と繋がりがある可能性が高いのですね。ではもしかしたら今回もヒャク様の時のような妖魔が出るやも?」
「可能性だけで言えばあるでしょう。ですが彼女のような霊獣を妖魔化するには並大抵の魔力と時間では不可能です。現れるとしてもただの妖魔でしょうね」
「ただのと付けられましても妖魔は我らからすれば十分に脅威となりますな。しかし出現する確証の持てない妖魔への備えの為に今から引き返す訳にも……」
俺とセンシャ様の会話から妖魔の出現が危惧されたが絶対に出て来るという保証はないために父上は渋った。
魔神そのものが現れる可能性も捨てきれないので備えは欲しいところだが、ネモト殿が皇京に報告して以降、間者達からも魔神の目撃情報はあがっていないのだ。
「でしたら、妾が武器に陽属性を授けましょう。ツナ殿。鉄棍の中に仕込んだ矢に付与してもよろしいですか? 刀では使っているうちにだんだんと薄れるでしょうから、強い効果を残すにはそれが一番かと」
「!? 何でもお見通しですね。お願いします」
俺はセンシャ様に話した訳でもない仕込み矢が看破されたことに驚いたが、この方は人の記憶を読めるのだと思い出した。
読まれること自体はあまり気分の良いものでは無いがそれを使って害されるわけでもなければ、寧ろそのおかげで命を助けてくれた恩人でもある。
恩返しや対価と考えれば気にするほどのことでもない。
俺はコゲツの鞍に括りつけていた鉄棍から矢を取り出してセンシャ様に渡した。
「記憶を読んだとしてもそれを使って何をする訳でもないのでお気になさらないでくださいね。妾にとって人の記憶とは絵巻などの物語と同じなのです。長い長い霊獣としての生の中では時折他人の記憶を思い返したり、この時にこの人は何を考えていたのだろうと考察するくらいの楽しみしかないのですよ」
センシャ様が右手に矢を握ると温かな光が矢に宿っていくのが見える。
矢に陽属性を付与しながら記憶を読んだことに対しての話をするセンシャ様の表情はこれまでと変わらないはずなのだがどこか寂しげにも見えた。
5分経過した頃には、鉄の矢自体が温かな白い光を放つようになっていた。
その光は以前クラマでキイチ師匠がどこかで込めたいた陽属性よりも明らかに強い光を放っている。
「これくらいで良いでしょう。あまり強くし過ぎて矢が耐えられなくなってもいけませんし。その状態なら次の春までは保てるでしょう」
「ありがとうございます! でも今のでセンシャ様のお力が衰えて浄化が滞ったりはしませんか?」
今が師走だから次の春までと考えると4か月くらいは付与されたままなのか。とんでもないな。
「ツナ殿への血清を作った後に妾も丸々二年ほど眠っていたのでこの通り力も全快と呼べるほど回復しているんですよ。お約束していたニオノ海の浄化は蛟たちと共に既に終えています」
「そうだったのですね! 重ね重ね感謝申し上げます。何か私にお礼が出来ることがあれば仰ってください」
「ふふ。それではお嫌でなければまた数年後にでも記憶を覗かせてくださいな。ツナ殿の記憶は特段興味を惹かれることが多いので」
センシャ様は右手で口元を抑えて笑いながらそう言った。
俺も別に構わないと思ったので大きく頷いて答える。
「それではそろそろ行きますね。本当にありがとうございました!」
「ええ。皆さまもご武運を」
センシャ様に別れを告げると俺たちはまた空高くに上昇しシナノ方面へと騎獣を駆る。
ちらっと振り返るとセンシャ様は竜の姿に変わり水底へと戻っていったようだ。
「綺麗な方だったわね......。ツナはああいう御淑やかな女性が好みなのかしら?」
「美しくて気品もある方だけれどセンシャ様の正体は竜王だよ? まあ、竜のお姿も美しいけれど......」
コゲツの上で俺の背に軽く手を置いているサダ姉が耳元で尋ねてくる。
しかし質問の意味がよく分からなかった俺は何となくセンシャ様と初めて出会ったときの竜の姿を思い出してウンウンと頷いていると、背中でハァ~と大きなため息が聞こえた。




